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第33章 「彼」の本心

墓穴を掘る

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 最後に会ったのが、千奈美と病院に行った帰りのファミレスだった。
 あの場で妻以外の女性(しかも17歳の女子高生!)に子供ができ、産みたいと言われて「考えさせて」と言った事実だけでもいろいろアウトなのだが、何かと自分本位に考える彼は、「子供」だけが問題点であり、堕胎後は私と今までどおりの関係を保てると思ったらしい。

 その上で、千奈美とは「手術後、体が回復したら会おうね」と言っていたというのだから、本当にいったい何がしたいのか分からない。

 それはそれとして、結構面倒な問題が出てきた。

◇◇◇

 試用期間後、病院の方の保険に加入するように言われた。
 となると、配偶者かれの保険から抜ける手続もしなければならない。
 できれば会いたくなかったが、これは会って話すしかない。

 2人で会うのは避けたかったので、父に同行してもらい、さらに第三者の目がある飲食店で、書類の受け渡しや説明をした。
 用が済んで、さあ帰ろうとなったときだった。

「お義父さん、本日はご足労ありがとうございました。あの――マナちゃんと2人だけで話したいことがあるんですが…」

 父の「彼」への信頼はもはやどん底状態なので、条件が出された。

「なら、ウチに来なさい。2人で話す邪魔はしないが、少しでも妙な真似をしたら、警察を呼ぶことも辞さないのでそのつもりでな」

 「彼」の表情には、ああ、これが「難色というものかというものがにじみ出ていたが、逆らえば話すべきことも話せないと悟ったようで、渋々ながらも従ってくれた。

+++

「仕事、慣れた?」
「おかげさまで…」
「そうか…頑張ってるんだね…」

 本当は「どうでもいい」と思っているからこそ、真っ先に聞くであろう、当たり障りのない近況か。

「で、お話って何ですか?」
「あの…どうして僕と別れたいの?」
「は?」
「君に不自由させないように頑張っていたんだよ?お小遣いをあげて、外出しておいでって言ったこともあるよね。ごみ出しも厭わなかったし、買い物だって付き合ってやったことがある。僕はそんなに悪い夫だったか?」

 それだけで「いい夫」面できるなら、私も誰かの夫になりたい。

「『#アレ_・__#なんかとして』って言いましたよね、夜泣きした幸奈のことを」
「え?そんな些細なことで怒ってるの?」

 彼の詰めの甘さが凝縮されたような一言だった。
 最愛の「お姫様」を、不機嫌にまかせて「アレ」呼ばわりしたことは、「些細」なことらしい。

「君って頭が悪いくせに、変なところで記憶力よくて執念深いね?僕としては、そういうところを一生懸命直そうと頑張ったけど、無駄だったのか…」

 まだ言うか!このゲスは。

「そうですね。それは単に言葉の綾なので、どうでもいいです」
「ならさ…」

「でも、あなたがほかの女性と関係を持っていることは、ある程度つかんでいます」
「…」
「それも済んだことなら追及はしません。でも、そういう事実が職場に発覚したら、追い詰められますよね。何しろ18歳未満の少女に…」
「だからあれは僕の子じゃないって…」
「あら?産んで鑑定しなきゃ分からないって言ったのは、あなた自身でしょう?」
「え?」
「千奈美さんがそう言っていました。堕胎のとき「サインしてあげる」ってって」

「…ひどいな、こそこそチナちゃんに会ってたの?」
「体調が戻ったら会おうって言ったそうですね?」
「…い、言ってない。彼女の口から出まかせだろう?」
「へえ。いつものホテルでカラオケしてスイーツ食べて、いっぱいエッチするんだって、楽しみにしていましたが?」

 千奈美チャン、ごめんなさい。少し話を盛りました。

「違う!会って全快祝いしようって言っただけだ!…あ…」

 彼は面白いように自爆してくれた。

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