碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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壊劫の波間

42.

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 まもなく人数がやってきて、男の腕の血が止まるまでは部屋のほうで監禁するのか、それぞれ男を囲うようにして縄を引くと屯所の中心へ向かっていった。
 
 「で、おまえはどこ行くつもりだったの」
 と山野が冬乃を向く。
 
 「俺これから報告に行かなきゃならないし、そこまで念のため送るよ」
 
 「いえ、さすがに屯所内ですし・・」
 「侵入されたってことは、安全じゃねえだろ今」
 
 「あ、安心してよ。俺もう女できたし」
 
 (ん?)
 
 返事を聞かずに歩き出した山野の背を見ながら、冬乃は瞠目した。
 安心、って。冬乃が躊躇したことで、送り狼だと疑われた・・とでも思ったのだろうか。

 なんにせよ、山野に恋人ができたならめでたい。
 というよりも元々激しくモテる山野だ、できるほうが当たり前なのだ。
 
 後ろについてきた冬乃を振り返って山野が、冬乃の横に並ぶように歩調を落とした。
 「どこに送ればいいの」
 「・・道場へお願いします」
 もはや冬乃は素直に返す。
 満足したように山野が微笑った。
 
 向けられたその可愛い笑顔は、だが確かに以前と雰囲気が違う。
 冬乃のことを、
 
 「おまえのこと本気で好きだった」
 
 その頃と。
 
 「・・知ってます」
 
 二度目の知ってますの返事を返しながら、冬乃は。
 もう山野が冬乃を振っきっていて、確かに今その恋人のことを好きなのだと、なんとなく感じ取れて。
 どこか安堵する想いのままに、
 
 「って、なんですか突然」
 山野を細目に見やる。

 山野が笑った。
 
 「いやさ、言っとくけど、これからは俺に惚れたって遅いからって言おうと思って」
 
 「大丈夫です、惚れません」
 
 あいかわらずこの手のやりとりは、この先も続くようだが。
 
 
 「あの隊士の方達が私を助けようとしてくださったのは有難いんですが・・」
 冬乃は仕方なく話題を変える。
 もとい気になっていた事だった。
 
 「あんなに簡単に牢の錠を開けようとしちゃって大丈夫なんでしょうか?」
 かりにも人質だった身でおかしな心配をしているかもしれないが、それでも組に関わる一人として、あれでは気がかりである。
 
 
 「そりゃ、自分の採った判断のせいで冬乃サマに何かあったら、生きた心地しねえし」
 
 「・・へ」
 
 冬乃サマ?
 
 間抜けた声を出してしまった冬乃を、山野が何故か呆れたように見つめてきた。
 「あいかわらず鈍感だな。わかんねえの」
 
 わからないって。
 眼で訴える冬乃に、山野が溜息をつく。
 
 「おまえが沖田さんの女だからだよ」
 
 
 (ええ!?) 
 
 「そんなのっ・・」 
 てか、そんな理由で?!
 
 「総・・沖田様が、もし私にあの場で何かあったって、それで隊士の方々を責めるわけが無いじゃないですか!」
 
 「そんな事は分かってるけど、こっちの気持ちの問題だよ」
 
 「・・・・」
 
 「わかったら、気をつけろよもっと」
 (う)
 
 どうやら叱られたらしい。
 気をつけろと言われても屯所内で刃物で襲われるとはまさか思わないから、と言い訳しそうになって冬乃は口を噤む。
 
 確かに、何があるか分からない時世。屯所の中だからと注意を怠っていた冬乃が悪いのだろう。
 
   
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