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第26章 行動
「母」たち
しおりを挟むダメ元でもう一度千奈美に電話をした。
『…もしもし』
こちらの様子を窺うような高い声が聞こえた。緊張しているのだろう。
着信拒否は解除してくれたようだし、平日のこの時間に出るということは、学校も休んでいるようだ。
「もしもし、相原です」
『ああ…』
「よかった。心配していたのよ。その後――変わっていないわよね?」
『はい…』
「ご両親には…」
『まだ…』
「自分の保険証持っている?」
『あ、はい』
「じゃ、話は早いわ。これから病院にいきましょう」
『え?』
「だって今何週目かも分からないんでしょう?
いろいろな意味で手遅れになってしまうよ」
『でも…』
「私が付き添うし、お金も一時的に立て替えるから」
『あ、お金は――親が置いていったから…』
「そう…?」
◇◇◇
さすがにこの状況で幸奈を連れていくことはできない。
私は自分の実家に彼女を預けた。
母が「あら、珍しい」と言いながら、特に嫌な顔をせずに預かってくれた。
学生時代の友達が、深刻そうに悩み相談をしてきたからと言ったら、「あなたに友達がいたのね」と意外そうに言われたが、納得してくれた。
「ねえ、真奈美。あなた、何かあったの?」
「え?どうして?」
「何だか――いつもより堂々としているっていうか…」
「そう?」
母がそう感じる理由は分かっている。私はどうやら「彼」のおかげで、うそをつくことに慣れてしまったのだろう。
「それと、相談の内容次第では、またお世話になると思うけど、いいかな?」
「お世話って――ここはあなたの実家よ?今さら…」
「そうだね。行ってきます」
何だかおかしくなった。
私はその程度のことすらできていなかったのだ。
「じゃ、行ってきます。幸奈をよろしく」
「行ってらっしゃい」
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