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もし彼女だったら
初カレシ
しおりを挟む瑛子ちゃんは名前に英の字が入っているのに英語が大の苦手で、英語さえもっとまともだったら暁に行けてたろうってよく言われてる。
うちの県は人口の割に高校が少なくて、1校のクラス数が多目らしい。
そしてトップ校に入りたくて中学浪人する人も珍しくないんだけど(うちの市はそれでもましな方)、学校としてはそれは避けたいからと、微妙に危ない生徒には、ランクを下げて確実なところを受験するように先生が勧めることが多い、とか。
瑛子ちゃんもそういう1人だったみたいで、同じ中学出身の人が、「実際は瑛子ちゃんより成績悪くても入った人いるんだから、暁受ければよかったのに」と言っていた。受験はミズモノっていうし、そういうことあるんだろう。
でも瑛子ちゃん本人は「私は南に来たくて来ただけなのにな」って言ってたから、学校が嫌いではなかったようだ。
背は私より低いけど巨乳で、美人ではないけれど個性的で、好きな人は好きそうな顔立ちで、すごく頭の回転が速かった。
ものの見方が面白いし、瑛子ちゃんと話していると何だかいろいろ刺激がある。
◇◇◇
その瑛子ちゃんが、私に男の子を紹介してくれた。
「佐野孝雄君」だ。
瑛子ちゃんとは小学校のときからの友達で、背がすごく高くて、ちょっと目と目が離れてるのが気になったけど、第一印象で「割とかっこいいな」と思った。
ハンバーガー屋さんで待ち合わせて初めて顔を合わせたとき、「2人は付き合ってるの?」って聞いたら、佐野君が突然、「おい瑛子、ちょっとこっち来いよ――君はここで待っててね」ってどこかに行って、5分くらいしたら「待たせてごめんね」って1人で戻ってきた。
「あの…瑛子ちゃんは?」
と尋ねたら、
「ああ、邪魔だから帰れって言ったんだ」
「邪魔って…」
「だってさ、俺はカノジョ紹介してくれるって言うから来たんだよ?
なのに君が俺らに「付き合ってるの?」とか言うってことは、
君にはそういう話してないってことだよね?」
「うん…友達を紹介するってだけ聞いてた」
「やっぱそうか。ま、いいや。改めて言うけど、俺は君のこと一目で気に入ったから、付き合ってほしいんだ」
男の子にそんなことを言われるのは初めてで、ただただびっくりしたけど、彼がからかったりうそをついたりしているようには思えなかった。
「あの…」
「友達からでいいよ。こうやって会って、いろいろ話したい」
「…ええと、そういうことなら…」
◇◇◇
瑛子ちゃんは隣の中学校の出身だったので、意外と家が近かった。つまり佐野君の家も近所ってことになる。
私たちは連絡先を交換したけど、手紙や電話のやりとりはあまりなかった。
佐野君が徒歩通学の私に合わせて、毎朝私の通学路を自転車で通るようにしてくれたからだ。
ただ、佐野君が通う西高(男子校)は結構遠いので、私に合わせていると遅刻してしまうのではというのが心配で、私は15分早く家を出るようにした。
瑛子ちゃんが「あいつ、昔ラグビーでけがしてから整形外科通いしてるんだけど、それにかこつけてサボったり遅刻したりが多いらしいよ。卒業できるのかな」 と言っていた。
「そんな話、今初めて聞いた…」
ラグビーのことも、けがのこともだ。
時々病院に行くようなことは言っていたので、「どこか悪いの?」って聞いたら、「いや、月一でお世話になった先生のところに挨拶に行く感覚だから」としか言わなくて、詮索して嫌われるのが嫌で、それ以上は聞かなかった。
「あなたにベタボレみたいだから、心配かけたくないんじゃない?」とも言われた。瑛子ちゃんは佐野君のことを私よりずっとよく知っていそうだ。
気にならないって言ったらうそになるけど、付き合いが長いんだから当たり前だと思って、気にしないようにした。
佐野君はよく私に「君といると落ち着く」とか「ほっとする」とか言う。
そしてついでみたいに「瑛子とは必ず口論になる。あいつ気が強いし弁が立つからな」とも言う。
「そんなに瑛子ちゃんと会ってるの…?」って、恐る恐る聞いたら、「家が近所だし、あいつはうちのおふくろとも仲がよくてさ」って、特に私の言葉の意図を気にする様子もなく言った。
私はそういうのを、「隠し事するような仲ではないってことか」とか無理やり解釈した。
そして、ちょっとした事件が起きた。
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