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五蘊皆空
127.
しおりを挟むあの最初の夜のような、危うい熱のちらつく眼が、冬乃を捕らえて。
畳を背に冬乃は、左右を囲う沖田を見上げ。
靄掛かっていた冬乃の思考が。やっと状況を把握するより、前に。
沖田が舌打ちした。
(え?)
「どうも此処じゃだめだな・・かといって貴女の部屋では」
止められなくなりそうだし
冬乃が目を丸くする前で、沖田が嘆息する。
(え・・え?)
冬乃がおもわず目を瞬かせた時。
「総司、いるか?」
土方の、声がした。
「いますよ」
冬乃の上に居るまま、沖田が返事を返す。
「開けるぞ」
「どうぞ」
(え、ええ?!)
すらり、と襖が開き。
「・・・・おまえな」
当然ながら。
土方の深い溜息が、続いた。
「その状態でどうぞって言うなよ・・開けちまった身にもなれ」
「べつに何かしてるわけじゃ無いしね。居留守つかうわけにもいかないし」
「まさにその何かを、これからしようとしているところにしか見えねえよっ」
冬乃は、固まっている。
「こっちは、」
沖田は。あろうことか冬乃を腕の下に囲ったまま、会話を続ける様子で。
「貴方の気配のおかげで、その何か、をする機会を逃したんですが」
固まって沖田を見つめている冬乃の上。
沖田の剣呑な眼差しが土方へ飛んだ。
「て、おい。屯所で乳繰りあうなと言ったはずだが?」
「そこまでする気はありませんが」
「おんなじようなもんじゃねえか、何する気だった!」
「それをいちいち貴方に言ってどうすんのさ」
体の上を飛び交う応酬に、呆然と固まったままの冬乃に。
「未来女、てめえも・・」
まさかの、土方の矛先が向かってきた。
「総司にされるままになってんじゃねえ!」
(そん・・)
そんなこと、言われても
涙目と化した冬乃の上。
沖田が、ふっと目を細めた。
「冬乃に誘われたら、俺が断れるわけないでしょ」
(え)
「誘・・っ・・ウブそうなふりして、元凶はおまえかよ!」
(えええ?!)
「てのは冗談です土方さん」
沖田が、飄々と。哂った。
「・・・・」
眩暈がしたらしい土方が、襖の桟に手を掛ける。
「で、用は何です」
沖田が続けて聞くのへ。
土方は諦めたように今一度、溜息をついた。
「明日、黒谷に朝一で行くからついてきてくれと、言いに来たんだよ」
「勿論いいですよ」
「・・・非番のところ“邪魔”したな」
土方は、沖田以上に剣呑な眼で、皮肉さながらのそんな台詞を吐くと。
「いいか。乳繰るなよ」
冬乃がもはや蒼くなるような命令を言い捨て、襖を閉じて行った。
(・・・)
恐る恐る沖田を見上げる冬乃に。
向き直った沖田が、愛しげに冬乃を見下ろして。にっこりと微笑った。
「邪魔、されたけど。続きする?」
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