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うき世の楽園
235.
しおりを挟む「この襦袢・・」
(・・あ)
どきりと、瞼を擡げた冬乃の上で、
沖田がその目を細めて微笑った。
それへ余計にどきりとした冬乃の、視界の端に、
「触り心地が冬乃の肌のよう」
繻子の手触りと、冬乃の肌のそれとを行き来しながら愉しむかの、浅黒い手が映り。
「・・尤も、すべすべでそれでいて吸い付いてくるこっちのほうが、もっと好いけどね」
そう言い、冬乃の肌の側で止まった沖田の手が。
そのまま襦袢の下を潜り進むと、今度こそ冬乃の肩から片襟を落としきった。
ひやりと受けた涼感は、
追って肩先へと落とされゆく愛でるような口づけの熱感にとってかわられて、
冬乃は、ぞくりと奔りぬける常の痺れに、再びきゅっと目を瞑る。
「にしても、こんなの着てたか?・・」
先ほど脱衣所で冬乃が着替えたものとは違うと、すっかり気づかれている様子に、
更にどきりと冬乃は。すぐまた目を開けた。
「あ・・と、汗をかいて・・それで着替えて・・」
あの短時間で?
とでも言いたげに微笑う眼と、かち合う。
最早かあっと顔が火照って横を向いた冬乃に、だがいつもながら沖田は深追いはせず。
「良い色だね。似合ってるよ」
代わりにそんな台詞をくれて。
(あ・・・)
完全に冬乃の体の左右へと除けられた袷の下、艶やかな襦袢の胸紐がするりと解かれた。
すでに露わな冬乃の片肩には、更なる口づけが降らされ。
「…ん…」
その口づけは、まもなく解いた紐を絡めて前を開かれゆく襦袢に、沿って、
零れ出る冬乃の胸元へと、徐々に下ってゆき。
行灯の火のつくる朧ろな影が、
冬乃の肌を辿る沖田の、顔半分を薄闇にとかした。
半分の、光が当たる浅黒い彼の顔が、
そして冬乃の白い乳房の、頂へと。その舌を這わせ。
瞳に映った、その光景に。
「あ、…ぁ」
冬乃は我にかえった。
「明かりを…っ…消してくださ……」
応えてはくれずに。
その影は、冬乃の上で波打ち始める。
「ぁ…ん……っ」
舌先で、唇で。
広い掌で、指先で。
施されてゆく深い愛撫に、
「…ぁ、…だめ…っん」
急激に押し寄せる、迸るような快感に。
呑まれまいと、冬乃が懸命に身を捩っても。
「やぁっ…ぁ…ぁん…!」
冬乃の喉をすべり抜けてしまう声は、悲鳴まじりの嬌声。
制止を訴える言葉など、まるで押しやられて。
それでも冬乃は、霞みそうな理性に残る羞恥心の内から、必死に声をあげた。
「待っ…おねが…っ総、司さ…ん…っ…!」
「・・・だから」
ふう、と。冬乃の頂へ溜息を吹きかけて、沖田が冬乃の肌から顔を上げた。
「待てないと言ってるのに」
微笑う沖田を。
冬乃の涙に滲んだ瞳が見上げる。
「これも惚れた弱みだな・・」
(え?)
沖田は色づいた冬乃の肌を見下ろし、今一度口づけると。やおら立ち上がった。
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