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【 第三部 】 愛の記憶
3.
しおりを挟む「何をまた、考えてるの」
声が降ってきて冬乃はどきりと顔を上げた。
いつのまに目を覚ましたのか、沖田がその優しい眼差しで冬乃を見下ろしている。
「総司さん・・のコトです」
沖田が笑った。
「眉間に皺」
沖田の指先に眉間をなぞられ、冬乃は押し黙る。
おもえば昨日は震えながら、今は眉間に皺を寄せながら沖田の事を考えていたというのも、確かにどうなのかと。
「薬が効いてない?」
だが次に投げられたことばに冬乃はどきりと沖田を見返した。
「・・・すごく効いてます」
一瞬に昨夜を思い出して紅潮した冬乃の額には、優しい口づけが降ってくる。
(だ、だって)
夜の巡察から帰ってきた沖田が、冬乃の部屋を訪ねたのは屯所じゅうがすっかり寝静まった頃。
今夜は沖田の腕のなかで眠れるのだと、喜色一杯に迎えた冬乃を
見るなり激しく掻き抱いてきた沖田に、
冬乃は、ようやく気づいて。
昼間沖田の言っていた、薬の意味を。
それからは。
(屯所なのに・・)
土方に知られたら即、接触禁止令が発令されるようなことを。して。
冬乃にとっては、沖田になら何をされたって喜んでしまうくらい、彼とのすべてが毒のようなのだから。
それは不可抗力というもの。
そう、中毒という名の。
「総司さんは、」
彼を形容する薬を冬乃は考えてみる。
万能薬、
睡眠薬、
気つけ薬、
特効薬、
(って、ありすぎ)
そして
麻薬、
・・・媚薬。
(ん。ぴったり)
「私には、媚薬みたいですから。効きすぎるくらい」
「・・冬乃」
また分かってないね
と微笑んだ沖田の眼が、なぜか細まった。
「どっちが、朝っぱらから強烈な媚薬なのか」
「え?」
もはや危険なため。
それから土方と顔を合わせる広間になぞ、行けなくなった冬乃は。
この毒が抜けるのは一体いつになるだろうかと、
沖田の持ち込んだ朝餉を共に食べながら、この後の近藤に気だるい身の胸内で早くも詫びていた。
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