碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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うき世の楽園

175.

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 俺の名は犬井カイト。ごく普通の高校生で、高校生活最後の文化祭をしていたはずなんだが…なぜか変な帽子をかぶったおっさん達に召喚され、ここ異世界に来てしまった。それだけならまだしも、演劇の演出だと勘違いした俺は自分のことを勇者バルボロだって言っちまって、俺は勇者カイト・バルボロってことになっちまった。


 「カイト、アイス食べる?」
 

 金髪の可愛らしい女性がカイトにアイスを差し出す。
カイトは苦笑いしながらそのアイスを手に取り、ゆっくりと食べ始めた。ペロリとアイスをひと舐めしていく毎に事の重大さに気づいた。顔がアイスよりも冷たく青ざめていく。耐えきれなくなったカイトは席をバンと立ち叫んだ。


 「なんでこうなったああ!?」


 ーーー時は遡ること1時間前ーーー


 召喚の後俺は王のところへと案内された。
 何人もの兵士がずらりと綺麗に並んでおり、赤いカーペットの上をそろりそろりと進んでいく。カーペットの奥には巨大な窓ガラスがあり、その前には豪華な装飾を施された椅子に一人、貫禄のある男がずっしりと座っていた。巨大な窓ガラスから射す光がスポットライトのようにカイトを照らす。不安で押しつぶされそうなカイトに男が話す。


 「まず召喚してしまいすまない、勇者カイト。」


 彼は椅子から立ち上がり話を続ける。


 「私はクアトル共和国第29代国王オズウェル・バルベレブだ。君には魔王討伐をお願いしたい。」


 召喚されてすぐに魔王討伐って言われても無理に決まってるだろ!


 「分かっておる、1人では不安なのだろう。そこで君の仲間となる者たちを3名用意した。入ってこい。」


 入り口から金髪の女性、そしてムキムキな男の人、その後ろにビクビクしてる男の子の3人が入ってくる。


 「彼らは我が国の冒険者の中でも極めて優秀なSランク冒険者だ。きっとお主の助けとなるだろう。では行ってきたまえ!そしてこの国に、世界に平和をもたらしてくれ!」


 ってな感じで強引に出発させられたけどどうすればいいんだよ…。
 困ってるカイトに金髪の女性が話しかける。


 「まずは自己紹介からだね!私はカレン・フォン・エシュタード。カレンって呼んで。」


 彼女に続いて他のみんなも自己紹介をする。


 「俺の名はジョー。よろしくな!」


 「ぼ、僕はクリス・マルベーニって言います。よ、よろしくお願いします…。」


 「俺の名前はカイト・バルボロ。みんなよろしくね。」


 俺達はぎこちない自己紹介を終えたあと街を歩く。
 初対面で気まづい空気が流れてる時、カレンが口を開く。


 「ちょっとお腹も空いちゃったし、どこかで食べながらお話でもしない?」


 「そうだね、魔王ってやつの事も聞きたいし。」


 俺たちはすぐ近くのカフェへと入り、テラス席に座った。


 「魔王討伐をしろって言われたけど、その魔王ってなに?」


 俺が質問すると、カレンが答えてくれた。


 「今から約300年前、魔王ハデスってのがいたんだけど、そいつが復活するっていう予言があったのよ。」


 魔王ハデス、演劇でレオが演じてた奴か。


 「その予言は的中し、魔王は復活。そしてダビネスっていう街を占領して魔王国家アサイラムの建国を宣言したの。」


 続けてジョーが話す。


 「その魔王は、この国最強の兵士とも言われている戦士長ノーマンを殺し、ゴッドオブデケムの1人でカオスの恩恵者であるカリウスを殺している。」


 「ゴッドオブデケム?」


 「ゴッドオブデケムとは10人の神々の恩恵を授かった最強の人達のことよ。彼らは恩恵を授かった1人をリーダーとし、カテルワという派閥を作ってるの。そのカテルワ1つで一国の軍にも対抗できるとか。」


 「その人たちがいるのになんで俺に頼むんだ?」


 そう聞くとクリスが話してくれた。


 「かつて魔王軍と人類の戦いが起きたとき、もちろんゴッドオブデケムも戦いに参加した。でもそんな彼らでも魔王軍に劣勢だった。そんなとき勇者様が現れて戦況が有利になっていった。そして魔王城にいる魔王をその勇者様が討ち取った。」


 だから勇者の力が必要なのか。
 カレンがアイスを持ってきてカイトに渡す。カイトはゆっくりとそのアイスを食べていく。
 最強の神の恩恵を授かったゴッドオブデケムでも魔王に殺された。神の恩恵を持ってしても無理なら生身の俺はどうなるんだ?勝てるわけがないだろ。あれ、これ無理じゃね?
 カイトが席から立ち上がって叫ぶ。


