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壊劫の波間
31.
しおりを挟むだったら教えてあげるよ
その体に。
それが、
冬乃が確かな意識の残るうちに聞いた、最後の言葉で。
冬乃は深く口を塞がれたままに。何度も仰け反って、幾たび顔を背けても、
どんなに激しく揺さぶられても。
冬乃の喉を抜ける嬌の声を堰き止めるその大きな手が外れることはなく。
ついには呼吸が追いつかずに冬乃はやがて、目の前で光が弾けた最後の瞬間にやっと解放された唇で激しく吐息を乱しながら、
強烈な眠気に引かれるようにして冬乃を覆うままの光の内へと意識が、まるで螺旋を描いて落下してゆくのをみて。
目が覚めた時には、辺りは暗くなっていた。
いつのまに敷かれたのか、冬乃は布団の中にいて。服も着せられていた。
これでは結果的に“寝かしつけられた” も同然で、つまり沖田の意図した通りに仕事から離れて休んでいる状態であることに、冬乃は次の瞬間には思い至って、
(&%$#*@!!)
言葉にならない言葉をおもわず心で叫んだ。
仕事をこなせなかった上に駄々をこねた冬乃が悪いのは重々承知している。だけど、してやられたような気分に陥る。
(そ、それにまっ昼間の屯所だったのに・・・っ!!)
しかもよりによって近藤の仕事を一時抜け出していた間である。
それなりの時間の経過のわけを近藤には一体なんと言ったのか。想像すれば冬乃は眩暈がしてきた。
それにしても一年近くも我慢してくれていたあの沖田と今日の沖田が、とても同じ存在だとは思えない。
冬乃はいつまでたっても謎なままの沖田に、やるせない溜息をついた。
否、男という生き物自体をまだ冬乃は全然理解できていないのだろうか。
「起きたね」
不意に襖が開き、冬乃は現れた沖田を目に、がばっと身を起こした。
(あ)
勢い良すぎて視界に星が散り、冬乃は慌てて片手を後ろに突く。
「大丈夫か」
とたん心配そうに尋ねてきた沖田に、冬乃は「はい」と小さく答えながら、
「近藤様には何て・・・」
怖々と問い返した。
布団の真横まで来た沖田が、その場で袴を捌いて胡坐を掻いた。
「未来から戻ったばかりで疲れているようだから寝かせた、と、寝つくまで傍に居た」
「・・・」
悪戯な眼で微笑う沖田に、冬乃はもう何も言えない。口を始終塞がれていたとはいえ、本当に一切聞こえずに済んだのだろうか。怖くて知りたくもないけども。
「よく眠れた?」
あろうことか、さらに悪戯な眼差しで冬乃を覗き込む沖田に。
そして冬乃は、
小さな抗議を示すべく。頬を膨らませてみせた。眼を見つめていられないので顔は背けたが。
伝わったのか伝わっていないのか、
不明ながら。
冬乃はなぜか、激しい抱擁で迎えられた。
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