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壊劫の波間
35.
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「・・っ」
もう逃がさないと。示すかのようで。
その深い抱擁に冬乃が、躰だけでなく容易く心ごと捕らえられてしまうことを、当然の如く分かっているかのように。
「此処に戻ってすぐ続けざまでは辛いだろうと」
冬乃を抱き締めたまま耳元で囁く沖田に、冬乃はうっとりと、とうに魂まで囚われたままに顔を上げる。
「それで昨夜は、逢いに来るのを我慢した」
内に熱を抑え留めるような眼が、そんな冬乃を見下ろした。
「夜番の後で冬乃に逢えば、抱いてしまうから」
冬乃は小さく吐息を零した。
(そんなの、)
それを望んでいるのは、むしろ冬乃のほうなのに。
「私が・・嫌がると、お思いですか・・?」
素直に伝えなあかんえ
お孝の忠告を冬乃は思い起こす。
冬乃のわがままが沖田にとってわがままではない事と、きっと同じなのだ。先に伝えるか、後に伝えるかが違うだけで。
本当はこうしてほしかったと、
それを伝えることを躊躇わなくてもよかったのだと。
「昨夜だって、どんな時だって本当は・・総司さんと少しも“離れて” いたくないんです」
冬乃は沖田の眼を見上げたまま、想いを言葉に託す。
「ですからいつだって・・・来て・・」
だが言いながら、また好色だと思われること確実だと今さら気づいて羞恥に語尾が弱まりながらも、どうしようもなく。
冬乃は只々耳まで熱くなった顔を俯かせ、額を沖田の襟に押し当てた。
(も、もう)
これでは昨日の昼間の事も、冬乃が怒っているはずがないどころか悦んでいたぐらいに改めて確信されてしまったに違いない。
「冬乃」
愛しげな。
冬乃の大好きなその呼び声が。
「最早、俺は夜番のたびに夜這いしそうだ」
清々しいほどの声音を伴って降ってきた。
そしてそのたびに、翌朝は部屋食になる。
と冬乃は内心で嬉しい溜息をついた。
今朝もさっそく部屋食になっている冬乃たちである。
(だけど)
沖田の夜番のたびに翌朝これでは、
この先、土方に気づかれるのも時間の問題な気が。
朝が弱い土方が、自身もよく給仕に持ってこさせて部屋食をしている事も多いのが救いだ。広間に冬乃たちが居なくても、そんな日ならば知られることは無いだろう。
だがそうかと思えば、時々ものすごく早く起き出していて朝食もしっかり広間で食べているものだから、油断も隙も無いのである。
はあ・・
蕩けて気だるい躰を沖田に後ろから支えられながら、先程から冬乃は背後の沖田に甲斐甲斐しく食事をさせてもらっていた。
冬乃に食べさす合間に自分は飄々と平らげてゆく沖田を背に、そして冬乃は、今度は本当に溜息を零してしまった。
「どうしたの」
すぐ後ろで沖田が微笑う。
分かっているくせに。
もう逃がさないと。示すかのようで。
その深い抱擁に冬乃が、躰だけでなく容易く心ごと捕らえられてしまうことを、当然の如く分かっているかのように。
「此処に戻ってすぐ続けざまでは辛いだろうと」
冬乃を抱き締めたまま耳元で囁く沖田に、冬乃はうっとりと、とうに魂まで囚われたままに顔を上げる。
「それで昨夜は、逢いに来るのを我慢した」
内に熱を抑え留めるような眼が、そんな冬乃を見下ろした。
「夜番の後で冬乃に逢えば、抱いてしまうから」
冬乃は小さく吐息を零した。
(そんなの、)
それを望んでいるのは、むしろ冬乃のほうなのに。
「私が・・嫌がると、お思いですか・・?」
素直に伝えなあかんえ
お孝の忠告を冬乃は思い起こす。
冬乃のわがままが沖田にとってわがままではない事と、きっと同じなのだ。先に伝えるか、後に伝えるかが違うだけで。
本当はこうしてほしかったと、
それを伝えることを躊躇わなくてもよかったのだと。
「昨夜だって、どんな時だって本当は・・総司さんと少しも“離れて” いたくないんです」
冬乃は沖田の眼を見上げたまま、想いを言葉に託す。
「ですからいつだって・・・来て・・」
だが言いながら、また好色だと思われること確実だと今さら気づいて羞恥に語尾が弱まりながらも、どうしようもなく。
冬乃は只々耳まで熱くなった顔を俯かせ、額を沖田の襟に押し当てた。
(も、もう)
これでは昨日の昼間の事も、冬乃が怒っているはずがないどころか悦んでいたぐらいに改めて確信されてしまったに違いない。
「冬乃」
愛しげな。
冬乃の大好きなその呼び声が。
「最早、俺は夜番のたびに夜這いしそうだ」
清々しいほどの声音を伴って降ってきた。
そしてそのたびに、翌朝は部屋食になる。
と冬乃は内心で嬉しい溜息をついた。
今朝もさっそく部屋食になっている冬乃たちである。
(だけど)
沖田の夜番のたびに翌朝これでは、
この先、土方に気づかれるのも時間の問題な気が。
朝が弱い土方が、自身もよく給仕に持ってこさせて部屋食をしている事も多いのが救いだ。広間に冬乃たちが居なくても、そんな日ならば知られることは無いだろう。
だがそうかと思えば、時々ものすごく早く起き出していて朝食もしっかり広間で食べているものだから、油断も隙も無いのである。
はあ・・
蕩けて気だるい躰を沖田に後ろから支えられながら、先程から冬乃は背後の沖田に甲斐甲斐しく食事をさせてもらっていた。
冬乃に食べさす合間に自分は飄々と平らげてゆく沖田を背に、そして冬乃は、今度は本当に溜息を零してしまった。
「どうしたの」
すぐ後ろで沖田が微笑う。
分かっているくせに。
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