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うき世の楽園
247.
しおりを挟む背から抱き包められたまま、冬乃は目の前の本をたどたどしく読みあげる。
「よく読めました」
当然ご褒美は、ぎゅ、で。
難しい箇所をなんとか間違えずに読めば、そうして強く抱きこまれ、時々うなじへの口づけまで降って、冬乃は恍惚と溜息をついて。
(集中できない・・!)
嬉しい悲鳴を内心あげる。
それでもまだ先ほどまでの、仕事がほとんど手につかなかった状態よりは、マシなのである。
(仕事中もずっとこうしててもらえたらいいのに)
近藤の目の前でこれはありえないので、叶わぬ希望でしかないが。
「俺がいない時も」
不意に落とされた言葉に冬乃は、どきりと顔を上げた。
「心のほうが冬乃のそばにいる、」
「そう思ってもらうだけでは“薬” にはなりえない?」
まるで。またも冬乃の思考を読まれたかの台詞に、冬乃はおもわず沖田を振り返っていた。
(総司・・さん)
きっと、この恋わずらいというものは。肉体のわずらいで。
片時も離れたくない、そんな魂の希求を
満たす唯一のすべが、魂が肉体に拘束されるこの世においては、その肉体でのふれあいである以上。避けられないさだめ。
心ならずっと、互いにもう傍にいるというのに。それなのに、その優しい声を聴いて、愛しい姿を見て、腕のぬくもりを感じて、大好きな芳りに包まれていたいと、求めてしまうのだから。
(・・それでも)
すべてが時の壁に阻まれていたあの頃と比べたら、
体が離れていても、心だけでも傍にいることの叶うひとときは、どれほど贅沢なことだろう。そう思えば冬乃は、昔の自分自身に詫びたくなる。
(わかってる・・けど、)
自分ではどうしようもないから病なのだ、
冬乃は胸内で小さく言い訳し。
「なります・・」
嘘の返事で、沖田から目を逸らした。
あいかわらず、お見通しのように。
ふっと喉で哂った沖田の、温かい手がそんな冬乃の髪をそっと撫で。
「まあ今のは、俺が己に言い聞かせてるようなものだが」
(え?)
驚いて再び沖田に目を合わせた冬乃に、
「冬乃という薬が必要なのは、俺も同じ」
「それも、恐らく冬乃がわずらう、ずっと前からね・・」
穏やかに微笑う澄んだ双眸が。見開いた冬乃の瞳に映った。
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