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 一週間後、今月の家賃を払うために、カルロスの部屋のドアをノックした。

「ドア空いているから、入って」

 中からカルロスの声がした。

 ドアを開けると、カルロスがスーツケースに荷物を詰めている。

「カルロス、これ。今月分の家賃」

「あぁ、ありがとう」

 カルロスは笑顔でお金を受け取ってまた荷造りに戻った。

「あの、領収書をもらえるかな?」

「あっいけない! 忘れてたわ」

 カルロスは領収書の紙を引き出しから取り出して急いで書いて私に差し出した。領収書を忘れるなんてカルロスらしくない。

「ありがとう。どっか行くの?」

「ええ、メキシコに行くのよ」

「あ、そうなんだ。楽しんでね」

「ありがとう」

 カルロスは立ち退きの件について話すことなく、また荷造りに忙しそうにしている。物件が見つからずまだ立ち退けないという状況を、わざわざ自分から持ち出すこともないかと思い、ドアを閉めて自分の部屋に戻った。


 一週間後、キッチンで朝食を食べていると、玄関のドアが開いて男性が入ってきた。

 以前一回だけ会ったカルロスの会社のボスだった。

「ハーイ」

「ハーイ、以前一回会ったよね? カルロスのボスよね?」

「そうだよ、ガブリエルだよ」

「ガブリエルね。私はミサキ。カルロスはまだメキシコ旅行中?」

「えっ? 旅行? カルロスはアメリカから出て行ったんだよ。僕が引き継いだから」

「えっ? 出て行ったってどういうこと?」

「メキシコに住むことになったんだよ」

「えっ? そうなの? 旅行って言ってたけど」

「そうなんだ。旅行じゃないよ」

「そうなのね」

 移住するのに旅行って言うなんて。なんで嘘ついたんだろう。

「ミサキ、立ち退きの件なんだけど、次に住むところは見つかった?」

「まだよ。全然ないのよ」

「そうか。僕のほうでも、物件探してみるから。月いくらのところを探してるの?」

「今と同じ八百ドル」

「八百ドルか。難しそうだけどトライしてみるよ」

「ありがとう」

「一週間後に壁を壊すから、あの部屋にはもう住めないんだよ。申し訳ない。カルロスはもう帰ってこないし、彼の同居人ももう出て行ったから、見つかるまで一時的にこのカルロスの部屋に住むのはどう?」

「えっ、いいの? ありがとう。でも、この部屋高いんじゃない?」

「こっちの都合だから同じ値段でいいよ」

「ありがとう」

「こちらこそ。迷惑かけてごめんね。カルロスの部屋は、数日中に掃除をしてもらうように段取り組んでおくから。移動は三日後以降でいいかな?」

「いいよ。ありがとう」

 カルロスとは大違い。さすがボスのガブリエルだ。接客マナーがきちんとしているし、問題解決が素早い。

 しかも、今払っているのと同じ家賃でカルロスの部屋に住めるなんて。ウキウキしながら部屋に戻って、片付けを始めた。
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