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解けゆく時
170.
しおりを挟むその、普段と何ら変わらぬ口調に面食らった様子で、
「お・・おう。わかった」
近藤のほうが赤面して頷く前で。
冬乃に至っては全身で火を噴くかの事態となり、当然に近藤を見られず、視線は畳の一点へと集中砲火し。
(そ、総司さん、あいかわらず飄々すぎます・・・っ)
「今日はもう冬乃さんに頼む仕事はとくに無いから、ゆっくりしていてくれ」
近藤の気遣うように追わせてくる言葉に、
冬乃は余計に近藤を見られないままに「ハイ」と返事をしながら、
沖田が横で立ち上がる袴の布擦れの音に、
さらに緊張して。
「冬乃、」
だが冬乃の緊張などよそに。沖田の常の優しい声音が降ってきた。
「今日は俺も非番だし、もう今から行く?」
その時どう返事をしたのか。
それから冬乃は心まで高熱に見舞われ、よく想い出せない。
のぼせた状態で、駕籠に乗ってふたりの家へと向かい。
その美しき三千世界の小さな庭を前に、立つまで。
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