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第22章 【番外編】松下千奈美

ナンパは牛丼屋さん

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※今回は松下千奈美[チナ]視点の話です。

◇◇◇

 「二股かけていたような男に振られた」

 うわ、こう書くとほんっとにクツジョクなんだけど。
 
 同級生のあいつは、私と付き合えるようになるまでは結構まめにいろいろ言ってきたくせに、「1年でかわいい子がいて、ついフラフラと…」って、なにそれ?しかもそっちに行っちゃうって。
 私たちは1年から付き合ってたっぽくなってたから、どー考えても私の方が先に付き合ってたよね?相手も同中おなちゅうの後輩とかじゃないっぽいし。

 「お前もそんな悪くないから、すぐ次の見つかんだろ?」って言われたけど、別れ話のときぐらい、もっとサービスしろよ。「悪くない」って何?

 しかも――お昼ご飯前に別れ話すんな!

 おかげでお昼ご飯、1人で食べることになっちゃったじゃん…サイアク。

◇◇◇

 1人でオシャレな店に入るのは何かイヤだし、牛丼屋さんとかでいいかと思ったけど、そういう店も友達と来たことはあるけど、1人は初めて。
 何か口で注文するのうっとうしくて、食券の店にしようと思ったら、これ、意外と分かりづらいし、結構メニューあって迷う。
 あ、牛より親子丼のがいいかな…って券売機の前で迷っていたら、ちょっと列できちゃって、そうするとさらにプレッシャーで選べなくなって。

 そしたら「これがお勧めだよ」って後ろから手が伸びてきて、タッチパネルの「親子丼ミニ」に軽く触れた。
 20代?多分30歳まで行っていないくらいの人かな。
 和風っぽいすっきりした顔だけどかっこいい。当然大人っぽいし、クラスの男子にはいないタイプだ。

「これは500カロリーもないはずだから、量も少なめだけど」
「へえ…」
「上品な味付けだから、君みたいにかわいい子にぴったりだ」

 値段も400円だから予算内だし、悪くないかもと思ってお財布出そうとしたら、
「これくらいおごるよ。その代わり、一緒に食べてくれる?」
 って。
 え?まさかのナンパ?
 でも、感じのいいステキな人だし、ご飯一緒に食べるくらいいいかな?と思ってゴチになった。

◇◇◇

 親子丼をおごってくれた人は、「|相原幸助」と名乗った。
 話も面白いし、ちょっと難しいことも、女の子が好きそうなものもたくさん知ってる。
 でも結婚して子供もいるんだって。指輪もしっかりしてた。
 こんなすてきな人なら、それでも当たり前かなあ。
 「何歳ですか?」って聞いたから、「幾つだと思う?」って言われて、「25歳!」って言ったら、「うん――まあその辺かな」って言われたので、本当は何歳か分かんないけど20代ってことは間違いないみたい。

 休みの日なのに1人でご飯食べてるのは、奥さんが赤ちゃんほっぽって遊びにいっちゃって、赤ちゃんが熱出したから何とか呼び戻したんだけど、
「普通そういうとき、お弁当買うとか、すぐご飯作るとかするよね?本当に気が利かない女なんだよね」
 と、困ったような顔で笑いながら言ってた。かわいそう。あんまりいい奥さんじゃないんだろうな。まず赤ちゃんほっぽって遊びにいくっていうのがあり得ない。

 相原さん、奥さんに「ごめんなさ~い。あとは私がやっとくから、あんた遊んできていいわよ」って言われたから、ご飯食べてから適当に遊んで帰るんだって。
 私もご飯食べたらすぐ帰ろうか、適当に遊んで帰ろうか迷ってて、同じだなって思ってそれを言ったら、「じゃ、予定のない者同士、2人で遊ぼうか?」って言われて、つい「いいですね!」って返事しちゃった。

 相原さんは車だったので、ちょっと郊外でも行けるって。「どこに行きたい?」って言われたから、「お任せします」って答えたら、「そうだな…じゃ、インテリアがおしゃれで、スイーツ食べられて、カラオケできて、映画見られて、眠くなったら寝ちゃっても怒られないところがあるんだけど」って。

 マジですか。そんな夢のようなところが?と思って「そこに行きたい」って答えたら、着いたのは高速道路沿いのラブホテルだった。
 さすがにそれは――と思ったけど、車ですっと入られちゃったし、「大丈夫。嫌なら指一本触れないよ」って優しい顔で言われたから、ちょっと怖かったけど、入っちゃった。
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