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うき世の楽園
234.
しおりを挟むつらりと揺れる火に、ふたりの影が形作られ。
分かつ影をひとつへ重ねあうように。
冬乃を布団に降ろすとともに沖田は冬乃へ覆い被さり、強く抱き締めた。
「…っ」
冬乃は、壊れそうなほど高鳴る鼓動に乱された息を、沖田の力強い抱擁に圧されて零した。
同時に額に落とされた口づけは、冬乃の濡れた睫毛から瞼、鼻先にまで続いておりて、
そのまま沖田の大きな手に片頬を包まれた冬乃は、緊張で張りつめていた心ごと優しく包まれるような感をおぼえた。
「冬乃・・」
続いたその声は、
なのに。冬乃の鼓動を加速させるほど、危うい熱を、孕んで。
おもわず見上げた冬乃の瞳には、その声音とたがわぬ熱のちらつく双眸が映った。
(総司さ・・)
息を呑んだ冬乃の、
頬は包まれたままに、沖田の太い親指の先で冬乃の唇はゆっくりと、なぞられてゆく。
ただそれだけの刺激にも、冬乃の息は震えた、
その吐息は。
「…ん…っ…」
次には深く、塞がれた。
身の奥から冬乃を押し上げるような痺れが、幾筋も奔り抜けて、
沖田の重みごと背から布団に沈み込んだままの冬乃は、
そのいつにもまして濃厚な口づけを一心に受けとめて、沖田の襟を咄嗟に掴んだはずの冬乃の手には、みるみる力が入らなくなって。
気づけば冬乃の背は、沖田の片腕で軽々と持ち上げられるなり、前へと回された帯結びがするする解かれゆく布音を聞いた。
(あっ・・)
それへ目を開きかけた刹那、
侵入してきた舌に。
最早冬乃は、息継ぐ間さえもてないほどに。蹂躙され。
漸く、唇が解放された頃には冬乃は、激しく胸を上下させ、涙まで滲んだ瞳を戸惑いを隠せず大きく見開いた。
「総…司さ…」
いつもの沖田と、違う。
それをすでに、彼本人が先に宣言したも同然とはいえ、
迫りくるような勢いに、冬乃は圧倒されて。止めたくて沖田の肩にかけた冬乃の両手は、あっさり捕られて左右へ組み敷かれる。
「…ん、待っ…」
激しく整わないまま乱れた息のなかで冬乃は、次には首すじに強い口づけを受けて、身を仰け反らせた。
「・・冬乃」
くぐもった低い声が、冬乃を押さえつけながら肌を辿り下る沖田から届いて。
「止められないと、言っただろ・・」
その言葉に、はっと胸元の沖田を見た冬乃を。
顔を上げた沖田の、強く熱を孕んだ眼が見下ろし。
(・・あ)
だが常の、愛しげに冬乃を慈しむ優しさがそれでも、そこには垣間見えて。
冬乃は。ほっと脱力した。
刹那に、
武骨な手が一瞬にして、冬乃の襟を割り入った。
「…ひゃっ…ン!」
その手は迷うことなく、冬乃の胸を鷲掴みして、その指先は頂を擽るように弄りだし、
「あ、ぁ…っ……」
抗えない快感の波は、次々と再び冬乃を襲いはじめた。
最早なすすべなくいやいやと首を振る冬乃の上で、
沖田が残る片手を冬乃の対の胸へ潜り込ませ、すでに帯を失って撓む袷を、襦袢ごと肌の上から滑らせるように開いてゆき。
まもなく冬乃の肩が露わになるという時。
だが沖田の動きが、つと止まった。
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