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第32章 交換日記
大切にしたい
しおりを挟む千奈美のことも含めて現況を説明したら、「なるほどね…」と、順一は神妙な面持ちで聞いてくれた。
「俺、何しろああいう形で学校に行けなくなったでしょ?で、痛いほど分かったんだ。人は結局、基本的に人を信じるから裏切られるんだって」
「…うん」
「自分でも不思議なんだよね。借金の踏み倒し何度も経験しているくせに、なぜか『返してもらえること』を前提に何度も貸しちゃうんだ」
「……」
「本当にあげたつもりで――なんてできるのは、よほど金持ちか、器がでかいかだよね」
「順一…随分苦労してるんだね…」
「なぜか金銭絡みではちょっとね。一回一回は大した額じゃないんだけど」
困ったような笑顔が、なぜか頼もしく思える。
人を平気で欺いて、それでいてこっちが全く気づいてないと思い込んでいる「彼」のおめでたい表情とはえらい差だ。
「だからそのカノジョが、相原さんを信じて疑わないのは分かる。ましてや17歳の女の子に、好きな人の愛を疑えってのは酷な話だ。きつい言い方だけど、真奈美だってそうだったんじゃない?」
「…だよね。確かに最初はそうだった。疑ったり、立ち止まったりするポイントは幾つもあったのに、気づかないふりしたり」
それが、「信じたいから信じる」から、「信じるふりをしてやり過ごす」になり、「どうでもよくなる」に至るのには、実はあまり時間は要らなかった。
「つまりさ、君は例のカノジョにしてあげられること、もう何もないんじゃないかな?」
「あ…」
「正論って分かっても――いや、だからこそ反発するだろう。もう、ある程度痛い目を見て、その上で自分で判断するしかないんだ」
「そう、だね…」
絶望的なようなすっきりしたような、何とも不思議な気分だけれど、順一に話してよかったと思えるエンディングだった。
「やっぱりあなたは頼りになるわね」
「そう?ほれてもいいんだよ?」
「そうだね、前向きに考えさせて」
好きだが愛していない、なーんてしゃらくさい言葉を使わざるを得ない気持ちであることに違いはないが、大切にしたい人間関係であることに違いはない。
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