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うき世の楽園
210.
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(え、)
明らかに平気ではない。
まだ待ってほしいと伝えようとした冬乃の、
「いいよ」
上でしかし一寸先に。沖田が返答した。
(わあああ)
がらりと襖が開き。
「ちょ沖田、冬乃ちゃんに何やってるの!いま病気なんだよ?!」
案の定、藤堂の怒号が飛んできて。冬乃は逃げ場のなさに視界だけでも遮断する。
冬乃の体はすっぽり沖田の真下で、以前土方に目撃されたあの時と同じ状況なのだから。
頑なに目を閉じる冬乃の、上で沖田の動く気配がした。
「冬乃を寝かせただけだよ」
例によって愉快そうな声音が、上体を起こした様子の沖田から返され。冬乃は薄目を開けて藤堂の表情を探った。
「・・・ふつう、覆い被さりながら寝かせる?」
目が据わっている藤堂が、冬乃の潤む視界に映る。
「おかしいでしょ」
完全に疑っている。
「わたしがっ・・そうして寝かせてほしいってお願いしたんです・・!」
このままでは沖田があらぬ疑いをかけられたままになると。
親友同士の二人が、またいつかの時のように剣呑な雰囲気になるところなど見たくない冬乃は。咄嗟に口走っていた。
「・・・」
が、短慮だったかもしれず。
ものすごく微妙な表情と化した藤堂と、笑いを噛み殺している沖田をそれぞれ見遣って、
困り果てた冬乃は。再び視界を閉ざした。
元はといえば、先に起き上がる前に襖を開ける許可を出した沖田の、こうしてあいかわらず藤堂を揶揄うドSぶりに端を発した事だと、冬乃は次には思い出して。
(・・もう、総司さんのいじわる・・っ)
気づけば、藤堂と一緒になって冬乃まで振り回されているではないか。
「そういう事だから、あしからず」
冬乃の話に乗った沖田が、そしてしれっと締めくくるのへ。一番の餌食となった藤堂が仕方なさそうに、はあ、と息をついた。
「そんなお願いするくらいには元気になってるんなら、ひとまず安心だよ・・」
まして優しい台詞で収めてくれた藤堂に。再び藤堂を見遣りながら冬乃は有難さと申し訳なさとで、胸中深々と頭を垂れる。
「・・で、いつまでその体勢でいるわけ?」
(あ)
指摘は尤もだった。
冬乃の上で上半身だけ起こし今なお密着ぎみの沖田へ、冬乃はどきどきと視線を戻す。
視線の先で沖田が、そうだなと呟いた。
「冬乃が寝つくまでにするか」
ぼそりと続いて独り言ちた沖田は、今のへ目を丸くする冬乃を見下ろして微笑んだ。
「添い寝しててあげるよ」
(・・そっ、)
「添い寝って・・!」
藤堂の大いに意義ありな声と、
(それじゃ寝つくどころか全身で覚醒しちゃいますからっ・・!)
冬乃の心の声とが。重なった。
「沖田っ、ちゃんと冬乃ちゃんに余計な事しないで添い寝してあげれるの?!」
(余計な事?!)
さすがに意味が分かって頬を赤らめた冬乃を、
「さあ」
沖田の悪戯な眼差しが覗き込む。
「だいぶ目が覚めてるようだから、このままじゃ寝つきは悪そうだし、」
「眠らせるために、冬乃に対して効率の良い方法を採るのは・・・ありだね」
(!?)
冬乃を見下ろすにこやかな笑みを目に。
「沖田っ!」
更に意義ありげな藤堂の声を耳に。
“冬乃に対して効率の良い方法” が何なのか、さすがにこれまでの沖田との経験から今度も意味が分かってしまい、もはや全身で紅くなった冬乃は。
「冗談だよ」
続いた、その沖田の言葉に。
横になっているのに倒れた気分を味わった。
明らかに平気ではない。
まだ待ってほしいと伝えようとした冬乃の、
「いいよ」
上でしかし一寸先に。沖田が返答した。
(わあああ)
がらりと襖が開き。
「ちょ沖田、冬乃ちゃんに何やってるの!いま病気なんだよ?!」
案の定、藤堂の怒号が飛んできて。冬乃は逃げ場のなさに視界だけでも遮断する。
冬乃の体はすっぽり沖田の真下で、以前土方に目撃されたあの時と同じ状況なのだから。
頑なに目を閉じる冬乃の、上で沖田の動く気配がした。
「冬乃を寝かせただけだよ」
例によって愉快そうな声音が、上体を起こした様子の沖田から返され。冬乃は薄目を開けて藤堂の表情を探った。
「・・・ふつう、覆い被さりながら寝かせる?」
目が据わっている藤堂が、冬乃の潤む視界に映る。
「おかしいでしょ」
完全に疑っている。
「わたしがっ・・そうして寝かせてほしいってお願いしたんです・・!」
このままでは沖田があらぬ疑いをかけられたままになると。
親友同士の二人が、またいつかの時のように剣呑な雰囲気になるところなど見たくない冬乃は。咄嗟に口走っていた。
「・・・」
が、短慮だったかもしれず。
ものすごく微妙な表情と化した藤堂と、笑いを噛み殺している沖田をそれぞれ見遣って、
困り果てた冬乃は。再び視界を閉ざした。
元はといえば、先に起き上がる前に襖を開ける許可を出した沖田の、こうしてあいかわらず藤堂を揶揄うドSぶりに端を発した事だと、冬乃は次には思い出して。
(・・もう、総司さんのいじわる・・っ)
気づけば、藤堂と一緒になって冬乃まで振り回されているではないか。
「そういう事だから、あしからず」
冬乃の話に乗った沖田が、そしてしれっと締めくくるのへ。一番の餌食となった藤堂が仕方なさそうに、はあ、と息をついた。
「そんなお願いするくらいには元気になってるんなら、ひとまず安心だよ・・」
まして優しい台詞で収めてくれた藤堂に。再び藤堂を見遣りながら冬乃は有難さと申し訳なさとで、胸中深々と頭を垂れる。
「・・で、いつまでその体勢でいるわけ?」
(あ)
指摘は尤もだった。
冬乃の上で上半身だけ起こし今なお密着ぎみの沖田へ、冬乃はどきどきと視線を戻す。
視線の先で沖田が、そうだなと呟いた。
「冬乃が寝つくまでにするか」
ぼそりと続いて独り言ちた沖田は、今のへ目を丸くする冬乃を見下ろして微笑んだ。
「添い寝しててあげるよ」
(・・そっ、)
「添い寝って・・!」
藤堂の大いに意義ありな声と、
(それじゃ寝つくどころか全身で覚醒しちゃいますからっ・・!)
冬乃の心の声とが。重なった。
「沖田っ、ちゃんと冬乃ちゃんに余計な事しないで添い寝してあげれるの?!」
(余計な事?!)
さすがに意味が分かって頬を赤らめた冬乃を、
「さあ」
沖田の悪戯な眼差しが覗き込む。
「だいぶ目が覚めてるようだから、このままじゃ寝つきは悪そうだし、」
「眠らせるために、冬乃に対して効率の良い方法を採るのは・・・ありだね」
(!?)
冬乃を見下ろすにこやかな笑みを目に。
「沖田っ!」
更に意義ありげな藤堂の声を耳に。
“冬乃に対して効率の良い方法” が何なのか、さすがにこれまでの沖田との経験から今度も意味が分かってしまい、もはや全身で紅くなった冬乃は。
「冗談だよ」
続いた、その沖田の言葉に。
横になっているのに倒れた気分を味わった。
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