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第32章 交換日記

やりとり

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「ねえ、書いてきたっていう手紙、今もらえる?」
「え?」
「真奈美の肉筆で書いたもの読みたいな。せっかくだしさ」
「まあ、いいけど」
 私はバッグから封筒を取り出し、ラウンドテーブルの向こうの順一に、すっと滑らせるように渡した。
「ありがとう。そうだ、せっかくだから返事も書こうかな」
「え?」
「アパートのポストにでも入れておくから、取りに来られるときに来てよ」
「うん…」

+++

 幸いデイジー図書館から実家までの間のルートにKamiyaを含むのは、そこまで無理筋ではない。おいしいケーキをお土産に買う名目で回り道する程度なら、十分アリだ。

 母は甘党で、もともとKamiyaのファンだった。
 高校時代の友人が働いているので、売り上げに貢献している、みたいに説明したら、勝手に女性だという前提で考えてくれている様子なので、そのまま訂正もしないでおく。

◇◇◇

 順一は記念すべき第1通目の手紙を、30枚綴じ7ミリ罫の大学ノートの1ページ目に、ブルーブラックのペンで書いていた。
 几帳面な字で、簡潔だがどこかユーモラスな文章が彼らしい。

「これを取りに来るのは、お勤めが始まってからでしょうか。」
 の1行から始まっていた。
 手紙の内容は、会って口頭で話したのとほぼ一緒なので、その部分に対しては、
「あなたの行く手に幸多かれとお祈りいたします。」
 という励ましのエールだけが書かれていた。

そして、
「お勤め先は当店同様、客層の上品な職場と拝察しますが、これまた当店同様、それなりに愚痴りたいこともあるのではないでしょうか。
腹にためずに何でも書いて、また元の場所に戻しておいてください。
楽しみにしています。

J.K.

P.S. 児童書や絵本が多いとは思いますが、大人が行っても楽しめますか?」

◇◇◇

「ありがとうございます。
いろいろ大変ではありますが、早く決着させたいと思っています。

来館者は穏やかなお子さんと親御さんが多いのですが、そもそも労働というものが久しぶりなので、不器用な私は気疲れしました。
でも、ほかのスタッフさんはみんな親切でよくしてくださるし、頑張らなきゃ。

ところで、図書館の2階部分はロフトになっていて、翻訳絵本の原作や写真集など、洋書も少しあります。
あまり利用する方はいないので、大人がそういう本をゆっくり読むには案外穴場かもしれません。

M.A.」

気づけば、こんな感じで交換日記のようなものが始まった。

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