252 / 472
解けゆく時
160.
しおりを挟む
一夜明けて。
さいわいに殆ど覚えていないものの、恐らく悪夢にうなされていたかの頻度で冬乃は、浅い眠りを繰り返して朝を迎え。寝不足で、気持ち悪いほどの体調ながら、なんとか朝食をとって。
「気をつけて行ってきなさいよ」
未だに慣れない一昨日からの会話量に戸惑いながらも、冬乃はそうして母の見送りを背に京都へと出立した。
昼前の11時に京都駅のホームに降り立った時、冬乃は高鳴る鼓動を胸に、統真に電話をかけた。
(暑い・・・)
呼び出し音が鳴っている間、早くも流れ始める汗に、冬乃は手の甲で首すじを払う。
だが、呼び出し音は留守番メッセージの録音へと切り替わり。
後でかけ直すしかないと諦めて、冬乃はひとまず駅を出ることにした。
冬乃は先程の新幹線の中で、時おり寝落ちしてしまいながらも、統真と会う前に先に電話で伝えておく事をメモに整理しておいた。
当然に、会った瞬間にタイムスリップは発動してしまうために、
統真に伝えたいことは、電話やメールなどで事前に伝えるしかないのだ。冬乃は統真のメールのアドレスを知らないので、電話口で伝えることになる。
冬乃はその箇条書きにしたメモをバッグへ一度戻して、かわりに特急券の切符を取り出すと、改札を抜けた。
駅を出て。最初に目についた喫茶店に、冬乃は飛び込むように入った。
涼しい店内の一角にそっと座りながら、冬乃はテーブルに置いた携帯の横へ、再びメモを取り出して並べる。
(まず、)
統真には、“体調が悪いので” 会っている時に倒れるかもしれないと、冬乃は言ってしまうつもりでいる。
そして、その場合どこかの病院に運んでほしいが、また一時的なことだろうから母には心配をかけたくないので、病院側が待てなくなるぎりぎりまで連絡しないでもらえることはできないかと、相談し、
そんな迷惑をかけてしまう事を先まわりして謝って、
(そして・・、もうしばらくは、私に会わないようにしてもらうように・・)
どう頼んだら不自然でないのか。結局、これに関しては名案が浮かばずじまいだったが、それでも頼まないわけにはいかない。
(それにお千代さんの、薬を)
貰えないかと、ダメ元でも聞いてみなくては、と。
冬乃はメモから視線を逸らし、溜息をついた。
これだけのことを頼む図々しい己に呆れようとも、それでもこれらの“おねだり” は敢行しなくてはならない。
注文を取りに来た店員にアイスティーを頼み、なにとはなしに冬乃は数席向こうの窓の外を見た。陽炎にゆらぐ路上の様子が、こちら側の涼しい店内を小さな楽園のように思わせる。
冬乃はまもなく運ばれてきたアイスティーを、乾いた喉に押し入れるように一気に飲み干した。
そろそろもう一度かけ直してもいいだろうか。冬乃が暫く後そして携帯を手に取ったとき、
(あ)
不意の着信とともに、
液晶には、統真さんと表示が出て。冬乃は慌てて通話ボタンを押した。
(てか、服・・ぅ!!)
また忘れてた。
冬乃は、俯きかげんで携帯を耳に当ててつと目に入った自分の太腿に、今更ながら思い起こして慌てる。
今日はもちろんパジャマ代わりのキャミソール一枚の恰好でこそないものの、
ミニ丈のワンピースから脚がおもいっきり覗いた、やはり幕末ではありえない恰好に変わりなく。
(もうぅ、ばか)
「冬乃さん?」
電話の向こうで統真の訝る声が聞こえた。冬乃が電話に出たまま無言だったためだ。
「あ、ごめんなさ・・、えと」
急いで電話へと意識を戻し、冬乃は次いでテーブル上のメモをバッグへ戻し、伝票を手に席を立った。
「いま京都駅の近くにいます。これから伺ってもいいでしょうか。あの、でも、先にお伝えしたいことが」
「ああ、丁度良いや。いま俺も駅まで来ているからそっちへ行くよ、どこにいる?」
(え)
冬乃は顔を上げた。思わず目を奔らせた窓の向こう、駅へと歩いてゆく統真の姿が、交差点を挟んだ反対側の歩道に見えて。
(あ・・)
この距離って
大丈夫だったっけ
どきりと硬直した冬乃に、しかし例の霧は現れず。
ほっとしながらも、冬乃は首を傾げる。
(そういえば、どうなってるの)
今のように、こちらが一方的に統真を見ている場合には、タイムスリップは起こらないということなのか。つまり、互いが互いの姿を認識しないかぎり・・?
