7 / 32
その名は「ぴあの」
よみがえる記憶
しおりを挟むまず、かすみの家の周囲には砂利が敷いてあった。
引っ越してきたのは2年前だが、その少し前にこの地区で放射線量を低下させるための除染処理がされた際、そのようになっているらしい。おかげでちょっとした来客でも、砂利を踏む音ですぐに察知でき、防犯に役立っていた。
かすみはかなり前からこの部屋にいるので、人の気配は分かったはずだし、砂利を踏む音は、気の弱いかすみにとって、たとえそれが帰宅した夫や宅配業者の人のものであっても、「そう」確認されるまでは、ちょっとした警戒や恐怖を誘うものだったから、気づかないということはあり得ない。
BGMに軽く映画音楽のインストゥルメンタルを流してはいたが、砂利の音や人の気配に気づかないほどの大音量でもなかった。
ということは、砂利の上を歩いても気付かない猫が単独でここに来て、ここにいると考えるのが自然だろう。
「つまり、こういうこと…?」
家の前、多分西側の部屋の下に洗濯ロープがもともとあった。
そこに猫がやってきて、ロープにじゃれるか何かしていた。
(これにはかすみは気付いていなかった…?)
多分最初は機嫌よく遊んでいたのだろうが、ロープが本格的に絡まって、結構シャレにならないことになってしまった。そこで初めて猫は鳴いて自分のピンチを訴えた。
もしもこの仮説が正しいとすれば、猫が自発的にやったこととはいえ、「そこにロープがあった」ことが原因だった。
ところで、かすみが洗濯ロープを使うのは、室内だけだ。ならば、なぜここにあったのだろう。誰かが持ち込んだ?猫が引っ張ってきた?どちらにしても、考えにくい。
「あ…」
◇◇◇
そこでかすみは思い出した。
天気予報の吟味が不十分なままシーツを洗い、雨のせいで外に干せず、苦し紛れに4畳半に対角線上にロープを張って干した記憶がある。
あのとき、何とか乾いたシーツを取り除き、ロープも外そうとしたとき、段取りが悪く、ロープを窓の下に落としてしまったのだ。それを片付けようとしていたら、たまたま集金か宅配か、とにかく来客があり、そちらに対応しているうちに、ロープの存在をすっかり忘れてしまったようだ。
「犯人、私じゃん…ごめんね、ネコ君」
かすみは丁寧にロープをほどいてハチワレを解放した。
逃げるかと思ったら足元にすり寄ってきたので、もともと人懐っこい子なのかもしれない。助けてくれたお礼を言っているのだろうか。
あまりにも愛らしさに、こういうのは悪いかな?と思いつつ、夫がつまみにしている煮干しを数個食べさせたら、喜んで食いついた。
また(煮干し目当てに)来るかもしれないが、半野良状態の子なら今さらの話だし、そのときはそのときだと開き直った後、ロープが絡まったハチワレの姿が急にコミカルに思い出され、ついつい笑ってしまった。
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『「愛した」、「尽くした」、でも「報われなかった」孤独な「ヤングケアラー」と不思議な「交換留学生」の1週間の物語』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です!
今回は「クリスマス小説」です!
先に謝っておきますが、前半とことん「暗い」です。
最後は「ハッピーエンド」をお約束しますので我慢してくださいね(。-人-。) ゴメンネ。
主人公は高校3年生の家庭内介護で四苦八苦する「ヤングケアラー」です。
世の中には、「介護保険」が使えず、やむを得ず「家族介護」している人がいることを知ってもらえたらと思います。
その中で「ヤングケアラー」と言われる「学生」が「家庭生活」と「学校生活」に「介護」が加わる大変さも伝えたかったので、あえて「しんどい部分」も書いてます。
後半はサブ主人公の南ドイツからの「交換留学生」が登場します。
ベタですが名前は「クリス・トキント」とさせていただきました。
そう、南ドイツのクリスマスの聖霊「クリストキント」からとってます。
簡単に言うと「南ドイツ版サンタクロース」みたいなものです。
前半重いんで、後半はエンディングに向けて「幸せの種」を撒いていきたいと思い、頑張って書きました。
赤井の話は「フラグ」が多すぎるとよくお叱りを受けますが、「お叱り承知」で今回も「旗立てまくってます(笑)。」
最初から最後手前までいっぱいフラグ立ててますので、楽しんでいただけたらいいなと思ってます。
「くどい」けど、最後にちょっと「ほっ」としてもらえるよう、物語中の「クリストキント」があなたに「ほっこり」を届けに行きますので、拒否しないで受け入れてあげてくださいね!
「物質化されたもの」だけが「プレゼント」じゃないってね!
それではゆるーくお読みください!
よろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
世界の端に舞う雪
秋初夏生(あきは なつき)
現代文学
雪が降る夜、駅のホームで僕は彼女に出会った
まるで雪の精のように、ふわりと現れ、消えていった少女──
静かな夜の駅で、心をふっと温める、少し不思議で儚い物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる