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第1章「反魔王組織」
ピッチ山
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「この山ってこんなに魔物が多かったっけ?」
俺は木々の合間を拭うように斜面を走りながら、襲い掛かってくる魔物を次々と瞬殺していた。
クレアも同じようにして後を遅れながらも、魔物を倒しつつ追いかけてきている。
「あの事件を境に魔王の支配力が強大になっていったせいで、ピッチ山の全域は魔物や不届き者の格好の住処よ。一般人は決して近付こうともしないし、腕っぷしの強い者や変わり者ぐらいしか絶対に足を踏み込まないわ……」
クレアは少し大きめな木の魔物であるウッドマンを、簡単に切断しながら冷静に俺の質問に応じた。
ピッチ山とはライ島の中央にそびえる一番大きな山。
ファスト村から南側に位置していて、そのふもとにはショショ洞窟もある。
その山に何故俺達が急いで登っているかと言うと……。
―――遡る事約1時間前―――
「こ、この!ド変態っ!!」
俺はクレアの鋭い良い右フックをお腹に貰い、気を失いそうな状態になっていた。
数秒間だけ宙を舞うと、そのまま床に叩きつけられるように激しく落下する。
「痛っ!!」
意識は頭を打った衝撃で、現世へと引き戻されていた。
少し何が起こったのかが理解できなかったが、頭をフル回転させて一気に現実を受け止める。
頭を左右に振りながら、よちよちとその場に立とうとしていた。
やわらかい、胸の感触?いや、その感触よりももっと前の記憶を思い出せ……。
俺は急にナナの事を思い出し、顔色が悪くなった。
吐きそうな気分を飲み込んでクレアに訴えかける。
「ナナは帰ってきてないのか!!」
俺の必死の訴えにあっさりとした表情でクレアは回答した。
「えっ?えぇ……貴方が倒れてから直ぐに一度帰ってきたわよ」
え?帰ってきたのか……。
じゃぁ、あの映像はいったい……。
俺は辺りを見渡して、ナナの姿を探してみる。
その様子を見るなり、クレアはもう一言付け加えて喋った。
「帰って来た事は帰って来たんだけど……急の私用任務があるからって直ぐに出ていったのよ」
「なんだって!?」
俺の声は想像以上に大きく発せられ、店内へと響き渡った。
微かな希望を返してくれ……。
「うるさいぞ!」
店主が奥の自分の寝室から、目を擦って怒鳴りながら現れた。
不機嫌極まりない顔で、大きなあくびをしている。
クレアが俺の叫びに対して、何か不安そうな顔で喋りだす。
「急にどうしたのよ……」
俺はその言葉を聞いて、慌てふためきながらクレアに訴えかけた。
「ナナが死んでしまうかもしれない!!早く助けに行かないと!!」
「え?ちょ、ちょっとどういう事よ!」
「説明してる暇がないから、また戻ったら話す!」
俺は自分を奮い立たせるように、その場でほっぺたを2度叩く。
あっ、そうだ……。たぶん門左衛門と戦闘になる事は間違いないだろう……。
その為には、必ず武器が必要になってくると思われる。
本当は戦闘は極力避けたいというのに……どうしてこんな形で巻き込まれるんだよ……。
「すまんが……俺にそのツーハンドソードを貸してくれ!」
俺はクレアに武器の貸し出し交渉を持ち掛けた。
何度か使っているが、とても業物で使い勝手がいい剣だ。
これさえあれば……。
「いやよ……」
交渉は一瞬にして決裂した。
クレアなら快く快諾してくれると思ってたのだが……。
彼女が強く断った後に、淡々と理由を話し始める。
「貴方に傷を癒してもらった事や助けてもらった事は感謝してるわよ。でもね……納得する理由を述べてからにしてもらわないとこっちは意味が分からないの!何でねぇさんが死んじゃうってわかるわけ?そんなの未来予知してるようにしか見えないじゃない?貴方は未来が見えるの?どうなの!!」
クレアの言いたい事が爆発的に出たことが、段々と強くなる口調でハッキリと見て取れる。