いや違う。
そもそも毎回、冬乃は統真の姿を見ているわけではない。それでもタイムスリップは発動する。
冬乃が統真を見ているかどうかは関係が無いのだ。
あくまで統真が、冬乃を見た時なのだろう。
(あれ・・・でも、下の玄関に来てくれた時、顔あわせてはない)
「冬乃さん、聞こえてる?」
「は、はい!」
「今、どのへん?」
(う)
冬乃は焦った。
「近くの・・喫茶店にいますっ・・今から出て、こちらから伺いますので。統真さんはどちらへ、・・」
「話するんだから、その店に居て。俺が向かうから」
「あ、」
「何て店」
(どうしよう)
「ちょっと・・だけ、このままお時間いただけませんか」
「・・このまま?」
「このまま電話でお話したいことがあって」
「すぐ会うのに・・?」
確かに、まったくもって、明らかに変だ。
「その・・・すみません」
いっそタイムスリップの事象を話してしまおうかとの考えが冬乃の脳裏によぎるが、唐突すぎて理解されるはずがないと、すぐに思い直し。
「め、面と向かってはお願いできないことなんです」
「・・・何」
どこか苦笑するような声と共に。
冬乃の凝視する窓の外、統真の姿が立ち止まったのが見えた。
「いいよ、じゃあ話して」
この距離は。
いつかの昼休みに、交差点で向こうから来る統真を見かけた時の距離と、そう変わらない。
(あの時・・)
目が合い。合って、統真がしっかりと、冬乃の体調を気遣うかのように心配そうに見てきたのだ。
冬乃はその残像を思い出した。
(・・・もしかして)
タイムスリップが、起こるのは。
ふたりの肉体の距離が近づいて、そして、
ただ統真の目に冬乃が映るだけでは無くて。そもそも、その肉体の目で見たかどうかは必要では無く、
統真が、
“見る” は見るでも。彼の意識なり何か、内在の『目』が、冬乃を見た時。
玄関で顔を合わせていなくてもタイムスリップが起こったのは、
統真が訪ねてきて、そのとき二階に居る冬乃の方へ、彼がその『目』を向けてきたから。
「とりあえず、暑いから俺もどこか入るよ」
冬乃の見つめる窓枠の、中。
統真が振り返る。
それはスローモーションのように。冬乃の視線と、統真の視線が、
かち合って。
統真が瞠目した。
冬乃は、そのまま、霧に覆われた。
さいわいに殆ど覚えていないものの、恐らく悪夢にうなされていたかの頻度で冬乃は、浅い眠りを繰り返して朝を迎え。寝不足で、気持ち悪いほどの体調ながら、なんとか朝食をとって。
「気をつけて行ってきなさいよ」
未だに慣れない一昨日からの会話量に戸惑いながらも、冬乃はそうして母の見送りを背に京都へと出立した。
昼前の11時に京都駅のホームに降り立った時、冬乃は高鳴る鼓動を胸に、統真に電話をかけた。
(暑い・・・)
呼び出し音が鳴っている間、早くも流れ始める汗に、冬乃は手の甲で首すじを払う。
だが、呼び出し音は留守番メッセージの録音へと切り替わり。
後でかけ直すしかないと諦めて、冬乃はひとまず駅を出ることにした。
冬乃は先程の新幹線の中で、時おり寝落ちしてしまいながらも、統真と会う前に先に電話で伝えておく事をメモに整理しておいた。
当然に、会った瞬間にタイムスリップは発動してしまうために、
統真に伝えたいことは、電話やメールなどで事前に伝えるしかないのだ。冬乃は統真のメールのアドレスを知らないので、電話口で伝えることになる。
冬乃はその箇条書きにしたメモをバッグへ一度戻して、かわりに特急券の切符を取り出すと、改札を抜けた。
駅を出て。最初に目についた喫茶店に、冬乃は飛び込むように入った。
涼しい店内の一角にそっと座りながら、冬乃はテーブルに置いた携帯の横へ、再びメモを取り出して並べる。
(まず、)
統真には、“体調が悪いので” 会っている時に倒れるかもしれないと、冬乃は言ってしまうつもりでいる。
そして、その場合どこかの病院に運んでほしいが、また一時的なことだろうから母には心配をかけたくないので、病院側が待てなくなるぎりぎりまで連絡しないでもらえることはできないかと、相談し、
そんな迷惑をかけてしまう事を先まわりして謝って、
(そして・・、もうしばらくは、私に会わないようにしてもらうように・・)
どう頼んだら不自然でないのか。結局、これに関しては名案が浮かばずじまいだったが、それでも頼まないわけにはいかない。
(それにお千代さんの、薬を)
貰えないかと、ダメ元でも聞いてみなくては、と。
冬乃はメモから視線を逸らし、溜息をついた。
これだけのことを頼む図々しい己に呆れようとも、それでもこれらの“おねだり” は敢行しなくてはならない。
注文を取りに来た店員にアイスティーを頼み、なにとはなしに冬乃は数席向こうの窓の外を見た。陽炎にゆらぐ路上の様子が、こちら側の涼しい店内を小さな楽園のように思わせる。
冬乃はまもなく運ばれてきたアイスティーを、乾いた喉に押し入れるように一気に飲み干した。
そろそろもう一度かけ直してもいいだろうか。冬乃が暫く後そして携帯を手に取ったとき、
(あ)
不意の着信とともに、
液晶には、統真さんと表示が出て。冬乃は慌てて通話ボタンを押した。
(てか、服・・ぅ!!)
