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碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。
序章
しおりを挟むこの世界がこのまま止まってしまえばいい
私の戻る先は
それならいつも、この夜だけ
もう幾度、こんなことを願いながら
貴方の腕に、抱かれてきたでしょう
「・・何をまた、考えてるの」
低く、私の耳元で微笑うその声に、
私は瞼をもたげる。
宵の薄闇に、ふたりきりの。
貴方だけしかみえない、幸せなはずのひととき。
静かに髪を梳かれて。
首筋に、辿って耳朶、頬へと。
落とされてゆく優しい貴方の口づけ。
私は閉じかける瞼に、懸命に抗う。
このときを。私のすべてに、刻むために。
貴方を、うしなっても、
この記憶だけで
生きていけるようにと
だけど、どうか
ほんとうの奇跡があるのなら
お願い、この先の時を止めて
このまま幾度もこの夜だけへ戻ってこさせて
この先に向かうさだめに怯えて時を重ねゆく、この日々に
永遠の終止符を
かた、と。小さく障子を揺らし風が外を過ぎた。
「冬乃・・」
愛しげに私の名を呼んで見おろす貴方は、ことばになんてしなくても伝わるほどに、その眼にこめてくれる。
応えたくて。貴方の首へと腕をまわして、私は胸に囁く。
同じように、ひとつのことばになどならない、
幾つもの想いを。
「総司さん・・・」
だけど伝わらないようにと、
私の側のこんな想いなら。
そうして、いつも隠してしまう、
「愛してます」
唯、それだけの、ことばのなかに。
貴方を遠くで、時を超えた遥か遠くで、想うだけの毎日で
もしもこうして貴方に逢わなかったなら
世界は澱んだままだった
生きることの愛しさも輝かしさも知らないままだった
けれど
もしもこうして貴方に逢わなかったのなら
まるで身を切り裂かれるまでのこんな辛苦も
この枯れ果てるすべのない恐怖も
知らなかったでしょう
それでも、何度生まれ変わってでも。
貴方の最期へむかう、この日々であっても、
また戻ってきたいと。
いつかは来るのでしょうか。
もう一度、そう思えるときが。
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