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うき世の楽園
199.
しおりを挟む(ぜったい“不健全” なコトしてた。)
その自覚ある冬乃は。
沖田と二人して、ちょっと遅れて来た朝餉の席で、うしろめたさに先程から全く土方の顔を見れないでいる。
土方の方角からは、何か非常に不穏な気が飛ばされてくるのも、決して気のせいではあるまい。よって冬乃は、何が何でも彼と目を合わせるわけにはいかない。
冬乃の隣では、当然の如く飄々と食事を平らげてゆく沖田が。固まっている冬乃を時々見やっては、気にするなとばかりに微笑う。
沖田も、いや、沖田の場合はわざと煽っているのだろうが、土方の怒気攻撃を完全に無視し続けている。
(土方様の勘の鋭さ、ほんと怖いです・・っ)
このままろくに食事が喉を通りそうにない冬乃である。
ただでさえ、冬乃の頭には先程までのことがずっと映像になって流れていて。
それで赤面しては、土方からの強烈な視線に蒼くなるを繰り返している状態でもあって。
押し入れで冬乃は。この前のように手拭いで猿轡をされ、押し殺した自身の嬌声を耳に、あれこれ“いじめられ” て・・愛されて。あのとき蕩けてしまった身の芯は、未だくゆるような熱を残し。
いま冬乃は、懸命に平静を装っていても、土方のあの様子では、何かしら気づかれているとしか思えず。
もう何度目かで大分、こんなふうに平静を装うことになら上手くなったはずなのに。
「・・冬乃ちゃん」
不意にもう一方の隣から声を掛けられて、冬乃ははっと、その方を向いた。
藤堂が、心配そうな表情をして冬乃を見つめている。
「具合悪いの・・?全然、食事も進んでいないし」
「あ、いえ」
冬乃は焦って、首を振った。
「大丈夫です。その、いろいろと・・考え事してて」
ありがとうございます、と頭を下げながら冬乃はもう、理由が理由なだけに藤堂には申し訳なくさえなって、
急いで前を向き直ると、豆腐を喉に流し込んだ。とにかくがんばって食事に集中せねばと。
(・・・・だめ)
なのに湯呑を手に包んだ刹那に、また脳裏を駆け巡る。
この掌には、沖田の硬い感触まで残っていて。
かあっと頬が火照ったのを、自分でも分かった冬乃は慌ててごまかすように湯呑を口に運んだ。
「冬乃ちゃん、熱でもあるんじゃ・・」
「いえっ」
まだ藤堂が心配してくれて、冬乃はぶんぶん首を振る。
藤堂が溜息をついた。
「沖田、もっと冬乃ちゃんの体、無理させないよう気にかけてやりなよ」
「・・・」
なんだか、別の意味に聞こえるのは。
冬乃の頭が完全に桃色化しているせいなのか。
黙り込んだ冬乃の横で、
こちらを向いた沖田の、ふっと微笑う息遣いと。伸ばされた腕が冬乃の背後へ回る気配。冬乃は、次には肩を抱き寄せられ、おもいっきり沖田の側に傾いた。
「確かに、少し熱っぽいな」
その言葉にどきりと見上げた冬乃を、間近で悪戯な眼が見返してくる。
冬乃の煩悶なんて、お見通しであるかのように。
「ほら、やっぱり。仕事に家事にと、ちょっと大変なんじゃないの?」
藤堂の優しい声に、冬乃はますます申し訳なくなる。
「・・・おい」
(う)
ついには土方が、その明らかに憤怒を含ませた声音を叩きつけてきた。
「てめえら離れろ。食事中だ」
「はいはい」
素直に冬乃を離す沖田から、冬乃は急いで体勢を整える。
「それから、」
だが土方の鋭い声は続いた。
「この後、副長室に来い」
(・・・・えええ!?)
一瞬に今からもう涙目になった冬乃と。
肩を竦ませた沖田の。
二人を見やって藤堂が、
何故にいま冬乃たちが呼び出しを食らったのかと。不可解そうに、ひとり首を傾げた。
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