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再逢の契り
53.
しおりを挟むたとえば怖くて確かめることができなかったわけではなく、
あの気持ちをしいて表してみるなら、知らない未来をとっておきたかったからであったように思う。
沖田と恋仲になれて。彼の墓前で、千代の祈りに気づき。
そして戻ってきて、遂には互いの最も近くにまで届きあうことが叶った。
千代の魂からの使命を完遂した冬乃が、次に真っ先にすべきことは、
そうして変わった沖田の運命の“確認” だったというのに。
彼の最期が。どうなったのかを。
統真が病室を出た後、千秋たちにメールを打ちながらあの時、冬乃にはその機会ならばあった。
だけど何度も、携帯を打つ指が震え。結局それを確かめることは無かった。
(嘘。怖くなかったわけじゃない・・)
それでも、それ以上に、何もかも未来がみえているなんて望まなかったのだ。
歴史の大流もこの時代の誰一人の死期すらも変えられなくても、冬乃の手に届く人々のその刻限までの未来ならば、彼らが望む限りは変えられる。なら最後まで、まだ分からない。
冬乃はそう信じている。
だから、知らなくていいと。
今さら後悔しても・・遅い。
「・・冬乃?」
「総司、さん・・・」
家に着いて沖田の顔を見るなり、その胸へ雪崩れこむように縋りついた冬乃を沖田は、只々抱き締めてくれていた。止まらない冬乃の涙は沖田の着物を濡らし、それでも冬乃は沖田から離れることができなかった。
そう遠くない未来に沖田はその命を終え、冬乃はきっと元の世へと還される。
それでもこれまでは未だあと少し、猶予があった。悲嘆にばかり暮れる日が来るだろう時までは、あともう少しだけ。
なのに今はその“確約された” 未来すら、バラバラとまるで音をたてて崩れ落ち、
もう答えは出ない。
知らないことは幸せなのか。不幸せなのか。
(私は・・)
いつまで沖田の傍に、居られるだろう。
(貴方を護るためになら)
沖田自身にさえ、
許されなくても、浅はかに。
彼の元を去ることを選ぶと。
「冬乃・・」
そんなふうに勝手なことを、心に決めてしまっている。
「ごめ・・・なさ・・」
楽園だと沖田は言ってくれたのに。
冬乃の傍に居ることを。
それなのに冬乃は、
この先もしも感染してしまったなら迷いなく、沖田からその自分という“楽園” を奪おうとしている。
かつて千代のこの魂が、千代という運命の恋人を沖田から奪うよう、冬乃に課したように。
「もう少しだけ・・こうしてて・・」
返事の代わりに、沖田の大きく温かい手が冬乃の頭を撫でる。
冬乃は泣き止んだら口にすべきこの涙の言い訳を、考える力も出ずに。只々強く深く包んでくれる優しい腕に甘え続けた。
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