ごもっともな回答をありがとうございます。
でも……こうしてる間にも刻々と、ナナの死へのカウントダウンは始まっている。
俺に夢の中で「まだ間に合う」と助言してくれた子もいたんだ……。
結局あの子は誰だったんだろう……。
夢の事をハッキリと思い出せない事はよくある事だが……。
ハッキリしない夢はすべてナナの無残な肉片で埋めつくされていて、その前に見た夢の記憶はすべて有耶無耶になっている。
でも……これだけは確かに言える事が一つある。
1度体験したクレアの危機を悟った頭痛が、もう1度ナナの危機を知らせる物として起こったのだ……。
ナナが肉片に化す事は、必然的に起こりうる真実だと言い切れよう。
もう考えてる余裕も時間もない……。
取るべき方法はこれしかないと思った。
「走りながら説明するから、お前も来い!」
「え?ちょっと!何っ!?」
俺はクレアの腕を握って、店から勢いよく飛び出そうとした。
彼女は急な出来事に慌てていたが、しっかりと自分の剣を持つと出入り口から一緒に飛び出してくれる。
微かに店主の「いってらっしゃ~い」と言う言葉が聞こえた気がした。
―――そして現在に至る―――
と言った経緯があり……俺は彼女に一通りの頭痛の事や門左衛門の事を話した……。
「私にはその頭痛が予知だという事が、今一つ信憑性の沸かない事なんだけど……」
「間違いであって欲しいのは山々なんだが……俺にはお前が囚われている映像が映し出されて助けに行った実証がある。何もなかったらそれでいいから!今は俺を信じて付いて来てくれ!」
俺達は会話をしながら、無限に沸いてくる魔物を次から次へとなぎ倒していった。
「でもどうしてピッチ山の頂上にねぇさんがいるって見当がついたわけ?映像でこの場所が映ったの?」
「それも理由の一つだけど……門左衛門を隠れて飼うならここが一番適切だと俺が言ったんだ。もしナナと門左衛門が会うとしたらこの山が一番確率が高い」
実は門左衛門を飼う事は、他の仲間や関係者などには内緒にしていた事だった。
特にドラゴンスレイヤーの称号を持つ、ナナの父親のストロガーヌには絶対に耳に入れてはいけない。
ナナは幼い頃に母親を亡くしている。それはほとんど記憶に残らない程の写真でしか見た事がない記憶。
病弱で体が弱かった母親は、病気で死んだ事となっているが……。
しかし実際は旅先でドラゴンの爪に引き裂かれて幼いナナを守りながら、ストロガーヌの目の前で殺された事が真実だ。
その設定に従うようにして俺とナナだけの2人だけの秘密となっているわけだが……。
クレアに知られたことは致し方無い事だと割り切ろう……。
頂上に近づくにつれて魔物のレベルも上がっていき、数は若干ではあるが少なくなってきている。
この山の強いモンスターがいくら出てこようが、俺の敵ではないのだがな!
そんな事を思いつつ前のドスゴブリンを素手で瞬殺すると、俺はチラリとクレアの方向を見た。
それにしても昨日のメイド服のままで戦っているクレアの姿が凄くエロ……あ、いや違った……勇ましく見えるな。
彼女の胸がたゆんたゆんっと上下して、俺の心までもが上下してたゆんたゆんしていた。
「ちょ、ちょっと!前っ!前見なさい!!!」
クレアがこちらを見ている事に気付いて、俺に忠告をしてきた。
どんな魔物が来ようが俺の敵ではないのだから、余裕で瞬殺してやるよ……。
と意気込みを見せて前を見る。
その一瞬の油断が、足止めをされてしまう事になるとは……。
明らかに魔物ではない鋭利な刃が上から振り下ろされていた。
「ぐはっ!」
筋力強化系魔法をかけていたお陰で、急所は外す事が出来た。しかし、無傷では済まない。
「何よ!貴方たちは!」
クレアが声を荒げて、俺を切りつけた奴らに声を投げかけた。
右肩を軽く切られたぐらいなので、痛いが普通に動ける。
「我々はピッチ山盗賊団だ!大人しく金目の物とそこの女を置いて立ち去れ!」
あー……居たな……こんな奴ら……。
昔の記憶を遡りこんな盗賊団を作った記憶を思い出していた。
いやいや、今は思い出に浸ってる場合じゃない!
「すまんがお前らと遊んでる暇はない!」
「なんだと!!」
俺を斬りつけた盗賊が、シミターを素早く上へと振りかぶった。
いい物持ってるじゃないか……。
俺はすかさず敵の懐に潜り込む。
「はい!いい夢みろよ!!」
そのまま盗賊の腹の溝へ峰内程度の衝撃を与えた。
彼は声にならない声を吐いて、さっきまで元気だった眼光から白目に変わり、そのまま泡を吹いて膝から崩れ落ちた。
崩れていく際に盗賊の手に持っていたシミターを簡単に奪い取る。
ピッチ山の頂上付近をねぐらにする盗賊だからレベルは相当高いはずだが、俺はいとも簡単に1人目を倒してやった。
ほかの団員達は一歩だけ後ずさんだ様子だったが、まだ立ち向かってくる殺気は十分に感じ取れる。
「突破するぞ!!」
俺の掛け声を聞いたクレアは、軽く頷いて一緒に盗賊団の合間を走り出した。
大人しくしていればいいのに、性懲りもなく敵の攻撃の波はこちらを飲み込んでいく。
俺はシミターを使わず素手で殴り、クレアは器用に剣の斬れない側面のヘラ部分で殴打して対応している。
当たり前の事だが現世では人殺しなどはした事はない……だからこそ無駄な殺生は好んで致しません!
クレアも俺と同じ側の人間でよかった……。
たぶん昔の仲間のヴァッシュなら、一思いにこいつらは皆殺しにされていただろうな……。
俺達は考え事をしながらでも余裕綽々に盗賊の間を縫っていった。
その最中、ふと盗賊の群れの間から視界に妙な人物が離れた場所を走っているのが見えた。
盗賊達は俺とクレアを必死に抑え込もうとしているのに、何故あいつは逃げる様にして山を下りているんだ?
盗賊団とは別の人物?それか応援を呼びにいった仲間か?
色々な思想が入り混じりながらも、今は害がないと判断して突き進むことにした。
一気に盗賊団の人混みを抜ける事に成功すると、視界が晴れていき広い場所が見えてくる。
頂上だ。
「あそこに居るのは、ねぇさんじゃない?」
クレアが言った通り、あの後ろ姿は間違いなくナナだ。
間に合った!間に合ったぞ!とほっと一息つく暇も与えてくれない……。
ナナのいる上空の光景が目に飛び込んでくる。
威風堂々と威厳を見せるかの如く、青いドラゴンが突風をまき散らしながら宙に浮いていた。
あのドラゴンは間違いなく門左衛門で間違いないようだ……。
これはやばいかもしれない……。
ここからナナまでの距離が離れすぎていて、普通に走っても絶対に間に合わない位置に居る。
くそっ!!ここまで来たのに間に合わないとか冗談にもほどがある。
いや、間に合わないんじゃない!間に合わせるんだ!!
俺は魔法詠唱体制に入った。
「クレア!俺をナナの方向へ合わせて、全力でぶった切れ!!」
「え?なんで?!」
「いいから!間に合わなくなる!!」
「え?え?……もう!いつも勝手なんだから!どうなってもしらないわよ!!」
クレアは俺に向かって大きな剣を振りかぶった。
俺はその行動を見計らって、詠唱を始める。
『詠唱省略!フィジックスリフレクト!!』
俺の全体にうすいシャボン玉の球体の膜が現れた。
クレアが振りかぶった剣は、勢いよく俺に襲い掛かってくる。
そのまま吸い込まれる様にして斬撃をシャボン玉が優しく包み込んだ。
弾力感があるシャボン玉は、包み込んだ斬撃を反発するようにして弾き返す。
俺はその勢いに合わせる様にして、大地を力いっぱいに前へと踏んで飛び出した。
自分の力と反発する力が合わさり、自分の体は一気に1つの弾丸のようにして射出される。
フィジックスリフレクトが初級魔法だからこそ出来る荒業だ。
これが中級魔法のフィジックスリフレクションや上級魔法のフィジックスバリアだと反動が反発しないため実質上射出される事は不可能となる。
だが物理防御だけに特化して、反動が伝わってくる初級魔法のフィジックスリフレクトが最適だったという事。
パッと思い付きでやってみたが、意外に上手い事出来るものだと心の中で思ってる……余裕はなかった……。
いくらレベルを上げて速さに慣れているとはいえど、自分のキャパシティオーバーの速度には頭や体がついていかない……。
これが俗にいう音速を超えた世界なのかもしれないな……。
俺の周りは風を切る轟音を響かせているであろう……。しかし、その音は自分にはまったく聞こえてこない。
風を切る無音の世界に俺は居る。
体感重力に耐えつつも顔を無理矢理上げて、顔を押しつぶされながらもナナの方角を向いて視界に捉えた。
今まさに……あの頭痛と同じようにして、門左衛門がナナの元へ急降下してきている。
「まぁ・にぃ・あぁ・えぇぇぇぇ!!」
たぶん周りからは何を言ってるかわからない奇声を上げながら、俺はナナの元へたどり一瞬で着いた。
俺は木々の合間を拭うように斜面を走りながら、襲い掛かってくる魔物を次々と瞬殺していた。
クレアも同じようにして後を遅れながらも、魔物を倒しつつ追いかけてきている。
「あの事件を境に魔王の支配力が強大になっていったせいで、ピッチ山の全域は魔物や不届き者の格好の住処よ。一般人は決して近付こうともしないし、腕っぷしの強い者や変わり者ぐらいしか絶対に足を踏み込まないわ……」
クレアは少し大きめな木の魔物であるウッドマンを、簡単に切断しながら冷静に俺の質問に応じた。
ピッチ山とはライ島の中央にそびえる一番大きな山。
ファスト村から南側に位置していて、そのふもとにはショショ洞窟もある。
その山に何故俺達が急いで登っているかと言うと……。
―――遡る事約1時間前―――
「こ、この!ド変態っ!!」
俺はクレアの鋭い良い右フックをお腹に貰い、気を失いそうな状態になっていた。
数秒間だけ宙を舞うと、そのまま床に叩きつけられるように激しく落下する。
「痛っ!!」
意識は頭を打った衝撃で、現世へと引き戻されていた。
少し何が起こったのかが理解できなかったが、頭をフル回転させて一気に現実を受け止める。
頭を左右に振りながら、よちよちとその場に立とうとしていた。
やわらかい、胸の感触?いや、その感触よりももっと前の記憶を思い出せ……。
俺は急にナナの事を思い出し、顔色が悪くなった。
吐きそうな気分を飲み込んでクレアに訴えかける。
「ナナは帰ってきてないのか!!」
俺の必死の訴えにあっさりとした表情でクレアは回答した。
「えっ?えぇ……貴方が倒れてから直ぐに一度帰ってきたわよ」
え?帰ってきたのか……。
じゃぁ、あの映像はいったい……。
俺は辺りを見渡して、ナナの姿を探してみる。
その様子を見るなり、クレアはもう一言付け加えて喋った。
「帰って来た事は帰って来たんだけど……急の私用任務があるからって直ぐに出ていったのよ」
「なんだって!?」
俺の声は想像以上に大きく発せられ、店内へと響き渡った。
微かな希望を返してくれ……。
「うるさいぞ!」
店主が奥の自分の寝室から、目を擦って怒鳴りながら現れた。
不機嫌極まりない顔で、大きなあくびをしている。
クレアが俺の叫びに対して、何か不安そうな顔で喋りだす。
「急にどうしたのよ……」
俺はその言葉を聞いて、慌てふためきながらクレアに訴えかけた。
「ナナが死んでしまうかもしれない!!早く助けに行かないと!!」
「え?ちょ、ちょっとどういう事よ!」
「説明してる暇がないから、また戻ったら話す!」
俺は自分を奮い立たせるように、その場でほっぺたを2度叩く。
あっ、そうだ……。たぶん門左衛門と戦闘になる事は間違いないだろう……。
その為には、必ず武器が必要になってくると思われる。
本当は戦闘は極力避けたいというのに……どうしてこんな形で巻き込まれるんだよ……。
「すまんが……俺にそのツーハンドソードを貸してくれ!」
俺はクレアに武器の貸し出し交渉を持ち掛けた。
何度か使っているが、とても業物で使い勝手がいい剣だ。
これさえあれば……。
「いやよ……」
交渉は一瞬にして決裂した。
クレアなら快く快諾してくれると思ってたのだが……。
彼女が強く断った後に、淡々と理由を話し始める。
「貴方に傷を癒してもらった事や助けてもらった事は感謝してるわよ。でもね……納得する理由を述べてからにしてもらわないとこっちは意味が分からないの!何でねぇさんが死んじゃうってわかるわけ?そんなの未来予知してるようにしか見えないじゃない?貴方は未来が見えるの?どうなの!!」
クレアの言いたい事が爆発的に出たことが、段々と強くなる口調でハッキリと見て取れる。
ごもっともな回答をありがとうございます。
でも……こうしてる間にも刻々と、ナナの死へのカウントダウンは始まっている。
俺に夢の中で「まだ間に合う」と助言してくれた子もいたんだ……。
結局あの子は誰だったんだろう……。
夢の事をハッキリと思い出せない事はよくある事だが……。
ハッキリしない夢はすべてナナの無残な肉片で埋めつくされていて、その前に見た夢の記憶はすべて有耶無耶になっている。
でも……これだけは確かに言える事が一つある。
1度体験したクレアの危機を悟った頭痛が、もう1度ナナの危機を知らせる物として起こったのだ……。
ナナが肉片に化す事は、必然的に起こりうる真実だと言い切れよう。
もう考えてる余裕も時間もない……。
取るべき方法はこれしかないと思った。
「走りながら説明するから、お前も来い!」
「え?ちょっと!何っ!?」
俺はクレアの腕を握って、店から勢いよく飛び出そうとした。
彼女は急な出来事に慌てていたが、しっかりと自分の剣を持つと出入り口から一緒に飛び出してくれる。
微かに店主の「いってらっしゃ~い」と言う言葉が聞こえた気がした。
―――そして現在に至る―――
と言った経緯があり……俺は彼女に一通りの頭痛の事や門左衛門の事を話した……。
「私にはその頭痛が予知だという事が、今一つ信憑性の沸かない事なんだけど……」
「間違いであって欲しいのは山々なんだが……俺にはお前が囚われている映像が映し出されて助けに行った実証がある。何もなかったらそれでいいから!今は俺を信じて付いて来てくれ!」
俺達は会話をしながら、無限に沸いてくる魔物を次から次へとなぎ倒していった。
「でもどうしてピッチ山の頂上にねぇさんがいるって見当がついたわけ?映像でこの場所が映ったの?」
「それも理由の一つだけど……門左衛門を隠れて飼うならここが一番適切だと俺が言ったんだ。もしナナと門左衛門が会うとしたらこの山が一番確率が高い」
実は門左衛門を飼う事は、他の仲間や関係者などには内緒にしていた事だった。
特にドラゴンスレイヤーの称号を持つ、ナナの父親のストロガーヌには絶対に耳に入れてはいけない。
ナナは幼い頃に母親を亡くしている。それはほとんど記憶に残らない程の写真でしか見た事がない記憶。
病弱で体が弱かった母親は、病気で死んだ事となっているが……。
しかし実際は旅先でドラゴンの爪に引き裂かれて幼いナナを守りながら、ストロガーヌの目の前で殺された事が真実だ。
その設定に従うようにして俺とナナだけの2人だけの秘密となっているわけだが……。
クレアに知られたことは致し方無い事だと割り切ろう……。
頂上に近づくにつれて魔物のレベルも上がっていき、数は若干ではあるが少なくなってきている。
この山の強いモンスターがいくら出てこようが、俺の敵ではないのだがな!
そんな事を思いつつ前のドスゴブリンを素手で瞬殺すると、俺はチラリとクレアの方向を見た。
それにしても昨日のメイド服のままで戦っているクレアの姿が凄くエロ……あ、いや違った……勇ましく見えるな。
彼女の胸がたゆんたゆんっと上下して、俺の心までもが上下してたゆんたゆんしていた。
「ちょ、ちょっと!前っ!前見なさい!!!」
クレアがこちらを見ている事に気付いて、俺に忠告をしてきた。
どんな魔物が来ようが俺の敵ではないのだから、余裕で瞬殺してやるよ……。
と意気込みを見せて前を見る。
その一瞬の油断が、足止めをされてしまう事になるとは……。
明らかに魔物ではない鋭利な刃が上から振り下ろされていた。
「ぐはっ!」
筋力強化系魔法をかけていたお陰で、急所は外す事が出来た。しかし、無傷では済まない。
「何よ!貴方たちは!」
クレアが声を荒げて、俺を切りつけた奴らに声を投げかけた。
右肩を軽く切られたぐらいなので、痛いが普通に動ける。
「我々はピッチ山盗賊団だ!大人しく金目の物とそこの女を置いて立ち去れ!」
あー……居たな……こんな奴ら……。
昔の記憶を遡りこんな盗賊団を作った記憶を思い出していた。
いやいや、今は思い出に浸ってる場合じゃない!
「すまんがお前らと遊んでる暇はない!」
「なんだと!!」
俺を斬りつけた盗賊が、シミターを素早く上へと振りかぶった。
いい物持ってるじゃないか……。
俺はすかさず敵の懐に潜り込む。
「はい!いい夢みろよ!!」
そのまま盗賊の腹の溝へ峰内程度の衝撃を与えた。
彼は声にならない声を吐いて、さっきまで元気だった眼光から白目に変わり、そのまま泡を吹いて膝から崩れ落ちた。
崩れていく際に盗賊の手に持っていたシミターを簡単に奪い取る。
ピッチ山の頂上付近をねぐらにする盗賊だからレベルは相当高いはずだが、俺はいとも簡単に1人目を倒してやった。
ほかの団員達は一歩だけ後ずさんだ様子だったが、まだ立ち向かってくる殺気は十分に感じ取れる。
「突破するぞ!!」
俺の掛け声を聞いたクレアは、軽く頷いて一緒に盗賊団の合間を走り出した。
大人しくしていればいいのに、性懲りもなく敵の攻撃の波はこちらを飲み込んでいく。
俺はシミターを使わず素手で殴り、クレアは器用に剣の斬れない側面のヘラ部分で殴打して対応している。
当たり前の事だが現世では人殺しなどはした事はない……だからこそ無駄な殺生は好んで致しません!
クレアも俺と同じ側の人間でよかった……。
たぶん昔の仲間のヴァッシュなら、一思いにこいつらは皆殺しにされていただろうな……。
俺達は考え事をしながらでも余裕綽々に盗賊の間を縫っていった。
その最中、ふと盗賊の群れの間から視界に妙な人物が離れた場所を走っているのが見えた。
盗賊達は俺とクレアを必死に抑え込もうとしているのに、何故あいつは逃げる様にして山を下りているんだ?
盗賊団とは別の人物?それか応援を呼びにいった仲間か?
色々な思想が入り混じりながらも、今は害がないと判断して突き進むことにした。
一気に盗賊団の人混みを抜ける事に成功すると、視界が晴れていき広い場所が見えてくる。
頂上だ。
「あそこに居るのは、ねぇさんじゃない?」
クレアが言った通り、あの後ろ姿は間違いなくナナだ。
間に合った!間に合ったぞ!とほっと一息つく暇も与えてくれない……。
ナナのいる上空の光景が目に飛び込んでくる。
威風堂々と威厳を見せるかの如く、青いドラゴンが突風をまき散らしながら宙に浮いていた。
あのドラゴンは間違いなく門左衛門で間違いないようだ……。
これはやばいかもしれない……。
ここからナナまでの距離が離れすぎていて、普通に走っても絶対に間に合わない位置に居る。
くそっ!!ここまで来たのに間に合わないとか冗談にもほどがある。
いや、間に合わないんじゃない!間に合わせるんだ!!
俺は魔法詠唱体制に入った。
「クレア!俺をナナの方向へ合わせて、全力でぶった切れ!!」
「え?なんで?!」
「いいから!間に合わなくなる!!」
「え?え?……もう!いつも勝手なんだから!どうなってもしらないわよ!!」
クレアは俺に向かって大きな剣を振りかぶった。
俺はその行動を見計らって、詠唱を始める。
『詠唱省略!フィジックスリフレクト!!』
俺の全体にうすいシャボン玉の球体の膜が現れた。
クレアが振りかぶった剣は、勢いよく俺に襲い掛かってくる。
そのまま吸い込まれる様にして斬撃をシャボン玉が優しく包み込んだ。
弾力感があるシャボン玉は、包み込んだ斬撃を反発するようにして弾き返す。
俺はその勢いに合わせる様にして、大地を力いっぱいに前へと踏んで飛び出した。
自分の力と反発する力が合わさり、自分の体は一気に1つの弾丸のようにして射出される。
フィジックスリフレクトが初級魔法だからこそ出来る荒業だ。
これが中級魔法のフィジックスリフレクションや上級魔法のフィジックスバリアだと反動が反発しないため実質上射出される事は不可能となる。
だが物理防御だけに特化して、反動が伝わってくる初級魔法のフィジックスリフレクトが最適だったという事。
パッと思い付きでやってみたが、意外に上手い事出来るものだと心の中で思ってる……余裕はなかった……。
いくらレベルを上げて速さに慣れているとはいえど、自分のキャパシティオーバーの速度には頭や体がついていかない……。
これが俗にいう音速を超えた世界なのかもしれないな……。
俺の周りは風を切る轟音を響かせているであろう……。しかし、その音は自分にはまったく聞こえてこない。
風を切る無音の世界に俺は居る。
体感重力に耐えつつも顔を無理矢理上げて、顔を押しつぶされながらもナナの方角を向いて視界に捉えた。
今まさに……あの頭痛と同じようにして、門左衛門がナナの元へ急降下してきている。
「まぁ・にぃ・あぁ・えぇぇぇぇ!!」
たぶん周りからは何を言ってるかわからない奇声を上げながら、俺はナナの元へたどり一瞬で着いた。
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