碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

文字の大きさ
上 下
379 / 472
壊劫の波間

41.

しおりを挟む
 冬乃が唖然とする前で、隊士達によってみるみるうちに厳重な封印が外されてゆく。
 鎖の部分が解かれ、錠がいよいよ外されようという時。
 
 「おい、余所見してんなよッ」
 
 突如、冬乃達の背後から鳴った声と共に、咄嗟に振り返った男へヒュンッと石のような物が飛んだ。
 慌てて男が、冬乃に向けていた脇差で払おうとし、
 
 冬乃は、脇差が離れた刹那に男から飛び離れて簪を引き抜いた。
 と同時に冬乃の前で、男が声の主の一撃を脇差を捨て大刀でかろうじて受け止め。
 
 キイインと火花の散るようなその幕開けを、
 
 飾った声の主は。
 なんと山野で。
 
 「新選組に単身で乗り込んでまで・・」
 
 すっと男から一旦離れ、山野がチャキリと正眼に構え直す。
 
 「牢破りさせたい仲間は誰だよっ・・と!」
 
 その台詞の終わりが山野の二度目の攻撃の瞬間だった。
 
 「うわああぁぁッ」
 勝負は、一瞬についた。

 男は斬りつけられた両腕から刀を取り落とし、地に膝をつく。
 
 平隊士達が急いで男の止血と捕縛を始める中、山野が冬乃を見やって、にっと微笑った。
 
 「俺、こう見えても強いの」

 もちろんのこと、そんな表情も常ながら美しい。

 「知ってます」
 
 冬乃は、これは助けてもらったうちに入ると次には気づいて、
 「ありがとうございました」
 頭を下げた。
 
 「さて、と」
 どこか照れたような声に、冬乃が顔を上げると、
 
 「俺から報告しとくから何で冬乃サンが捕まってたのか教えて」
 山野が、連絡に走る平隊士の一人を目で見送りつつ、そんな業務的な台詞を告げた。

 「屯所内を歩いてたらいきなり脇差を突き付けられました」
 
 「弟をッ・・弟を返せ!!」
 すっかりお縄にされた男が喚いた。
 
 「弟?」
 山野が男を向く。
 
 「そうだ!田道権右衛門だ!俺の弟はおまえらなんかに捕まるような事はしてない!!」
 
 「それはこれから調べれば判る事だ」
 山野が憤然と返すのへ、
 
 「拷問にかけて無理矢理ありもしないことを自白させるんだろうが!!」
 男は涙さえ浮かべて叫んだ。
 
 
 (この人、新選組を誤解してる・・)
 
 平成の世ではあってはならない拷問という仕組み、しかも冬乃も拷問されかけた身としては、男の抱く恐怖も理解できるものの。
 
 組はなにも捕らえた者を誰でもかれでも拷問にかけたりはしない。
 組にも体制側としての制限がある。
 
 
 組が拷問で問いただす時は、濃厚な嫌疑が存在しながらも証拠が薄い場合、
 または政治的活動なり破壊的活動なりの現行犯であったり、組の人間を襲ってきたような場合であり。
 
 いいかえれば、裁きの場に引き渡すために一時的に身柄を預かる立場の組が、必要以上に労力を割くことはない。
 
 
 「我らは国抜けしてきたが、お上にたてつくような事などしていないッ」
 男の訴えは続く。
 
 「この動乱に、何か我らにもできないかと居てもたってもいられずに京にやってきただけだ!!新選組にだって入れるなら入りたいと思っていたんだ!!それなのに・・ッ」
 
 (え?)
 「なんだって?」
 冬乃の心の声と山野の声が重なった。
 
 「いったい何を誤解されて弟が捕まったのかはしらんが弟は無実だ!!返してくれ!!」
 
 男に繋いだ縄を手に、左右の平隊士達が戸惑った顔を山野に向けた。
 
 
 「・・誤解があったなら、それも調べればわかるさ」
 一呼吸おいて山野は、男に宥めるような声を出した。
 
 「だが俺達だって意味もなくひっ捕らえたりしねえよ。あんたの弟は何か誤解されるだけの事をしたんだ」
 
 山野の言葉に男は一瞬歯を食いしばる。
 
 「それでも簡単に拷問などしない。あんたのこともだよ」
 
 はっと男が顔を上げた。
 そして、がくりと項垂れた。

 組に侵入してきて、冬乃を人質にとって騒ぎを起こしたのだ。男も弟同様、これから拘束されるのは当然だった。
 
 
 (・・・でも本当に誤解だったなら、早く解けるといいね・・)
 冬乃は溜息をついた。
 
 冬乃がひたすら胸に想うことは変わっていない。
 
 
 早く総司さんに逢いたい。
 
 
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...