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うき世の楽園
244.
しおりを挟む「・・え」
襖を開けた近藤が冬乃の顔を見るなり告げてきた言葉に、冬乃は震えそうになった。
歓喜のあまり。
「で・・すが、この後のお仕事は、よろしいのですか・・・」
「ああ。それに、これだって立派に仕事だ」
どう考えても、気を遣われたのだと分かる。
「あ・・ありがとうございます・・!」
承知しました、と言うかわりに御礼を言ってしまった冬乃が、そのまま向かった先は。
「来たね。おいで」
「総司さんっ」
沖田の部屋。
すでに土方から借りた文机が用意されていた。
難しそうな本も。
「よろしくおねがいします・・!」
読解講座の再開である。
恐らく、名目上の。
昼寝でもするかと部屋に戻る道すがら、土方が呼び止めてきた。
「非番を返上しろ。緊急の任務を与える」
何事かと立ち止まると、
「近藤さんのためだ」
傘をもたげて沖田を見上げながら、土方がわざとらしい溜息をついた。
「おまえのせいで病になってる女を至急、なんとかしろ」
聞けば、恋わずらいの冬乃と出くわした土方は、その足で先ほど広間へ向かい、昼餉をとっていた近藤と打ち合わせて、
冬乃を夜まで沖田のそばに居させることに決めたのだという。
名目上は、冬乃の読解能力をより高めるためとのことで。
「文句ねえな?」
「あるわけないですよ」
今日は冬乃が仕事だから我慢していたが、これで堂々とそばに居られるなら願ったりである。
「これ以上、惚れさせるな。おまえに惚れた女が狂うのは知ってるだろが」
「・・・」
さすがに今の台詞にはまじまじと土方を見返した沖田の目に、
どうも揶揄ではなく真剣に言っているらしい土方が映った。
「・・無理ですよ」
冬乃になら。もっと狂ってもらいたい。
それが本音だ。
「俺がすでに冬乃に狂ってんだから」
頭を抱えだした土方を背に、沖田は部屋へ戻った。
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