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五蘊皆空
143.
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豚がブヒブヒ鳴きながら、冬乃達の後ろをついてくる。
正確にいうと沖田の後ろを。
母豚について子豚たちも連なる。
(なにこれ)
あれから沖田たちと一緒に幹部棟へ向かい。
その時も豚がついてきたので、沖田たちは笑ってしまいながら玄関で追いやって、冬乃は近藤へ挨拶をした後、恒例の近藤、沖田、冬乃に、土方たちも加わって朝餉に向かうべく再び外へ出て。
歩いていたら、また豚がいつのまにか戻ってきて。
冬乃は何度か後ろを振り返っては、すっかり沖田を気に入った様子の母豚を、溜息まじりに見つめる。
べつに、土方に揶揄われたようにライバル視しているわけでは・・ない。
豚をつれた珍妙な御一行と化している幹部達に、すれ違う隊士達のほうは一様に呆然として。
そもそも原田同様、豚を見たことが無い隊士も当然いるだろう。彼らの中には挨拶も忘れて、いきなり後ろの豚たちをぽかんと見つめる者もいた。
土方がいうには、今朝これから広間で豚についての説明をするのだそうで。
「ちょうどいいさ。お披露目に、わざわざついてきてくれるってんなら」
土方の一笑に、たしかにと冬乃は思いつつも、
(なにこれ)
どうしても、振り返るたびその感想が喉から出掛かる。
当の沖田は、当然ながら愉しそうで。
この、自分を慕う豚を近いうち食べることになると。沖田のことだから勿論、見越しているのだろうが故に、よけいに、
(シュールすぎる・・)
冬乃は再び溜息をついた。
むしろ、俺が真っ先に頂いてやるよ、と沖田なら深い愛情を籠めて言うのだろうから。
「そういうわけで松本様からの御指導に従い、豚の他に鶏も飼うことになる、使用人だけでは面倒を見きれないだろうから、貴方がたにも当番で担当してもらうことになる。以上宜しく」
朝餉の席にて。土方はそして、隊士達にひととおりの説明を終えた。
豚はさすがに広間には上がらせずに、玄関で追い払ったものの、
ここまでついてきたおかげで、多くの隊士が豚たちを目にし。成程、お披露目を無事に済ませたのだったが。
「あの豚さ、あれじゃ沖田を見つけるたびに寄ってくるんじゃないの」
朝番を終えてそのまま来た藤堂と、先ほど玄関のところで出会った。沖田の袴に擦り寄ったままの豚を目にその時に一部始終を聞いた藤堂が、
広間にすでに来ていた斎藤とともに今一度、沖田を見やった。
「さあ」
としか沖田も答えようが無い。
「沖田の何をそんなに気に入ったんだろ」
藤堂が苦笑する。
(私も知りたい・・)
藤堂と沖田に挟まれながら、冬乃も心で囁く。
「沖田のほうも愛着もっちゃ辛いよね。食べちゃうのにさ」
「儚いな」
やはり斎藤も想うところあったのか、ぼそりと珍しく言葉を発して。
沖田が穏やかに微笑った。
「愛着もつならもつほど。その時は有難く頂くよ」
「・・だよね」
藤堂が、一方でその答えを予測していたように肩を竦めた。
正確にいうと沖田の後ろを。
母豚について子豚たちも連なる。
(なにこれ)
あれから沖田たちと一緒に幹部棟へ向かい。
その時も豚がついてきたので、沖田たちは笑ってしまいながら玄関で追いやって、冬乃は近藤へ挨拶をした後、恒例の近藤、沖田、冬乃に、土方たちも加わって朝餉に向かうべく再び外へ出て。
歩いていたら、また豚がいつのまにか戻ってきて。
冬乃は何度か後ろを振り返っては、すっかり沖田を気に入った様子の母豚を、溜息まじりに見つめる。
べつに、土方に揶揄われたようにライバル視しているわけでは・・ない。
豚をつれた珍妙な御一行と化している幹部達に、すれ違う隊士達のほうは一様に呆然として。
そもそも原田同様、豚を見たことが無い隊士も当然いるだろう。彼らの中には挨拶も忘れて、いきなり後ろの豚たちをぽかんと見つめる者もいた。
土方がいうには、今朝これから広間で豚についての説明をするのだそうで。
「ちょうどいいさ。お披露目に、わざわざついてきてくれるってんなら」
土方の一笑に、たしかにと冬乃は思いつつも、
(なにこれ)
どうしても、振り返るたびその感想が喉から出掛かる。
当の沖田は、当然ながら愉しそうで。
この、自分を慕う豚を近いうち食べることになると。沖田のことだから勿論、見越しているのだろうが故に、よけいに、
(シュールすぎる・・)
冬乃は再び溜息をついた。
むしろ、俺が真っ先に頂いてやるよ、と沖田なら深い愛情を籠めて言うのだろうから。
「そういうわけで松本様からの御指導に従い、豚の他に鶏も飼うことになる、使用人だけでは面倒を見きれないだろうから、貴方がたにも当番で担当してもらうことになる。以上宜しく」
朝餉の席にて。土方はそして、隊士達にひととおりの説明を終えた。
豚はさすがに広間には上がらせずに、玄関で追い払ったものの、
ここまでついてきたおかげで、多くの隊士が豚たちを目にし。成程、お披露目を無事に済ませたのだったが。
「あの豚さ、あれじゃ沖田を見つけるたびに寄ってくるんじゃないの」
朝番を終えてそのまま来た藤堂と、先ほど玄関のところで出会った。沖田の袴に擦り寄ったままの豚を目にその時に一部始終を聞いた藤堂が、
広間にすでに来ていた斎藤とともに今一度、沖田を見やった。
「さあ」
としか沖田も答えようが無い。
「沖田の何をそんなに気に入ったんだろ」
藤堂が苦笑する。
(私も知りたい・・)
藤堂と沖田に挟まれながら、冬乃も心で囁く。
「沖田のほうも愛着もっちゃ辛いよね。食べちゃうのにさ」
「儚いな」
やはり斎藤も想うところあったのか、ぼそりと珍しく言葉を発して。
沖田が穏やかに微笑った。
「愛着もつならもつほど。その時は有難く頂くよ」
「・・だよね」
藤堂が、一方でその答えを予測していたように肩を竦めた。
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