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解けゆく時

162.

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 「冬乃の句、見てみたいなあ・・」
 不意に落とされた沖田のにこやかな言葉に、冬乃はどきりと彼を見返した。
 
 「さぞ可愛い句を詠むんだろうね」
 (かわ)
 赤面する冬乃に、
 
 「どこかの誰かさんのように」
 沖田がさらに、にこやかに添える。
 
 土方の事だろうと、冬乃はすぐに思い当たった。彼の遺した数々の、意外にも愛らしい句は、こっそり冬乃のお気に入りでもある。
 
 「冬乃とどこかの誰かさんは、似てるからね」
 
 「え!?」
 「は?!」
 
 (え)
 冬乃は土方をおもわず見やった。彼がここで反応したということは、そのどこかの誰かさんが自分だと認識していたようだ。
 
 (ていうか)
 
 似てるって一体・・!?
 
 土方は、いま反応してしまった事が不覚だったらしく仏頂面になってそっぽを向いている。
 冬乃は沖田を探るように見て。その視線を沖田が、あいかわらずの優しい愛でるような眼差しで迎えてくる。
 
 (あ・の、総司さん、今のって)
 冬乃はさぞや豆鉄砲をくらった顔をしていることだろう。沖田がそのまま面白そうにその目を細めた。
 
 「誰かさんも冬乃も、几帳面で慎重で思慮深く、じつに様々な事への配慮に長けるでしょ」
 
 (ん?)
 さりげなく褒められた・・様子。
 
 ちろりと土方を見れば、横顔の青筋が少し減っている。
 
 「気が向いたら見せて?」
 沖田が、冬乃の手元の入れ物に扮する携帯を見やって、そしてそんなふうに言うのへ、
 冬乃は内心縮こまってしまいながら、小さく苦笑いで首を傾げた。
 
 「で、」
 沖田が冬乃に近づく。
 
 「その恰好」
 
 継がれた前置きに。冬乃は、はっと己を纏うワンピースへ目を向けた。
 
 沖田の浅黒い大きな手が、そんな冬乃の前に現れ。私服で出かける時用の、うっすらチークを入れた、冬乃の頬を撫でて。
 
 「このまま着替えずに、俺の部屋来て」
 
 
 (あれ・・?)
 
 その恰好。の次に言葉が、なにか発されかけて省略されたような。
 
 
 「おい」
 土方の何故か不穏な声が飛んできた。
 
 「てめえ、久々だからって・・わかってるよな・・」
 
 (え?)
 
 「わかってますよ」
 冬乃の背へと沖田の太い腕が回りながら、見上げた冬乃の瞳に、これまた何故か不敵な笑みが土方へと返されるのが映る。
 
 (何の話?)
 
 「冬乃、」
 (あ・・)
 だが腰を引き寄せられた冬乃の意識は、見下ろす沖田の眼に一瞬で奪われて。
 
 「おいで」
 沖田の手が、冬乃の腰から流れるようにごく自然に冬乃の腕を取り、 
 冬乃は沖田に優しく引かれるままに廊下へ出た。
 





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