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第12章 伏兵
手料理
しおりを挟む翌日。
みゆきは思い詰めたような顔で家に入り、丁寧にお辞儀をしたり礼儀正しく振る舞っているのだが、お茶を一口飲んだ後、何か言いたそうな顔でこっちを見ながら、何も言わない。
「ねえ、まだ早いんだけど、お昼にしない?オムライスだけど」
「オムライス!」
心なしか顔が少し柔らかくなった。ひょっとして好物だった?
間が持たないときは、何か食べるに限る。
チキンライスは作ってあったし、スープも副菜もある。
あとはオムレツを作ってくるむだけ。
コショウを少し入れた卵液をバターで薄焼きにし、シュレッドチーズを少し落とした。
そこに適度な分量のチキンライスを置いてくるみ、お皿をフライパンの上にふたのように伏せ、フライパンをひっくり返すと、ちまっとしたかわいいオムライスになる。
いつもこの方法で作っているんだけど、そういえば彼もオムライスだけは文句を言わずに食べてくれる。
さすがに毎日だと別な角度から文句が出るだろうから、適当に日を開け、時々作るだけだけど。
花の絵の話も、オムライスを食べながらしていたはずだから、少なくともあのときは機嫌がよかったんだと思う。
ケチャップを口の細い容器に入れたら、それを使ってかわいいチューリップの絵を描いていた。習慣になっているんだろうな。
「これおいしい!チキン柔らかいし。チーズも合いますね」
「それは幸助さんも…気に入っているみたいだから」
「真奈美さんって実は料理上手だったんだ?」
「ほかのは不味いって文句言われるけど…」
「でも、スープもサラダもおいしいですよ」
「スープはコンソメブイヨンだし、サラダのドレッシングだって、適当な酢と油と調味料だけだよ?」
「そう。ドレッシングがおいしいんだ。そうか…」
そういえば、私は「彼」以外の人に料理を食べてもらったことがない。
私を嫌って、というより軽蔑しているであろうみゆきに素直に褒められ、何だかくすぐったい気持ちだった。
◇◇◇
ランチが終わっても12時前。
この街では正午になるといつも、ベートーヴェン交響曲第6番「田園」 がどこからか聞こえてくるから、あの曲を聞くとお腹が空く人もいるとかいないとか。
「おいしかったー」と言いながら、食後のコーヒーを飲んだみゆきは、リラックスした表情を見せていた。
みゆきが何か話があってウチに来たことは明白だけど、話そうとしない。
ただ遊びに来るだけなら、「おニイのいないときに」なんて言うわけないもんね。
「みゆきさん、幸助さんのことで何か話があるんじゃない?」
「…私、真奈美さんのこと誤解していたみたいです」
実は話が全くかみ合っていないのに、この言葉はベストアンサーのように響いた。
「私は正直真奈美さんのこと、ちょっとバカにしていたんです。
おニイは真奈美さんのこと、実家では良く言わないし…」
「うん、想像つくよ」って言いながら笑ったら、みゆきもつられて笑った。
「あ、なんかごめんなさい。もっと早く話せばよかったんだな…」
女性だけれど、顔は彼に似ている。しゅっと涼し気で、下手すると冷たく見えそうな感じだけど、かなりきれいな顔だと思う。
昔「日本人形みたいに上品」って言ったら、バカにしてるって怒ったんだっけ?
私が高校生、みゆきが中学生だったと思うけど、確かに中学生にとって、日本人形なんて褒め言葉ではないのかもしれない。
「あのね、真奈美さん。私おニイのこと大好きだけど、大嫌いだったのかもしれません」
「え?」
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