 「なんでこうなったああ!?」


 ーーー魔王国家アサイラム領域 ダビネスーーー


 重信タカ、彼はその昔日本で八重桜のタカと言われてた実力の持ち主だった。彼が道を歩けば、そこに残るのは桜のように儚く散っていった者たちの死体のみ。
彼は仁義を重んじる人であり、誰彼構わず困っていたら助けるような男だった。そして今から14年前、彼はこの世界へとやってきた。召喚されたのか、あるいは自分から入ってしまったのかはわかっていないが、気づくと彼は森にいた。森を抜けて山を越え、川に着くと小さな村があった。彼は吸い寄せられるようにその村に入り、村人を見た途端魂が抜けたかのようにその場で倒れた。目が覚めると見知らぬ天井、そして自分を看病してくれていた女の子を目にする。これこそがリノとタカの最初の出会いだった。タカは彼女の礼を言い、ここはどこなのかと尋ねる。


 「ここは東洋の村ツマジです。すぐ近くにはキヨトという大きな街があります。」


 どれも聞いた事のないタカはここは日本なのかと聞くが、当然日本なんてものを知らない彼女はキョトンとした顔をする。そんなとき、お腹がぐうと鳴ったことで自身が丸4日なにも食べていないことに気づく。その事を察した彼女はついてきてとタカの手をとり家を出る。
村は小さかったが活気があり、元いた日本の村や町となんら変わらない風景だった。屋台に着くと、彼女はおにぎりを3つ頼んだ。渡されたおにぎりを1口食べると、それは懐かしく、甘く、温かい味だった。
彼はおにぎりを2つペロリと食べると、残りのひとつをリノにあげた。私は大丈夫と言う彼女に対し彼は、


 「これは私のいた国日本の文化、恩返しだよ。」


 と言いおにぎりを手に持ち彼女に渡した。
 それからリノに稽古をつけ、おにぎりを3つ買って食べてはまた稽古をし、時には狩りや釣りに出かけ、帰ってきては稽古するを繰り返し、いつしかタカは村の人たちからタケミカヅチと崇められ、村に平穏が訪れた。
 だが、5年経ったある夜のことだった。1人の傷だらけのエルフが村に逃げてきたのだ。村は彼女を保護し、その傷を癒していた。エルフは助かったと安堵していた。村人たちの悲鳴が聞こえるまでは…。エルフを追っていた王国兵士が村を見つけ、村人を1人、また1人と殺していったのだ。エルフを出せと言う兵士に対してタカは腰につけていた刀を鞘から抜き、鬼の形相で言い放つ。


 「貴様ら外道を1匹たりとも逃がしやしない。」


 次の刹那、タカは風のように踏み込み距離を詰める。相手は20人ほどで、その全員が鎧を身にまとった重戦士だった。だがそんなことお構い無しに鎧の隙間を流れるように切っていく。そこに狩りから戻ってきたリノも加勢する。次々と敵の数は15、10、5人と減っていった。
しかしここまでの敵を相手にすると疲労する。その隙を見た1人の兵士がリノを背後から刺しにかかる。タカはそれに気づき、急いで彼女を助けに向かった。だが間に合わない…。グサッ!と刺さる音が聞こえ、彼女が振り返ると、そこには敵兵士に刀を刺すタカの姿が。助けてくれてありがとうと言おうとした瞬間、タカの体は赤黒く滲んだ。


 「タカ…?」


 相打ちだった。タカは吐血するとその場に倒れた。
一生懸命タカの名前を叫ぶリノ。だがその声はタカの耳からは程遠くなっていく。最期の力を振り絞りタカはリノの頬に触れ、こう話した。


 「もう私はお前を守ることはできない…。だから、お前のことを助けてくれる者がもし現れたら、その者を大切にし、絶対に守り抜け。かつて私がそうしたように。」


 そして彼は自身の全魔力を彼女に託し、その目をゆっくりと閉じた。1枚の桜の花びらが今、散ったのだった。
彼女が泣き止んだころにはもう、兵士たちは追っていたエルフの少女を連れ村を去っていた。リノはエルフを救えなかったこと、タカを守れなかった自分に対して激しい怒りを覚えた。こんな自分なんかを助けてくれる者などいないと、いや、むしろいないほうがいいと…。


 「いいえ、それは違います。」


 彼女が話終わると、エレーナが口を開いた。
 涙を流すリノはエレーナをじっと見つめる。そしてハッと気づいた。彼女はあの夜、自分が助けることができなかったエルフなのだと。


 「そんなまさか…無事だったんだ…!」


 リノは喜びと悲しみが入り交じりその場に泣き崩れた。エレーナは彼女を抱きしめ、私は無事に助かった、だから安心して。と彼女を慰めた。9年ぶりの出会い、それは偶然か、それとも神のいたずらか。とにかく日本人が自分以外にもいた事にレオは希望を見出した。もしかしたら元の世界に帰れる方法があるのかもと。
 そうこうしてると夜になり始めた。エレーナとリノの再会を祝ってみんなで宴の準備をした。この異世界、案外狭いのかもしれない。もしかしたら元の世界で知り合いだった人と出会うかも…なんてことはないか。
 一同は焚き火を囲み談笑し、夜を過ごした。
 
 





 
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