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運命の出会い

公園で遊ぶ少女

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 10年以上前のお話。

 20歳の美しい青年「ナル」は、裕福だった親の遺産を相続しました。

 もともと知性が高くてしっかり者だったナルは、財産目当てで「お前はまだ学生、つまり何も分からない子供だ。私が世話をしよう」と歩みよってくる親戚たちにうんざりしていました。

 気分転換に近くの児童公園に行くと、ひとりで遊んでいる小さな女の子がいました。
 鮮やかな色のボールを持っていますが、一緒に遊ぶ友達がいないようです。
 ナルはちょっとした気まぐれから、「おにいちゃんと投げっこしようか?」と声をかけました。

 ひとりで寂しかった女の子は大喜びで、顔をくしゃっと崩して笑い、「うん!」と言いました。

***

 女の子は児童公園のすぐそばの家に住んでいるらしく、ナルが公園の脇を通りかかったときに何気なく見ると、いつも1人で遊んでいました。
 遊具はある程度そろっていますが、児童公園とは名ばかりで、ここであまり子供が遊んでいるのを見たことがありません。
 その代わり、天気のいい日などは、営業途中らしい会社員がベンチで寝ていることがあった程度です。

 ナルは少し女の子のことが気がかりで、事情が許すときは一緒に遊ぶようになって、すっかり仲よしになりました。

 女の子はどんな天気のときでもピンク色の長靴をはいていて、彼女の名前らしい「〇〇すず」という文字が書いてありました。
 洋服のサイズも合っていないし、季節感もめちゃくちゃでした。多分、自分で適当に選んで着ている上に、親というか保護責任者がそういうことに無関心なのでしょう。

「すずちゃんは何歳?お兄ちゃんの言ってること分かる?」

 そう尋ねると、ぎこちなく指を3本立てながら、「4さい」と言いました。

「3歳?4歳?どっち?」
「よんさい。ばあばがアップルパイ買ってくれた」
「ケーキじゃなくて?アップルパイが好きなの?」
「うん」

 どうやら、多分最近らしい4歳の誕生日をアップルパイで祝った記憶があり、それで自分の年齢を認識しているようですが、指の立て方については更新アップデートされていなかったのでしょう。
 子供特有の、間が抜けているがかわいらしいそのしぐさを見て、ナルにはほんのり温かな「この子に優しくしたい」という気持ちが芽生えました。

***

「すずちゃんはおばあちゃん好き?」
「好きだけど、おっかない」
「パパやママは?」
「わかんない」
「わかんない…」
 どう解釈したらいいか分かりませんでしたが、親がいないか、「好きか」と聞かれても「分からない」と答えてしまうような存在、ということでしょう。

「実はお兄ちゃん、パパもママもいないんだ」
「すずとおんなじ!」
「でも、すずちゃんにはおばあちゃんがいるよね。お兄ちゃんはおばあちゃんもいない」
「えー、カワイソー」

 すずは人懐っこいというよりも、人との距離の取り方が分からないのでは?とナルには思えました。
 ボール遊びや砂場遊びをしているとき以外、例えばベンチに2人で腰かけているときなどは、ナルの手や腕をつかんだり、膝に載ってきたり、とにかく体を密着させたがります。
 多分2人を見かけた人は、「若いパパと、パパが大好きなお嬢ちゃん」くらいに思い、特に不審なものは感じないでしょう。

 ナルはもともと人嫌いで、距離感の分からない人物を嫌悪していましたが、すずの小さな手が自分に触れてきたときは、何か特別なものを感じました。

「すずちゃん、僕の家でおやつを食べようか?」
「アップルパイある?」
「ないけど、お兄ちゃんならつくれるよ。お店のよりずっとおいしいやつ」
「ホント?」
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