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プロローグ
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その白い家は、昔からそこにあったようにも、ある日突然建ったようにも見える、独特な雰囲気がありました。
古い洋館風の家ですが、似たような家が建ち並ぶ新興住宅地が周辺に広がっている中、どこか浮いているのです。
ただそれは、その家を意識して見たことがある人間の感想です。
その家は、存在感を示す要素がたっぷりなのにもかかわらず、なぜか多くの人間には見過ごされていました。
ゆったりとした敷地内に、ほどよいお屋敷感のある白い家。
きちんと整えられた庭には、いつも季節の花々があふれています。
駐車場には白くて何の変哲もない、特に高級車というわけでもない、国産のハッチバックタイプの車がとまっています。
住人はあまり車に興味がないタイプなのでしょうが、無責任にトータルコーディネート的なものを求める人にとっては、少しがっかりする光景かもしれません。
ある人は高級でエレガントな外国製のセダンを、またある人は、ちょっと小味の利いたコンパクトな車を、あるいはその両方を求めるでしょう。
たとえるなら、ちょうどその車たちじたいが、幸せそうなカップルに見えてきそうな風景です。
家に収まっていてほしいのは、そんな車に似合いの夫婦、かわいい子供たちと相場が決まっています。
***
この家の住人は、大抵のものを自分で買って自分で運びます。
大型の家具家電を買った場合は店の軽トラックを借りますし、通信販売は利用しません。
ちなみに現金主義で、クレジットカードで買い物をすることもありません。
この家には客が来ることはありません。
足を踏み入れたことのあるのは、まだ家が空っぽの状態だったとき、家具家電を運び入れた業者の人間だけです。
「長身で整った顔立ちの若い男」が独りで住んでいるというその家には、なぜか小さな女の子がいました。
手芸好きにはおなじみのサンボンネットスーのようないでたちで、ぽつんと一人用のカーペットラグの上に座って人形遊びをしていますが、ボンネットのせいで顔は見えません。
部屋の中なのに、なぜあんなかぶりものをしているのか――と疑問に思う余地もあったのでしょうが、着ている素朴なエプロンドレスとよく合っていて、何となくそういう人形のように見えます。
よく分からないが、ああいうファッションなのだろう程度に捉えられました。
「かわいいですね。娘…いや、妹さんですか?」
リビングらしき部屋に、背の高いキャビネットを運び入れた男の1人が、なにげなくそう尋ねました。
住人の男は、(よほど注意深い人間でもない限り気付かないものの)少しだけ考えた後、こう答えました。
「姉の子供です。今日はたまたま預かっていまして」
「そうなんですね。若くてイケメンの叔父さんか。いいなあ」
「いえ…」
あまり愛想のいいタイプではないようですが、美しい顔立ちと、うっすら浮かべた優し気な表情のせいで、不快感は与えません。
「かわいいですね」と言いつつ、搬入業者の中で、実際にその姪っ子の顔を見た者はいませんでした。
サンボンネットの少女は、叔父以外の人が来たことに反応し、自らよちよち歩み寄ろうとしましたが、「邪魔しちゃ駄目だよ」と叔父に抱きかかえられ、その腕におとなしく収まるだけでした。
古い洋館風の家ですが、似たような家が建ち並ぶ新興住宅地が周辺に広がっている中、どこか浮いているのです。
ただそれは、その家を意識して見たことがある人間の感想です。
その家は、存在感を示す要素がたっぷりなのにもかかわらず、なぜか多くの人間には見過ごされていました。
ゆったりとした敷地内に、ほどよいお屋敷感のある白い家。
きちんと整えられた庭には、いつも季節の花々があふれています。
駐車場には白くて何の変哲もない、特に高級車というわけでもない、国産のハッチバックタイプの車がとまっています。
住人はあまり車に興味がないタイプなのでしょうが、無責任にトータルコーディネート的なものを求める人にとっては、少しがっかりする光景かもしれません。
ある人は高級でエレガントな外国製のセダンを、またある人は、ちょっと小味の利いたコンパクトな車を、あるいはその両方を求めるでしょう。
たとえるなら、ちょうどその車たちじたいが、幸せそうなカップルに見えてきそうな風景です。
家に収まっていてほしいのは、そんな車に似合いの夫婦、かわいい子供たちと相場が決まっています。
***
この家の住人は、大抵のものを自分で買って自分で運びます。
大型の家具家電を買った場合は店の軽トラックを借りますし、通信販売は利用しません。
ちなみに現金主義で、クレジットカードで買い物をすることもありません。
この家には客が来ることはありません。
足を踏み入れたことのあるのは、まだ家が空っぽの状態だったとき、家具家電を運び入れた業者の人間だけです。
「長身で整った顔立ちの若い男」が独りで住んでいるというその家には、なぜか小さな女の子がいました。
手芸好きにはおなじみのサンボンネットスーのようないでたちで、ぽつんと一人用のカーペットラグの上に座って人形遊びをしていますが、ボンネットのせいで顔は見えません。
部屋の中なのに、なぜあんなかぶりものをしているのか――と疑問に思う余地もあったのでしょうが、着ている素朴なエプロンドレスとよく合っていて、何となくそういう人形のように見えます。
よく分からないが、ああいうファッションなのだろう程度に捉えられました。
「かわいいですね。娘…いや、妹さんですか?」
リビングらしき部屋に、背の高いキャビネットを運び入れた男の1人が、なにげなくそう尋ねました。
住人の男は、(よほど注意深い人間でもない限り気付かないものの)少しだけ考えた後、こう答えました。
「姉の子供です。今日はたまたま預かっていまして」
「そうなんですね。若くてイケメンの叔父さんか。いいなあ」
「いえ…」
あまり愛想のいいタイプではないようですが、美しい顔立ちと、うっすら浮かべた優し気な表情のせいで、不快感は与えません。
「かわいいですね」と言いつつ、搬入業者の中で、実際にその姪っ子の顔を見た者はいませんでした。
サンボンネットの少女は、叔父以外の人が来たことに反応し、自らよちよち歩み寄ろうとしましたが、「邪魔しちゃ駄目だよ」と叔父に抱きかかえられ、その腕におとなしく収まるだけでした。
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