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【 第三部 】 愛の記憶
12.
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武士同士で手を繋ぐどころか。
(こういう所に入ってっちゃうの・・?!)
冬乃ははらはらと隣の沖田へ視線を移す。
どうしたのと哂うように、沖田がそんな冬乃を見返した。
「服を乾かしに来ただけだが。何か期待してる?」
(・・・いじわる!)
冬乃は真っ赤になって顔ごと背けた。「冬乃」と愛しげな声音が追ってくる。
「おいで」
(・・・・)
その呼びかけに、
わんこ冬乃は弱いということを。絶対、沖田はもう分かって使っているに違いないと。
傘を閉じ暖簾を上げて入ってゆく沖田の背を見やりながら、冬乃は内心白旗を振り。まもなく彼の後へと続いた。
内装も、まるで本当に普通の家のようだった。
だが顔を伏せたまま出てきた、この茶屋の主人らしき人以外には、全くといって人の居る気配が無い。
(なんか不思議な雰囲気・・)
男の案内に導かれ、冬乃達は二階へ向かう。廊下の左右奥にそれぞれ土壁を挟んで部屋がひとつずつあるようだ。片方の部屋へと進み、冬乃達の前で開けられた襖の向こうには、
大きく派手な屏風が、目隠しのように入口に構えていた。
目を見開いた冬乃の、前を遠慮がちに男がすり抜けて、一度も顔を上げなかった彼はその場で「ごゆるりと」とだけ言って慇懃に腰を曲げると、一階へと戻っていった。
沖田を見れば、にっこりと彼は微笑み返してきた。
にこやかなくせにどこか悪戯なその眼に、あいかわらず冬乃の心臓が跳ねる。
部屋へと入ってゆく沖田に続き、襖を閉めながらどきどきと煩くなる胸で息をした冬乃は、屏風の向こうに並んだ二つの布団を目にしたとき、今度こそ心臓を激しく跳ねさせた。
(あ・・あからさま・・!)
部屋の中央で、存在感を醸しているその布団の上には、
昼下がりの気だるさを誘う外の薄光が、格子窓の影を朧ろにともない落ちていて、
その奥には、未だ火の点されていない行灯と、申し訳程度の床の間に生けられる二輪の花。
「早く脱いだほうがいい」
はっと冬乃は声の沖田を見やった。床の間と反対側の衣桁の前で、すでに上着を脱いでいる。
(あ)
冬乃は屏風の裏で脱ごうと入口へ戻りかけた、
「こっちで」
すぐに沖田の声に捕まり。
(うう)
いつまでたっても気恥ずかしさが残る冬乃は、当然、沖田の目の前で脱ぎ出すなどということは。
「全部脱ぐようにね」
(できないですから・・・!)
「し、下の襦袢は濡れてませんっ」
「襟は濡れてるだろ」
(そ・うですけどッ)
「でも、そのくらいならだいじょ」
「いいから脱ぐ」
有無を言わさぬ“ご主人様” の命令に。
冬乃はすごすごと沖田の前まで向かった。
あいかわらず奥ゆかしいのは冬乃の魅力でもあるものの。
じっとりと襟を濡らしたままでいれば、首元から冷えるではないかと。ただでさえ寒がりだというに。
沖田は目の前までやってきた冬乃が自ら脱ぎだすのを待たず、結局さっさと脱がしにかかった。
一瞬少しばかり抵抗した冬乃は、だがすぐに諦めたのかおとなしくなり。
沖田にされるがままに、頬を染めて俯いている冬乃を見ているうちにそして沖田のほうは、先ほど冬乃を揶揄っておきながら本当に妙な気になってきてしまった。
もとい、乾くまでには時間がかかる。
その間に裸の冬乃が冷えないよう、布団の中で抱き締めているつもりだったが、そんなことをしていれば己が辛くなってくるのは、端から分かっていた事だ。
だが今朝も屯所へ戻る前に、ひとしきり、
昨夜も勿論のこと、
今夜も家へ帰れば、またそうなるのは目に見えている。
(抱きすぎだろ・・・・)
己に呆れてみるが、否。どうしろというのか。
盛りのついた犬猫じゃあるまいし、
冬乃は沖田が求めれば決して拒まぬのだから、沖田の側が自制すべきなのだろうが。
しかし考えてみれば、
冬乃はいったい昨今の状況をどう思っているのか。
元々感度が良かったが、このところは沖田が気を付けないと冬乃はほぼ毎回、気を失うほど感じて、
相応に彼女の体の負担になっていることには違いないだろう。
初めの頃と比べ、近藤に確認しても仕事が手につかないといった様子ももう無いらしいが、
じつは気取られぬよう励んでいるだけであったりしたら。
「・・・」
沖田はおもわず冬乃を覗き込んだ。
気づいた冬乃が、その桃色の頬のまま沖田を見上げてくる。
(こういう所に入ってっちゃうの・・?!)
