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黒い手と赤い耳
てぶくろを かいに
しおりを挟む素直だった早弓も成長するにつれ、一丁前に反抗的な態度を取ることも多くなったが、世間にありふれた程度のかわいらしいもので、深刻に捉えるほどではない。
14歳の今は、俺の好みで買った服や各種アイテムに「ダサい」「好みじゃない」と駄目出ししてくる。
冬場、少し良い手袋を買ってやろうとデパートに行ったら、真っ黒いレザー製のものがいいという。
同じブランドでもっと色のきれいなものもあったのだが、「そんな子供っぽい色は嫌い」などと生意気を言った。
「まあ、お前がそれでいいならいいが…」
「パパってさあ、私のこといつまでも5歳児とか思ってない?
ピンクとかオレンジとかの明るい色、あんまり好きじゃないんだよね」
女の子というのは、なかなか厄介なものだ。
「夢に出てくる黒い手が怖かったって言って、パパのベッドに入ってきたのは誰かな?」などとからかおうものなら、きっともう口を利いてくれなくなるだろう。
私立高校の受験は、一番寒さの厳しい時期に始まる。
塾に通わせたり、時には質問に答えたりすることは父親の俺でもできるが、結局、実際のインプットもアウトプットも本人にしかできない。
それでも何か彼女の受験に寄り添うようなことができればと思い、手をしっかり守る手袋を買うことにしたのだが、伝わっているのかどうか。
◆◆
晴れてはいるが、風が冷たい。
ショートヘアであらわになった早弓の耳は真っ赤になっていた。
「寒いな。耳当ても欲しいんじゃないか?」
「えー、学校でそんなダサいの着けてる子いないよ。
あと校則でもNGだったと思う」
「そうか?温かくていいのにな」
「なんか耳が聞こえづらくなって危ない、とか書いてあったけど」
「そんなもんかねえ。ダサいって感覚も分からないな」
早弓が一体どんなものを想像して言ってっているのか知らないが、俺自身が使っているのは、首の後ろから両耳をクリップするように包むタイプで、そう悪目立ちもしないし、色だって黒単色なのだが。便宜上耳当てと言ったが、「イヤーマフ」という商品名だったはず。
「パパはファッションとかのこと考えなくていいよ」
「そのよう、だな」
何を言ってもそんな感じで、否定的に返されてしまう。
なら、これぐらいのことを言ってもいいよな。
「パパはただ、お前のかわいい耳を心配しただけなんだけどなあ…」
「…キモッ」
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