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うき世の楽園
213.
しおりを挟む「・・ああ、そうだ、」
つと思い出したように呟かれた声を受けて。冬乃は目を開けた。
眠れそうにないと思っていたのに、温かな腕のなか深い安堵感に包まれてまどろんでいたようだと。
うつつに引き戻されるようにして冬乃は、驚きながら沖田を見上げた。
もっとも未だ、最後に咳をした時から、ものの数分と経ってはいないだろう。
「近いうち、」
沖田が冬乃に腕枕をしたまま常の優しい眼で見下ろしてくる。
「お千代さん達が、診察に来てくれるはずだ」
穏やかなその眼差しを。冬乃は瞠目のうちに見返していた。
「お千代さんが・・ですか?」
「ああ、そういえば、」
沖田が冬乃の動揺をどう受け止めたのか、さらに思い出した事が出てきた様子で続ける。
「前にここへ彼女が来たよ、確か先々月だったか」
(え)
もう冬乃は、完全に冴えてしまった目を瞬かせ、声もなく沖田を見つめた。
「冬乃が数月も顔を出さないのを心配して来たらしい。お千代さんに冬乃が未来のことを伝えているのかが分からなかったから、俺のほうからは、冬乃は江戸に帰っていると言っておいた」
「あ・・」
冬乃は幾分かの安堵とともに、千代に申し訳なくなって。
大体にして、冬乃が千代と何度か会っていたことも、沖田からしたら初耳だっただろう。その事には当然、千代も沖田と話すうちに気づいたに違いなく。
何故、会っていたことを沖田に対して伏せられていたのか、人を疑うことのない千代ならあれこれ勘繰ることは無いだろうとしても。違和感くらいはおぼえたのではないか。
(ごめんなさい、お千代さん)
「お千代さんは医者の仕事を始めているそうだね」
「はい・・・」
冬乃はもう沖田の目を見れずに、逸らした。
「昼に外に出た時、冬乃の診察をしてもらおうとお千代さん達を訪ねたが不在だった。置手紙をしてきたから、早ければ今日明日にでも来てくれるだろう」
(ごめんなさい、総司さん)
「ありがとうございます・・」
何も追及してこない沖田に、冬乃は救われてしまいながら小さく頭を下げた。
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