冬乃ははらはらと隣の沖田へ視線を移す。
どうしたのと哂うように、沖田がそんな冬乃を見返した。
「服を乾かしに来ただけだが。何か期待してる?」
(・・・いじわる!)
冬乃は真っ赤になって顔ごと背けた。「冬乃」と愛しげな声音が追ってくる。
「おいで」
(・・・・)
その呼びかけに、
わんこ冬乃は弱いということを。絶対、沖田はもう分かって使っているに違いないと。
傘を閉じ暖簾を上げて入ってゆく沖田の背を見やりながら、冬乃は内心白旗を振り。まもなく彼の後へと続いた。
内装も、まるで本当に普通の家のようだった。
だが顔を伏せたまま出てきた、この茶屋の主人らしき人以外には、全くといって人の居る気配が無い。
(なんか不思議な雰囲気・・)
男の案内に導かれ、冬乃達は二階へ向かう。廊下の左右奥にそれぞれ土壁を挟んで部屋がひとつずつあるようだ。片方の部屋へと進み、冬乃達の前で開けられた襖の向こうには、
大きく派手な屏風が、目隠しのように入口に構えていた。
目を見開いた冬乃の、前を遠慮がちに男がすり抜けて、一度も顔を上げなかった彼はその場で「ごゆるりと」とだけ言って慇懃に腰を曲げると、一階へと戻っていった。
沖田を見れば、にっこりと彼は微笑み返してきた。
にこやかなくせにどこか悪戯なその眼に、あいかわらず冬乃の心臓が跳ねる。
部屋へと入ってゆく沖田に続き、襖を閉めながらどきどきと煩くなる胸で息をした冬乃は、屏風の向こうに並んだ二つの布団を目にしたとき、今度こそ心臓を激しく跳ねさせた。
(あ・・あからさま・・!)
部屋の中央で、存在感を醸しているその布団の上には、
昼下がりの気だるさを誘う外の薄光が、格子窓の影を朧ろにともない落ちていて、
その奥には、未だ火の点されていない行灯と、申し訳程度の床の間に生けられる二輪の花。
「早く脱いだほうがいい」
はっと冬乃は声の沖田を見やった。床の間と反対側の衣桁の前で、すでに上着を脱いでいる。
(あ)
冬乃は屏風の裏で脱ごうと入口へ戻りかけた、
「こっちで」
すぐに沖田の声に捕まり。
(うう)
いつまでたっても気恥ずかしさが残る冬乃は、当然、沖田の目の前で脱ぎ出すなどということは。
「全部脱ぐようにね」
(できないですから・・・!)
「し、下の襦袢は濡れてませんっ」
「襟は濡れてるだろ」
(そ・うですけどッ)
「でも、そのくらいならだいじょ」
「いいから脱ぐ」
有無を言わさぬ“ご主人様” の命令に。
冬乃はすごすごと沖田の前まで向かった。
あいかわらず奥ゆかしいのは冬乃の魅力でもあるものの。
じっとりと襟を濡らしたままでいれば、首元から冷えるではないかと。ただでさえ寒がりだというに。
沖田は目の前までやってきた冬乃が自ら脱ぎだすのを待たず、結局さっさと脱がしにかかった。
一瞬少しばかり抵抗した冬乃は、だがすぐに諦めたのかおとなしくなり。
沖田にされるがままに、頬を染めて俯いている冬乃を見ているうちにそして沖田のほうは、先ほど冬乃を揶揄っておきながら本当に妙な気になってきてしまった。
もとい、乾くまでには時間がかかる。
その間に裸の冬乃が冷えないよう、布団の中で抱き締めているつもりだったが、そんなことをしていれば己が辛くなってくるのは、端から分かっていた事だ。
だが今朝も屯所へ戻る前に、ひとしきり、
昨夜も勿論のこと、
今夜も家へ帰れば、またそうなるのは目に見えている。
(抱きすぎだろ・・・・)
己に呆れてみるが、否。どうしろというのか。
盛りのついた犬猫じゃあるまいし、
冬乃は沖田が求めれば決して拒まぬのだから、沖田の側が自制すべきなのだろうが。
しかし考えてみれば、
冬乃はいったい昨今の状況をどう思っているのか。
元々感度が良かったが、このところは沖田が気を付けないと冬乃はほぼ毎回、気を失うほど感じて、
相応に彼女の体の負担になっていることには違いないだろう。
初めの頃と比べ、近藤に確認しても仕事が手につかないといった様子ももう無いらしいが、
じつは気取られぬよう励んでいるだけであったりしたら。
「・・・」
沖田はおもわず冬乃を覗き込んだ。
気づいた冬乃が、その桃色の頬のまま沖田を見上げてくる。
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