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うき世の楽園
183.
しおりを挟む身の奥の熱に乱れ、細かに波打つ息づかいと。
ぱしゃん、と時おり掛けられる湯の、肌を弾く音とが。
混ざり合うなかで。
冬乃に、そのふたつの音を奏でさせている沖田は。唯。
「こっちの腕、上げて」
冬乃の体を洗うように、
いや事実、洗っているだけの。
「次、こっち」
ようすで。
(も、う・・おかしく・・なりそう・・っ)
大体、冬乃があと少しでも視線をずらしてしまえば、見えてしまう沖田の股のものをすぐ前に。冬乃は、かといって冬乃の肌を弄る彼の、両の手の動きを目に追う勇気ももてずに。
(こんな・・・)
結局の目のやり場のなさに冬乃は、再び瞼をきつく瞑ってから久しく。
冬乃の乳房をなぞっていたはずの彼のヌカ袋は今、みえない視界のなか、冬乃の脇の下を進み、腕を指先まで辿って丁寧に折り返す道なかば。
「…ン……ッ」
もはや全身に這わされ続けるその愛撫の如き、緩慢な刺激は、
かわらず冬乃の内腿を甚振る、もう片方のきわどい刺激と相まって。
(も・・う)
震えるような、
昂ぶる情に。
(始めようかって・・言ってたのに・・っ)
あれから、
ずっと。翻弄されたまま。
(洗いながら・・とも確かに言ってたけど・・!)
絶対、わざと焦らされているようにしか、思えない。
「…ぁん!」
またも内腿の奥を掠った、一瞬だけの強い刺激に冬乃の躰は、いつしかそれだけで跳ねるほど感度を増していて。
なのに、
「総司…さ…ん」
冬乃は自身の細切れな息を耳に。
そのたび懸命に瞼を擡げ、顔の横の沖田を向いては合わさる視線の内に眼で訴えてみても。
いじわるな眼が柔らかく、見返してくるだけ。
「どこか、洗い足りない?」
にっこりと。
もう、冬乃の身の内を迸る熱に、
零れてゆくばかりの浅い吐息に、
悩まされて哭き動かされて、冬乃は。
「……お…ね、がい」
「ン?」
くすりと、
「何」
耳元で微笑う沖田に。
擡げた瞼の下で冬乃は、ついに潤みきった瞳をはっきりと沖田へ向けた。
すぐ間近に、沖田の細められる眼。
「…いじわる…しない…で…っ」
「いじわる?」
口角を上げる沖田の、流れるような絶妙な指の動きはかわらず、冬乃の内腿を掠ってゆくのに。
「や…ぁ」
身を捩り、次に冬乃は抗ってみせながら、
つと、まさか沖田は、冬乃に最後まで言わせるつもりなのかと。これがお仕置きの一環なのだとしたら、
冬乃が願いをきちんと口にするまで、つまりこの焦らしは続くということかもしれないと。冬乃は次にはおもわず戦慄し。
「嫌なの?」
しかも、ぴたりと。
今の冬乃の抵抗で、沖田の手は止まり。
(・・・っ)
「総…司さ…っ…」
冬乃の蒸気した頬に、
沖田が、ふと冬乃の内腿から離した手をそっと添えてきた。
「どうしたの」
低く。
蕩かすように甘く。冬乃をからかうその声は、
冬乃の鼓膜へすっと堕ちて、
焦らされて彼を求める躰の奥まで、直に震わすように。
呼吸が。あまりに乱れて、
「ぁ……」
閉じきれない冬乃の唇から、
つながる頬のぬくもり以外、沖田から離されてしまった躰が。
「…さわ…って……おねが…い」
まるで自らの意志で、その願いを。ついに、押し出して。
(あ・・・)
口から洩れたそのことばに冬乃自身が驚いて目を瞠ったが、当然もう遅く。
「どこを?」
なのに、さらに容赦なく沖田が、冬乃の頬だけを捕らえたまま、問いを追わせてくる。
その眼なら、溢れそうなほどに愛しげな笑みを湛えているというのに。
(そんな、いえるわけが・・っ)
「もう洗い残している所は、ここだけか」
冬乃のうっすら涙に濡れた瞳を暫し見つめていた沖田が、だが。不意にそんなふうに呟いた。
(あ・・)
冬乃の、
長く待ち望んだその場所へと。
大きな手をゆっくり這わせながら。
あまり苛めすぎてもかわいそうかと。沖田は暫し冬乃の、慾情に遂にまみれて紅く火照った切なげな表情を、目に堪能したのち、
彼女の無言の求めに応えるべく、その場所へと手を伸ばした。
時おり掠ってやるだけに留めていた、その箇所は。沖田の指に絡むほどに、艶めいて濡れそぼり。
焦らしに焦らした成果は、
次に彼女の望んだ施しを与えて間もなく、彼女が儚げな声音を奏でて、くたりと沖田へ倒れ込んできた事で。あまりにも際立って示され。
(これは、)
苛めすぎたか
予想以上に刹那な冬乃の反応に、沖田はさすがに少々反省するも。
沖田の腕の中、冬乃が息を整えようと懸命に眉を寄せ、はあはあ喘いでいるさまを見下ろしているうちに、
未だ、彼女に篭った熱は、解放されきってはいない事にも。気づいた。
「冬乃」
「…ぁ…っ」
案の定、
ふたたび冬乃の濡れそぼる淵に指を這わせば、冬乃の躰がびくんと跳ね。
沖田はそのまま、迷わず冬乃の更に奥へと。指を進めた。
冬乃の望んだその行為を、ようやく真に始めてやる沖田を。冬乃が震える睫毛の下から見上げてきて、
「…ぁ…ふ」
沖田の指に、内を圧されるに合わせ、吐息をひとつくゆらせ。
すっかり蕩けたその瞳をそして冬乃は、恥じらうように沖田から逸らして、浅い息のなかで、切なそうに眉間を狭めた。
沖田は、冬乃を片腕にいっそう抱き寄せてやり。冬乃の様子を見ながら、最奥までゆっくり挿し入れてゆく。
「ん…、…ーっ…」
慣れさせ、ほぐして。そのときが来たなら彼女の痛みが減るように、丁寧に辿って。
いつかはそして、彼女が、この内の刺激だけで感じることができればいい。
「ぁんん…!」
時々すでに敏感な箇所にも指先を奔らせれば、沖田の腕の中で冬乃の躰は弓なりに、啼く声はこの風呂場に艶やかに響き。
冬乃の力の入らない手が沖田の腕に添えられ。
「総司さ…ん」
呼び声に見下ろせば、おもわず瞠目するほどに、幸せそうに彼女は微笑んできた。
(・・・冬乃)
ひとつに、なれたなら。
彼女の、この表情を、
その瞬間に慾しい。
抱き寄せる腕に力が入り、沖田は冬乃の額に口づけ、
立ち昇る慾情を。常の如く刹那に、抑え込んだ。
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