碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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うき世の楽園

188.

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 あいかわらず一瞬で見事に色づいた冬乃の頬を、両手に包み、沖田はゆっくりと顔を近づける。
 冬乃がその先を分かったように、そっと目を閉じた。
 
 
 初めて冬乃と口づけしたあの時は、おもえば触れる一寸手前まで、戸惑いに揺れる冬乃の瞳は見開かれたままだったと。
 
 あの時と同じ柔らかな唇に口づけながら沖田は、
 思い出して胸内に湧く笑みと、同時に起こる愛しさで、次には冬乃の体を抱き寄せた。塞いだままの冬乃の唇からは、圧されてか小さな吐息が漏れ出て。
 
 沖田は覆い被さるように冬乃を抱いたまま、そんな吐息ごと塞ぐように口づけを重ねた。
 
 「…ン…ん、っ…」
 やがて冬乃の、沖田の着物を掴む両の手の力が滑り落ちた頃、冬乃の喉が小さく声を震わせ。
 切なげに何かを訴えるその響きに、ひっかかるものを感じ、冬乃から離れた沖田を
 見上げる蕩けた瞳が、ゆっくりと瞬かれた長い睫毛の向こう側に覗いた。
 
 「そぅじ…さ、…ん」
 その声は、細切れな息づかいで沖田の名を囁き。
 覗きこめば、いつかに見たような戸惑いに塗れる瞳がそこにあった。
 
 「どうした・・?」
 己の表情はよほど心配そうに映ったのか、冬乃が慌てたようにふるふると首を振ってきながらも、
 「ごめんなさ…い、」
 整わぬ息の下から彼女は、そんな台詞を呟いて。
 
 「ここで…もう、止めて…ください…」
 
 沖田はおもわず冬乃を見つめ返した。
 「どうして」
 「……だって、お風呂も、お夕食も…できてる…のに、」
 
 冬乃が恥じらうように目を瞬かせ、小さく眉を寄せる。

 「このままもっと…近づきたく…なっちゃ…う…から、…ンッ!」
 
 
 語尾に向かい弱々しくなった冬乃の言葉が、
 最後まで発せられるよりも前に、沖田は冬乃をふたたび深く抱き締めていた。
 
 当然で。
 そんな台詞は逆効果、だと分かってもいいようなものを。
 内心苦笑する沖田の、腕の中では冬乃が突然の抱擁に驚いてもがき出すも、もちろん離してやる気は無い。
 
 もっと近づきたい、
 以前に一度その台詞を冬乃は口にし、沖田に意味を念押しされている。冬乃はそうして互いに認識した意味をのせて、いま遠回しに伝えてきたのだ。
 
 つまり、沖田に昨夜のようにしてほしくなってしまうからと。
 直接は言えなかったのだろう、代わりに沖田に確かに伝わる言い回しを選んできた。そのいじらしさも、
 逆効果に拍車をかけているのだが、冬乃は分かってはいまい。
 
 なんだって彼女はこうも一々、翻弄してくるのか。
 
 (まったく・・人の気も知らないで)
 いいかげん、わざとなのかと疑いたくもなるも、
 つい先程まで、この腕を離せば崩れ落ちてしまいそうに力の抜けていた冬乃の体が、
 今は懸命に抗って、拘束から抜け出そうと本気で慌てている様子を見るに、沖田を翻弄する意図など無い本心からの言動だったのだろうが。
 
 いっそ、
 (続けてやろうか)
 慾情するなら、すればいい。
 
 
 沖田は腕の拘束を解くと同時に、冬乃を真後ろの板敷きへ押し倒した。
 
 
 
 
 土間と居間をつなぐ板敷きが、冬乃の背をひんやりと迎え。草履をつっかけた冬乃のつま先は、土間に接しているままで、
 
 板敷きに座らされた一瞬の内に、いま背後へ倒された冬乃に、いったい何が次に起こるのかなど分かるはずもなく。
 
 冬乃の横に続いて腰を降ろし、見下ろしてきた沖田を
 冬乃は、ただ呆然と見上げた、
 
 「そうやって」
 見上げた先の、彼の眼は。
 
 居間に置く行灯の、火の揺らぎに、
 
 「こうも何度も、無自覚に誘われてはね・・」
 
 きらりと。妖しく光り。
 降りてきた沖田の大きな手は、
 
 「そろそろ自覚してもらわないと、俺の身がもたない」
 
 冬乃の襟内へと、潜り込んでゆく。
 「…、っ」
 (自覚・・?誘う・・って・・)
 
 「ぁ…ッ」
 片襟をぐいと開かれ、
 零れ出た乳房を沖田の掌がゆっくりと揉み出した。
 (総司さん・・?!)
 顔を近づける沖田と、乳房を揉む浅黒い大きな手が、冬乃の視界に同時に映り。次には頂きを口に含む沖田を、
 
 冬乃は急速に高鳴る鼓動で、再び乱れ出す息のなか、直視できずに顔を背けて。
 冬乃の横に座したままの沖田は、そんな冬乃を囲うように冬乃の頭上に片腕を置く間も、冬乃への愛撫を止めず。
 (なん・・で、急に・・っ)
 
 「…総…司さ、ゃめ…ぅんッ」
 施された舌遣いに身の芯を駆け抜けた快感で、冬乃の制止の声は途中でうわずって、
 
 「ぁ…あ……っ」
 冬乃の胸を揉む手が離れた直後、裾を割られ内腿に感じたその熱い手が、迷いもなく奥へと進み。冬乃はおもわず背を反らして逃れようとするも、
 
 頭上に囲われた腕ひとつで止められ、次には襲ってきた幾重もの鋭い快感に、冬乃の呼吸は、もはや追いつかずに激しく乱され。
 
 やがて冬乃の胸元から顔を上げた沖田が、優しくもあの熱の篭る眼差しで、息もたえだえに喘ぐ冬乃を見下ろした。
 「自覚もなく誘うから、こうなる」
 「そん…な、…ぁんんっ…」
 「今夜は “責任” 、取ってもらうよ」
 
 (え・・?)
 驚いて冬乃が涙目で見上げても。冬乃を見返す眼は微笑うだけで、それ以上を告げてはくれず。
 どころか、内腿の奥では更に容赦のない刺激が続いて、
 「…ぁ…あ…ゃあっ、…んっ…」
 喉を圧し出てゆく自身の嬌の声を冬乃はもう止めらないまま、視界が霞がかるなかで、
 横では沖田がそんな冬乃を見下ろしている状況に。
 
 「おねが…ぃ、み…ないでぇ……っ…」
 せめて、訴えても。聞きいれてなどもらえずに。
 「…やあぁ…ッ…」
 
 深い羞恥と。
 それさえ、やがて呑み込むほどの快楽の、
 
 狭間で、
 
 「冬乃・・」
 
 冬乃を愛でるように掛けられた、冬乃が大好きなその声の一押しが、そして冬乃を高みへと押し遣って、
 
 冬乃は刹那に深く弛緩した身を、苦しい呼吸の元で懸命に捩り。最後くらい沖田の視線から逃れようと、
 したものの。
 
 がしり、と。
 冬乃の腕は掴まれた。
 
 (総・・っ)
 「この手。借りるよ」
 
 
 朧ろな視界で沖田を見上げた、今の台詞の意味が分からない冬乃の、
 手がそして導かれた先を。
 
 それから冬乃はしばらく、想い出してはあまりの恥ずかしさで全身から沸騰するはめになった。
 
 
 
 
 
 
 そんな、取らされた責任、なるものが。
 
 つい昨日に辞退された “時期尚早” の内容の一つであったらしいことを、その後の夕餉の席で、さらりと告げられて知った冬乃は、
 
 いま、風呂の湯にぶくぶくと顔まで浸かりながら、
 いったいこの先、どれほど未知の体験が冬乃を未だ待ち構えているのだろうと眩暈がしてきて。
 大体、どこかでそれを心待ちにしている自分がいるのだから、認めざるをえない。

 やはり沖田に対しては冬乃は “好色” になってしまうと。
 
 以前に沖田に自ら告白したとはいえ、 
 まさかこんなにもだなんて、あの頃どう気づけたというのだろう。

 (恥ずかしすぎてもうぜったい知られたくない・・!)
 
 それでももう、彼にはすでにお見通しなのかもしれず。
 
 
 「~~~っ」
 
 今一度ぶくぶくと。冬乃は湯に沈んだ。
 
 
 
 
 
 
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