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第17章 乙女ゲームのごとく
意外な再会
しおりを挟む我が攻略対象はチーズケーキを好む――ということで、デザートのケーキを買うために、前から少し気になっていたパティスリーをのぞくことにした。
メルヘンチックだけれど甘ったるくなく、独特なしゃれた雰囲気のお店で、「confection Kamiya」という看板が掲げられていた
ついでにおやつの焼き菓子を一つくらい買ってもいいかな…と思い、マドレーヌを物色していたら、品出しをしていたスタッフの男性に「あれ、天野さん?」と旧姓で呼ばれた。
「え――神谷君?」
「わ、覚えててくれたの?うれしいな」
神谷順一君は、高校時代、苦手な数学をよく教えてくれた男の子だった。
とても成績がよかったけれど、クラスメートの財布を盗んだ疑いをかけられ、学校に来なくなってしまった、はず。
その後にほぼ関心を持っていなかったけれど、3年になるタイミングで学校をやめ、定時制だったか通信制だったかに移った――といううわさを聞いたような、聞かないような…。私ってとことん冷たいクラスメートだったんだな。
「赤ちゃんいるんだね。女の子?かわいいなあ。天野さんそっくりだ」
私は幸奈をおんぶひもを使って背中におぶっていた。
神谷君、高校時代はおとなしくてよそよそしい感じの人だったけれど、さわやかで感じのいい笑顔を浮かべ、幸奈のほっぺたを清潔な指でちょんちょんとついた。慣れていそうなしぐさだ。
「あ――」
今は相原だよ、と言おうと思ったけれど、なぜだか「言いたくない」気持ちが勝ってしまい、言葉をのんだ。
「ん?」
「あ、何でもない」
彼は仕事中なので、詳しく話を聞くこともできないけれど、
「ここ親戚の店でね。お情けで置いてもらって修行中」
と、簡単に近況を教えてくれた。
「え、パティシエになるの?」
「じゃなくて管理というか、経営というか。別な支店とかもあるし」
「へえ…」
「また来てね。サービスするから。お茶を飲むスペースもあるし、哺乳瓶のお湯も提供するよ」
「ああ…そうね。すてきなお店だし、ぜひ」
よく見ると、結構広くとった休憩スペースには小さな子供を連れた若い母親の姿もちらほら見られた。
絵本も充実しているみたいだし、子供たちが靴を脱いで遊べるスペースもある。
私が知らなかっただけで(ママ友もいないし)、近所のママさんたちの憩いにはおあつらえ向きなのかもしれない。
私が子連れなのを見て、社交辞令で声をかけてくれたんだろうと思ったら、彼はこう付け加えた。
「本当にまた来てね。おれ天野さんに久々に会えて、本当にうれしいんだから」
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