碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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うき世の楽園

243.

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 しとしと降る雨の中、
 とぼとぼ歩む冬乃が、傘に隠れてよけいに前を見れていなかったのも当然で、
 
 コケー!
 
 さしかかった建物の高床から突然飛び降りてきたニワトリに、冬乃は危うく衝突されそうになって。
 咄嗟に避けたところを、
 「きゃあ」
 雨に濡れた砂利で足を滑らせた。
 
 がしりと背後から支えられ。
 
 驚いてそのまま顔を上げた冬乃の瞳に、呆れた顔の土方が映った。
 
 
 「なにやってんだよ、気をつけろ」
 
 「あ・・りがとうございます」

 いつのまに背後に土方が来ていたのかと驚きつつも、慌てて礼を言う。
 彼がいなければ今頃、冬乃は雨のなか尻もちをついていたことだろう。
 
 傘を片手に、土方に傾いていた身をまっすぐ立たせてもらいながら、冬乃は土方のほうへ向き直り今一度「ありがとうございました」と頭を下げた。
 
 「恋わずらい、丸出しだな」
 
 突如に続いた土方の指摘に、冬乃は一瞬声も出ない。
 
 やはり土方には完全にお見通しらしい。
 
 (どうしてそう、いつも鋭いんですか)

 ひやりと背に冷汗をおぼえながら冬乃は、なんとか横に首を振ってみせた。
 
 「ただ考え事してただけです」
 
 「頼むから近藤さんに迷惑かけんなよ」
 
 「・・・・」
 
 最早ぐうの音もでない冬乃に、
 「図星かよ」と土方が溜息をつく。
 
 
 「総司は今どこにいる」
 
 さらに突如続いた問いに、冬乃は目を瞬かせた。
 それを聞いていったい沖田に会ったら何を言う気なのか。
 
 「ぞ、ぞんじません」
 「あいつは今日、夜まで非番だったよな」
 
 はらはらと頷いてみせる冬乃に。
 
 なぜか、土方はにやりと哂った。
 
 (え)
 
 そのまま昼餉の広間のほうへ行ってしまった土方を見やりながら、冬乃はこれまでとは別の意味で眩暈をおぼえる。
 
 
 コケ・・
 
 先程のニワトリが、冬乃の前で地面をつついていた。
 
 豚同様、ほぼ放し飼いをしているせいで、屯所内はかるく動物園の様相があり。
 ノラの犬や猫も自由に出入りしているのにニワトリが単体行動していて大丈夫なのか、冬乃は時々心配になるものの、
 
 そうして生き抜いたニワトリを今度は隊士達が食べてしまうのだから、何とも言えない。
 冬乃は、ニワトリを避けて再び歩みだした。
 
 
 幹部棟に今度は無事に辿り着き。
 
 近藤の部屋の前で冬乃は声を掛けたが、返事がなかった。
 
 (お昼ごはんに行ったのかな)
 
 「失礼します」
 居ないのはわかっていても声をかけて冬乃は襖を開ける。
 掃除をして待っていることにし、部屋を横断すると掃除道具を取りに縁側へと降りた。
 











  *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*






 
 【ちょこっとおしらせ】


本編のスピンオフ的ものがたりを『新選組の漢達』で連載しています。
ほとんどのお話は、本編の一場面の内容を再構成・再執筆したものですが、

今回投稿した章『斎藤一の尾行』は、本編には一切でてこない話となるため、
宜しければご興味ある方は、ぜひお立ち寄りくださいませ^^

いつもながらのクールな斎藤さん(&いつもながらの飄々沖田さん)が登場します・・・v






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