また忘れてた。
冬乃は、俯きかげんで携帯を耳に当ててつと目に入った自分の太腿に、今更ながら思い起こして慌てる。
今日はもちろんパジャマ代わりのキャミソール一枚の恰好でこそないものの、
ミニ丈のワンピースから脚がおもいっきり覗いた、やはり幕末ではありえない恰好に変わりなく。
(もうぅ、ばか)
「冬乃さん?」
電話の向こうで統真の訝る声が聞こえた。冬乃が電話に出たまま無言だったためだ。
「あ、ごめんなさ・・、えと」
急いで電話へと意識を戻し、冬乃は次いでテーブル上のメモをバッグへ戻し、伝票を手に席を立った。
「いま京都駅の近くにいます。これから伺ってもいいでしょうか。あの、でも、先にお伝えしたいことが」
「ああ、丁度良いや。いま俺も駅まで来ているからそっちへ行くよ、どこにいる?」
(え)
冬乃は顔を上げた。思わず目を奔らせた窓の向こう、駅へと歩いてゆく統真の姿が、交差点を挟んだ反対側の歩道に見えて。
(あ・・)
この距離って
大丈夫だったっけ
どきりと硬直した冬乃に、しかし例の霧は現れず。
ほっとしながらも、冬乃は首を傾げる。
(そういえば、どうなってるの)
今のように、こちらが一方的に統真を見ている場合には、タイムスリップは起こらないということなのか。つまり、互いが互いの姿を認識しないかぎり・・?
いや違う。
そもそも毎回、冬乃は統真の姿を見ているわけではない。それでもタイムスリップは発動する。
冬乃が統真を見ているかどうかは関係が無いのだ。
あくまで統真が、冬乃を見た時なのだろう。
(あれ・・・でも、下の玄関に来てくれた時、顔あわせてはない)
「冬乃さん、聞こえてる?」
「は、はい!」
「今、どのへん?」
(う)
冬乃は焦った。
「近くの・・喫茶店にいますっ・・今から出て、こちらから伺いますので。統真さんはどちらへ、・・」
「話するんだから、その店に居て。俺が向かうから」
「あ、」
「何て店」
(どうしよう)
「ちょっと・・だけ、このままお時間いただけませんか」
「・・このまま?」
「このまま電話でお話したいことがあって」
「すぐ会うのに・・?」
確かに、まったくもって、明らかに変だ。
「その・・・すみません」
いっそタイムスリップの事象を話してしまおうかとの考えが冬乃の脳裏によぎるが、唐突すぎて理解されるはずがないと、すぐに思い直し。
「め、面と向かってはお願いできないことなんです」
「・・・何」
どこか苦笑するような声と共に。
冬乃の凝視する窓の外、統真の姿が立ち止まったのが見えた。
「いいよ、じゃあ話して」
この距離は。
いつかの昼休みに、交差点で向こうから来る統真を見かけた時の距離と、そう変わらない。
(あの時・・)
目が合い。合って、統真がしっかりと、冬乃の体調を気遣うかのように心配そうに見てきたのだ。
冬乃はその残像を思い出した。
(・・・もしかして)
タイムスリップが、起こるのは。
ふたりの肉体の距離が近づいて、そして、
ただ統真の目に冬乃が映るだけでは無くて。そもそも、その肉体の目で見たかどうかは必要では無く、
統真が、
“見る” は見るでも。彼の意識なり何か、内在の『目』が、冬乃を見た時。
玄関で顔を合わせていなくてもタイムスリップが起こったのは、
統真が訪ねてきて、そのとき二階に居る冬乃の方へ、彼がその『目』を向けてきたから。
「とりあえず、暑いから俺もどこか入るよ」
冬乃の見つめる窓枠の、中。
統真が振り返る。
それはスローモーションのように。冬乃の視線と、統真の視線が、
かち合って。
統真が瞠目した。
冬乃は、そのまま、霧に覆われた。
0
お気に入りに追加
926
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる