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節約生活1章「どうしてこうなった!」

とおもと魔女と剣士【2】

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狭い家の中で、ピリピリとした空気が空間を支配している。
俺とリエッタはテーブル越しに向かい合って座り、お互いを意識し合いながらジリジリとにらめっこをしていた。
そのテーブルの横には、リッフィーの使い魔であるクロマティが、相変わらずニコニコと平然を装い、お茶を淹れ直しつつ、こちらの状況を観察しているような感じだ。
側から見れば、この状況はどの様に映っているのであろうか。
もし、俺が第三者の傍観者だとすれば、絶対に茶化す程度に面白い光景に違いない…。
…そして、そんな3人を放置して、この家の主であるリッフィーの姿は、近辺には見当たらなかった…。
なぜこのような状態になってしまったのか…。
俺が悶絶もんぜつタイムを終えて、リエッタと衝突していた時に、風のような自然さと独特の間を使い、リッフィーが会話に横槍を入れてきたのであった。

「キノノとモリナ採集してきて、汗かいちゃったし、シャワー浴びてくるね…。」

これを発言した後に、俺達に発言権を与える前に、奥にある風呂場へと瞬時に消えていったのである。
そして、話の腰を折られた俺達は、言い争う事も何もせずに、只々いがみ合いが続いたのである。
それをあざ笑うかのように、風呂場から発せられる、絶え間なく水がしたたり落ちる音を耳にして、堪れない空気感が、刻々と刻まれていった。
まさに、筋金入りのマイペース人間の行動に、振り回されている感じである。
何時間経てば…この状況から解放されるのだろうと思っていると、それは意外にも早く訪れた。

「そろそろ、主人あるじが出てくるみたいですよ。」

クロマティが無言の空間を断ち切り、ドアの無い部屋の奥へと、そそくさと入っていった。

「ちょ、おまえどこ行くねん!」
「使い魔の仕事ですよ。」

流石にリエッタと2人っきりは耐えられないと思い、一旦外の空気を吸おうと席を立とうと考えたが、すでに水のしたたる音は消えていて、奥の扉が開く音が聞こえてきた。
それと同時にクロマティも、手に中身の入ったビールジョッキぐらいあるガラス製のコップを持ち、すぐにリッフィーの元へと届けた。
リッフィーは口頭では頼んでもいない、白い飲み物を受け取り、火照った体を気にしながら、無表情のまま液体を口の中へと一気に流し込む。
いい飲みっぷりだ…。

「ぷはぁ!やっぱり、風呂上がりの一杯はたまらないわよね…。」

おっさんがよく使う言い回しをテンプレ通りに発言して、冷たい飲み物だとちゃんと思わせる程の、頭がキーンとなる感覚が傍から見ていても感じ取れる仕草がをとっていた。
目をギュッと閉じていたリッフィーが、突然しらふの無表情となり、ひと呼吸置いてから、これまた急に話を切り出してくる。

「って事で…2人共に少し落ち着いてるみたいだから、さっそく本題に入りましょうか…。」
「どこが落ち着いとるねん!」
「どこが落ち着いてるのよ!」

俺とリエッタは、息ピッタリの同じタイミングで、リッフィーにツッコミを入れる。

「息ぴったりだね…。」
「どこがやねん!」
「どこがよ!」

ツッコミのタイミングがバッチリ過ぎて、爽快感を覚えるが…今は不快感も感じ取れる。
しかし、リッフィーはそんな事は御構い無しと言わんばかりに、俺達の険悪なムードを残したまま、自分のペースで本題の話を語りだした。
この子は、自分の事しか考えてないのか…。

「私とリエッタは共和国側で現世から召喚された、ともおと同じ世界で生活していた人間なの。訳あって共和国側の魔法陣を使わせてもらって、私は異世界へとアプローチを取って、こっちの世界へと召喚させてもらったのよ。」

リッフィーが語りだしてしまえば、もう止まる事は無いだろう…。仕方がないので、リエッタとは一時休戦を取りちゃんと話を聞こう。
リエッタも感覚で察してくれたのか、嫌そうにそっぽを向いて、リッフィーの話に耳を傾けている。

「ほんで、その訳っちゅうのは、何やねん。」

俺は素朴な疑問を投げ掛けてみた。

「私のおじいちゃんが死に際に言い残した最後の言葉を、解明する為の一つの過程…。」
「ほんで、その過程ってなんなんや?」

リッフィーは、少しだけ考えて急にまた語り出す。

「ちなみに、私のおじいちゃんの名前は、原田りょうや…。」
「はぁぁぁ???」

俺は驚きのあまり、声が裏返ってしまう。
だって原田君は、俺が知る限り未婚なので隠し子がいない限り、子供なんかいるはずが無い、ましてやリッフィーは孫と言っている。

「おじいちゃんが病に倒れてしまい、もうこの世には居られないと悟ったのか、病室で最後の力を振り絞り言い放った言葉が、『昔、コンビを組んでた奴の名前が、どうしても思い出せへんのや…バタリッ…チーン。』だったの。」
「え?なに?最後の『バタリッ…チーン。』も発言したんか!?」
「うん。それもおじいちゃんの口から発せられた発言だったから、最後の言葉として認識してる…。」

最後までツッコミを入れて欲しいという願望は、原田君らしい最後なのかもしれない…。
ってちょっとまて、自然体で普通に聞いてたけど矛盾だらけやぞ…。

「最近、少し異世界慣れしてきたんやど…今回の内容は理解に苦しむで…もっと、わかりやすく説明してくれへんか?そもそも、お前のおじいちゃんは一体何歳やねん…。」
「おじいちゃんは、丁度卒寿そつじゅの年だったから90歳だったかな…。」

何がどうなって、原田君が90歳になってしまったんだ?
俺の頭が半分に割れてしまいそうな程、理解に苦しんだ…。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…。原田君と俺は同い年やぞ?90歳なわけがないやろ?」

辻褄が合わない事を説明すると、異世界ならではの回答が返ってくる。

「その点についてなんだけど、私達が元居た世界と異世界での時間軸は均等に流れて無いのよ…。だから、2つの軸を移動する際に、どのスタート地点からでも出発が可能…。極端な話しをすると、元の世界から移動するにあたって、異世界の創世の日から終焉の日まで、どの時間帯にでも移動ができるわよ…。」

俺は本当に何を言われているのかさっぱり分からず、口を開けてだらしない顔で思考を停止させてしまう。
何も答えられない俺に痺れを切らしたリエッタが、補足程度に口を挟んできた。

変態ともおのオツムは、やっぱり変態ともおなのね…。」
「な、なんやと!!!」
「例えるなら…今から変態ともおがこの異世界から元の世界に戻るとすると、その時に変態ともおが住んでた年の時間軸にも私達が住んでた年の時間軸にも、戻る事が出来る選択肢があるって事よ。」

説明された事より変態変態と連呼されている事に腹を立てて、内容は一切入ってこない。

「俺は変態ちゃうわ!」
「うっさい!黙れ!」

もう、辛抱がたまらん…堪忍袋の尾が切れそうな時に、急に俺のお腹がライオンの遠吠えをあげる。

「…。」

その音が鳴り止むと、急に何事もなかったかのように、部屋の中は静まり返った。
怒るタイミングを見失い、少しの失笑が生まれる。
そもそも俺の当初の目的は、空腹感を無くす為の、食料採取だったはずだ。
そりゃ長時間何も食べ物が体内に摂取されなければ、お腹の堪忍袋の尾も切れますよ…。
何を思ったのかリッフィーは、リエッタの顔を凝視し始めている。
リエッタはしばらく考えたが、すぐに理解したようで。

「あぁー、はいはい、わかった、お腹へったのね…。」

リッフィーの訴えが、ちゃんとリエッタに届いたようで、顔を煌めかせながら、必死に首を上下に振っている。

「今から作ってあげるから、ちょっと待ってて…。」

リエッタは俺の方へ、嫌々と目線を送る。

変態ともおの分も、仕方なく作ってあげるわよ!」
「そんな言い方するんやったら!!」

ライオンの遠吠えが、『いらんわ。』と答える前に、邪魔するようにうなりをあげた。
かなりご機嫌斜めな腹の虫さんの素直な声を聞き、リエッタはバカ笑いしながら扉のない部屋へと消えていった。
リエッタがいなくなって、少しは話しやすい環境になったと思い、前向きに捉えよう…。
リッフィーは話の路線を元に戻し、会話を再開させる。

「それでさっきの説明で、理解できた?」
「イライラして、頭に一つも入ってこんかったわ…。ややこしい事を抜きにして、とりあえず原田君が90歳って仮定して話を続けてくれ…。」

俺は原田君を90歳と仮定して、少し落ち着いて頭を整理しながら考えてみると、また一つ大きな疑問点が生まれてくる。

「頭に中に疑問が浮かんできたんやけど…。」

リッフィーは首を傾げて、俺に注目した。

「俺の名前を原田君が思い出せんのは何でや?もしかして、俺が異世界に飛ばされてしまった事で記憶が抹消させられてまうんか?」
「半分は正解で、半分は間違い。異世界に飛ばされただけだと、記憶そのものは残ってるよ…。ただ条件を満たしてしまうと、現世での存在や記憶は、魔法の力で消されてしまうみたい…。」

なにか深刻な雰囲気を感じ取り、俺はなんとなく生唾を呑みながら理由を訪ねてみた。

「そ、それで、その条件ってなんなん?」
「酷な話しになるんだけど…ともおは異世界で死んでしまう運命を辿り、現世での存在や記憶がごく一部を残して抹消されてしまったのよ。」
「じゃ、じゃぁ…なんでお前は俺の事をしってるねん!」

俺の焦り口調な発言に対して、あっさりと言葉を投げ返される。

「ごく一部を残してって言ったと思うけど、その一部がおじいちゃんの記憶のどこか深い片隅の方に、わからないような記憶としてわずかに残っていて、さっき言った最後の言葉を発したんだと思う…。それを聞いた私は、その言葉がどうしても気になって、情報も何も無い中で調べることにしたの…。当たり前の事だけど、存在そのものが消されたともおの情報は、何処にも…何も出てこなかったわ。」
「それやったら俺の事って、何もわからへんのちゃうんけ?」
「…話は最後まで聞いて…。」

せっかち気味に答えを急ぎ過ぎたらしい。
俺は改めて聞く体制を取る。

「魔法の力が加わって消された記憶は、最初っから無いような情報を入手するような物…星を掴むより難しい程、何回も何回も手で空を切るようにあらがったわ…。そして、数週間が経ったある日。半分諦めながら外のベンチで落ち込んでいる時に、ふと横でボッタクリ感が漂う占い師が目に入ってきたの。どうせ無理でも何もしないよりかはマシかと思い、藁をも掴む思いで占ってもらったわ…。」
「おいおい、まさかと思うが…そんなチンケな占い師が、俺の情報を持ってたって言うんか?」

俺は神妙な面持ちでリッフィーに問い掛ける。
しかし、彼女は首を横に振りながら話を再開させた。

「占いによると、『一度、お祖父様の墓に行き、念を送れば答えが返ってくる。』って言われたわ。」
「まさかとは思うが…そんなインチキっぽい事を、真っ当に信じたって行動したって言うのか?」
「壁にぶち当たって、他に何かする当ても、何も無かったからね…。」

行動力がある活発な子なのか、何も考えていない馬鹿な子なのか…。
原田君の子孫って事は、前者でも後者でも、当てはまりそうな気もする。

「最初は半信半疑で有り得ない事だとは思ってたんだけど、一応おじいちゃんの墓場まで行って、試しに念を送って見たら…頭の中でおじいちゃんが直接、語りかけてきたわ…。正直、驚いて慣れるまで時間がかかったわ…。」
「そりゃそうやろ…。死んでも魂は残ってとるとか…。どれだけ俺に未練があるねん…。」

リッフィーはその言葉を聞いて、すぐに鼻で笑ってくる。

「なんやねん!」
「おじいちゃんは、ともおの記憶が蘇っても、ともおに未練なんかこれっぽっちも無かったわよ…。それよりも、ともおが残していった家族の方を、気がかりにしていたみたい…。」

俺の存在が抹消された事によって、あの時平和ピンフ堂で起こった出来事の後、すでになっちゃんの頭の中からは、俺の存在は消えていた事になる…。

「おじいちゃんの中に存在した、ともおの記憶は、コンビを組んでいた人物の名前を忘れてしまった程度に収まっていたけらしいけど、あなたの家族から記憶が消えてしまった事によって…記憶の形が一番色濃く残ってる家族達は、ひどく悩み…苦しんだと聞かされたわ…。」
「そ、それは…マジな話なんか…。」

俺は額から汗が滝のように噴き出してくる。
無表情のまま淡々と話すリッフィーも、さすがにこの話をするにあたって、表情を曇らせている。

「だけど…。」

リッフィーは何か強い思いを向けて、こちらに語りかけ始めた。

「そこで…お節介な事を承知で、ともおを現世に帰還させて、元の人生のレールの上に戻してあげようと思った訳です。」

突拍子もない答えが返ってきて、嬉しい気持ちと複雑な気持ちが入り混じっていた。

「ど、どうして、そこまでしてくれるんや?」
「もぉー、何が何だかー!!!!」

この真面目な話の途中で、原田君の子孫に当たる子から、突然に使いどころが間違っている原田君のギャグを全力の棒読みで投げかけてきた。

「きゅ、急にどないしてん!」
「ちなみに既に死亡フラグは、とっぱらったから、現世での記憶は多分…元に戻ってるはずよ…。今後、死亡フラグが立たない限りね…。」
「いやいや、いきなりまた話題をもどすなや!」

話が一段落付いた感と同時に、リエッタが奥の扉のない部屋から、お腹の神経を直接的にえぐりつける程の、殺人的な旨そうな香りを漂わせている、大皿に入った食べ物を持ってテーブルの真ん中にどさっと置いた。

「勝手に香り油使ったけど大丈夫だった?」
「貴重なものだけど、食材は好きに使っても構わないわよ…。」

目の前に出された料理に、今にも飛び付きそうな程、食べたい欲求が前へ前へと押し寄せてくる。

「キノノとモリナの香り油炒め。味付けは塩胡椒っぽい物のみ!キノノとモリナを単純に火を通しただけの素材の味をふんだんに生かした料理よ。」

リエッタの説明なんかどうでもいい、俺に早くこれを食べさせてくれ!!!
クロマティが棚から皿を3つ分取り出し、俺達の座るテーブルの前まで持ってきた。

「あ、あれ?3つ分?」
「僕は、食べませんので…。」

クロマティが遠慮がちに後方に下がると、リエッタが言葉をかける。

「クロマティの分もあるわよ。この変態ともおが取ってきた毒アリの食材を勝手に調理したからね。だから自分の分もお皿もってきて大丈夫だよ?」
「お、おい!勝手に俺の取ってきた食材を、なにするんや!!!」
「うっさい!黙れ!変態ともおの分も作ってやったんだから文句言うな!」

俺とリエッタの争いが、またヒートアップしそうになるが…。
リッフィーは、既にみんなの皿に料理を盛り付けて、口をもごもごさせながら精一杯の大きな声を出した。

いがみ合うのらあろ!もごもご…冷めらいうちに食べらいと美味ひくらい!!」

今までに聞いた事のないようなリッフィーの声に、俺達は何故か言いくるめられてしまう
なので、争いはこれ以上発展する事はなかった…。

もう待てない…。
料理を目の前に俺のお腹の虫は、もう限界を突破している…。
とりあえず、嫌々ではあったが作ってもらったことに感謝を込めて、フォークを両手で親指と親指の間にはさみ入れて合掌をした。

「いただきます!!!」

一口、口の中へと頬張ると、前の情景が急に霞んで見えるようになってくる。

「あ、あれ?なんや変やな…。」

何事かと思い、目を擦ると水が付着したような感触が伝わってくる。

「ちょ、ちょっとなんで、泣いてるわけ…。気持ち悪いわね…。」

俺の今の状況を、リエッタは的確に指摘する。

「俺は泣いてるのか?」
「…うん…。ブッサイクな顔が、モンスターかと思えるくらい醜いわよ…。」

そんな事を言われたら、いつもであれば激怒するところだが、今はそんな気持ちが湧き上がってこない…。

涙が出た理由…。

これは、お腹が空きすぎた状態で、物を口にした事による安心感?
それとも、しゃくではあるが…料理がとても美味すぎた事によって、感動に満ち溢れた高揚感?
そんな事を色々と思ったが、近い感情は心の中にあるものの、どれも不正解である。
この感覚は、どこか懐かしさを感じさせる味…多分、お袋の味ってやつだ。
そうか!これは異世界の食材を使ってはいるが、なっちゃんの作った手料理に、味が何故かそっくりなんだ…。

俺の瞳は涙腺を決壊させて、更に多くの涙がこぼれ落ち、最後の方は塩味がベースの料理となっていたのである。
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