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第12章 伏兵
自覚
しおりを挟む私は昔からみゆきに嫌われている自覚があった。
たまにおうちに遊びにいっても、あまり歓迎されていない色がにじんでいるし、彼からもいい話を聞いたことがない。
だから関わらないようにしていたのだけど、彼の「粋なはからい」でハワイ旅行に相乗りさせてもらってから、関係は最悪のものになった。
「ハワイのときだって、友達みんな真奈美さんのこと「ノリが悪い」って言ってたけれど、自分たちでハブって(仲間外れ)おいてひどい話だよなって思って」
「私ハブられてたの?」
「自覚なかったんですか?」
「私って昔から嫌われやすかったから、あれが普通かと…」
「真奈美さん――それおかしい!」
みゆきがこらえ切れずに大笑いした。
それを見て、私たちの近くで遊んでいた幸奈も、キャッキャッと手足をばたつかせてはしゃぐ。
言葉は分からなくても、笑いって感染するもんね。
「やだー、ゆきちゃんのママ、おもちろいよー」と、みゆきが幸奈を抱っこして言った。
◇◇◇
眠くなってぐずった幸奈を寝かしつけると、「大嫌いだけど大好き」について、みゆきが丁寧に話してくれた。
彼はみゆきをかわいがってはいたが、褒めた後に必ず「これで二重まぶたなら完璧」とか「顔が地味」とか、余計な一言が付いていた。
それでも優しくて見た目もまあまあ格好いいので、友達の間では評判の「自慢の兄」として受け入れていたらしい。
なんてこった。自慢の妹ちゃん相手にもモラハラ三昧だったわけ?
「兄貴は真奈美さんのことも、美人とかかわいいとか言ってたけど、
バカとか何やってもポンコツって言葉と必ずセットでした。
真奈美さんは真奈美さんで、うちの両親に嫌みを言われても笑ってたし、
“自分”がない人形みたいな人なんだろうなって思って」
「その見立ては多分、間違ってなかったと思うよ」
みゆきは多分、今日訪ねてきた一番の目的であろう質問を、そこでやったとした。
「兄貴――浮気してるんですよね?」
「多分そうでしょうね」
「平気なんですか?」
「平気じゃないけど…」
そこで宗太の顔が浮かんだが、この空気であの人を思い出してはいけない。
「それを責めた後、どうしたらいいのか、考えがまとまっていないから」
◇◇◇
「真奈美さんはネットしますよね?」
「うん、一応」
「匿名掲示板とか見ますか?」
「まとめ記事みたいなので、面白そうな見出しのを読むことはあるけど」
「ああいうの、意外と参考になると思いますよ。
友達が好きでよく見ているんですけど」
「へえ…」
「パソコンはおニイとは別ですか?」
「一緒だよ。そもそも幸助さんはあまりパソコンに触りたがらないの。
ネットなんかくだらないって言ってるし」
「うーん…でも、一応履歴とかは消した方がいいですよ?
全部消すと怪しまれるから、無害そうなページを残して、ヤバそうなのは消すとか。
多分パスワードとか設定してませんよね?」
「どうして分かるの?」
「携帯とかパソコンとかにパスワード設定するだけで、
浮気してるって疑う旦那さんがいる――ってネットで読みました」
まさにその理由で、いろいろなことをオープンにさせられている私は、おかしくて吹き出してしまった。
「みゆきさん、ひょっとして耳年増?いや、“目年増”かな」
「ひどいな。せっかく心配しているのに」
ひどいなと言いつつ、みゆきが本気で怒っている様子はもちろんない。
「ごめんなさい。すごく頼もしいわ」
◇◇◇
「あの私、結構友達とか多くて、その――真奈美さんが困っているとき、
少しは助けになる人も紹介できるかもしれないんです。
弁護士事務所に勤めてる子とかもいるし。
いざというときは、おニイの妹じゃなくて、その…」
「私が携帯の番号交換してる若い女の子って、みゆきさんだけなのよ」
そう言うと、一瞬ポカンとした後、にっこり笑ってくれた。
「おネエさん、また遊びに来てもいい?」
「もちろん。いつでもどうぞ」
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