312 / 472
うき世の楽園
221.
しおりを挟む(あの人・・)
お鈴のお供の太兵衛だ。応接間の前で佇んでいる。
(なんで中に居ないの)
廊下を進み近づく冬乃に、まもなく太兵衛は気が付いて丁寧に会釈をしてきた。
冬乃も会釈を返して、手にした沖田用と二人のおかわり分の茶へ、太兵衛が視線を向けるのを見た。
「有難うございます。手前のほうでお預かりさせてくださいませんか」
変なことをいう太兵衛に、冬乃は理解まで及ばずに動きが止まって。
太兵衛がそんな冬乃に遠慮がちに促すようにして、盆のほうへと両手を差し出してきた。
「あ・・の、どうかなさったのでしょうか・・」
漸う紡ぎだした冬乃の問いかけに、太兵衛の両手が宙に留まる。
「少々、・・お人払いをお嬢様に頼まれまして・・・申し訳ございません」
「・・・」
いったい、中で何を話しているのか。
助けてもらった礼に、人払いをしなくてはならないような会話が伴うものなのか。冬乃には想像ができない。
いつのまにか握りこんでいた盆の縁から、掌に圧迫の痛みを感じて。冬乃はむりやり乱入したくなる想いを次には押し込め、太兵衛へ盆を差し出した。
「・・それではよろしくお願いいたします」
太兵衛が恐縮した様子で、盆を受け取った。
時。
「気遣いは不要ですよ。彼女も、太兵衛さんも、入ってもらって結構です」
襖の外での冬乃達の会話が中へ筒抜けだったのか、沖田の声がした。
「そんな・・っ」
中から続けてお鈴の戸惑った声がして。
冬乃はもう。何が何なのか分からず、怖々と襖を開けた。
両刀を片手にさげて立つ沖田と、彼の胴に腕を回してしがみついているお鈴の姿が。目に飛び込んできた。
0
お気に入りに追加
926
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる