短編集「めおと」

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
30 / 32
黒い手と赤い耳

てぶくろを かいに

しおりを挟む

 素直だった早弓も成長するにつれ、一丁前に反抗的な態度を取ることも多くなったが、世間にありふれた程度のかわいらしいもので、深刻に捉えるほどではない。
 14歳の今は、俺の好みで買った服や各種アイテムに「ダサい」「好みじゃない」と駄目出ししてくる。

 冬場、少し良い手袋を買ってやろうとデパートに行ったら、真っ黒いレザー製のものがいいという。
 同じブランドでもっと色のきれいなものもあったのだが、「そんな子供っぽい色は嫌い」などと生意気を言った。
「まあ、お前がそれでいいならいいが…」
「パパってさあ、私のこといつまでも5歳児とか思ってない?
 ピンクとかオレンジとかの明るい色、あんまり好きじゃないんだよね」
 女の子というのは、なかなか厄介なものだ。
「夢に出てくる黒い手が怖かったって言って、パパのベッドに入ってきたのは誰かな?」などとからかおうものなら、きっともう口を利いてくれなくなるだろう。

 私立高校の受験は、一番寒さの厳しい時期に始まる。
 塾に通わせたり、時には質問に答えたりすることは父親の俺でもできるが、結局、実際のインプットもアウトプットも本人にしかできない。
 それでも何か彼女の受験に寄り添うようなことができればと思い、手をしっかり守る手袋を買うことにしたのだが、伝わっているのかどうか。

◆◆

 晴れてはいるが、風が冷たい。
 ショートヘアであらわになった早弓の耳は真っ赤になっていた。
「寒いな。耳当ても欲しいんじゃないか?」
「えー、学校でそんなダサいの着けてる子いないよ。
 あと校則でもNGだったと思う」
「そうか?温かくていいのにな」
「なんか耳が聞こえづらくなって危ない、とか書いてあったけど」
「そんなもんかねえ。ダサいって感覚も分からないな」
 早弓が一体どんなものを想像して言ってっているのか知らないが、俺自身が使っているのは、首の後ろから両耳をクリップするように包むタイプで、そう悪目立ちもしないし、色だって黒単色なのだが。便宜上耳当てと言ったが、「イヤーマフ」という商品名だったはず。

「パパはファッションとかのこと考えなくていいよ」
「そのよう、だな」
 何を言ってもそんな感じで、否定的に返されてしまう。
 なら、これぐらいのことを言ってもいいよな。
「パパはただ、お前のかわいい耳を心配しただけなんだけどなあ…」
「…キモッ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『「愛した」、「尽くした」、でも「報われなかった」孤独な「ヤングケアラー」と不思議な「交換留学生」の1週間の物語』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です! 今回は「クリスマス小説」です! 先に謝っておきますが、前半とことん「暗い」です。 最後は「ハッピーエンド」をお約束しますので我慢してくださいね(。-人-。) ゴメンネ。 主人公は高校3年生の家庭内介護で四苦八苦する「ヤングケアラー」です。 世の中には、「介護保険」が使えず、やむを得ず「家族介護」している人がいることを知ってもらえたらと思います。 その中で「ヤングケアラー」と言われる「学生」が「家庭生活」と「学校生活」に「介護」が加わる大変さも伝えたかったので、あえて「しんどい部分」も書いてます。 後半はサブ主人公の南ドイツからの「交換留学生」が登場します。 ベタですが名前は「クリス・トキント」とさせていただきました。 そう、南ドイツのクリスマスの聖霊「クリストキント」からとってます。 簡単に言うと「南ドイツ版サンタクロース」みたいなものです。 前半重いんで、後半はエンディングに向けて「幸せの種」を撒いていきたいと思い、頑張って書きました。 赤井の話は「フラグ」が多すぎるとよくお叱りを受けますが、「お叱り承知」で今回も「旗立てまくってます(笑)。」 最初から最後手前までいっぱいフラグ立ててますので、楽しんでいただけたらいいなと思ってます。 「くどい」けど、最後にちょっと「ほっ」としてもらえるよう、物語中の「クリストキント」があなたに「ほっこり」を届けに行きますので、拒否しないで受け入れてあげてくださいね! 「物質化されたもの」だけが「プレゼント」じゃないってね! それではゆるーくお読みください! よろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

短編集『市井の人』

あおみなみ
現代文学
一般庶民のちょっとしたお話を集めました。 ※一部、他の短編集とかぶっているエピソードもあります。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

世界の端に舞う雪

秋初夏生(あきは なつき)
現代文学
雪が降る夜、駅のホームで僕は彼女に出会った まるで雪の精のように、ふわりと現れ、消えていった少女── 静かな夜の駅で、心をふっと温める、少し不思議で儚い物語

処理中です...