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うき世の楽園
203.
しおりを挟む剣を扱う、分厚く硬い掌の感触が。それでいて今、壊れものでも扱うように驚くほど優しく、冬乃の背をゆっくりと撫でおりて。追うように、ふたたび掛けられてゆく温かな湯は、瞼を閉じていてもほんのり明るい桃源郷の夢幻にまるで迎え入れるように冬乃を包みこむ。
うっとりと、
やがて離された唇に冬乃は、瞼を擡げた。未だ、楽園の内を漂っているような恍惚感で。よほど蕩けた瞳を向けてしまったのだろう、耀う白霧のなかで沖田がくすりとその口角を上げた。
「風呂に浸かる前から、」
のぼせたように染まる冬乃の頬を。背より移動してきた沖田の大きな手が、ふわりと覆う。
「体じゅうこんなに熱いんじゃ、水でも持ち込むべきだったね。これは長居できそうにない」
(え)
冬乃が倒れなきゃいいが、と苦笑する沖田の言葉を冬乃は、一瞬きょとんとしてしまってから反芻する。
なるほど稽古の汗を流しに来て、来る前に一度水なら飲んだとはいえ、
ただでさえまた湯船でも発汗するのに、すでに今からこうも熱のあるさまに、脱水症状にでもならないかと心配されても当然だと。
今朝からの沖田とのひとときに、まさに“のぼせて” こんなにも体が発熱してしまっているのだと思うと、もはや恥ずかしさで冬乃は余計に頬が熱くなる。
「・・・にしても熱いな」
冬乃の頬を包んだままに、つと沖田が訝しげに呟いた。
「本当に熱があったりしないよな」
「え」
「風邪でもひいたか・・?」
これまで。冬乃が肌に情慾の熱を帯びることなんて、もう数えきれないほど多々あったのだ。沖田も当然それゆえの熱だとばかり、思っていたはずで。
「いえ、」
今なお火照った顔で冬乃は、慌てて首を振る。
「風邪ではないとおもいます・・」
つまり沖田とのひとときのせいだと、
もはや口に出して認めているようで恥ずかしさの増した冬乃は、心配そうに覗きこんでくる沖田から、咄嗟に目を逸らした。
「・・だが、病で無しに、ここまで熱くなるものか?」
続いたその言葉に、余計に頬から火が噴くも。
「先程よりも熱いように思うんだが」
(そんなに、熱いですか)
自分でも多少不安になってきて冬乃は、戸惑った瞳で沖田を再び見上げた、
瞬間に、こつんと沖田の額が冬乃の額に当てられ。
(ひゃあぁ)
「・・・」
(あ、ぁあの)
もはや押し黙った沖田の。
額が暫しのち離された、と同時に、立ち上がった彼によって冬乃の腕は静かに掴まれ、
あまりに緩慢な動作でゆっくり引き上げられた冬乃は。
(・・え)
それなのに生じたふらつきに。次には驚いて。
まさか本当に
疑念が脳裏をよぎった刹那、
冬乃の両脚は沖田の腕に攫われ。そのまま冬乃の火照る体は抱き上げられた。
「今日は寝てなさい」
・・・どうやら。風邪と確定されたようだった。
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