いつかは さようなら~よかれと思うことをしてくれなくていい。嫌なことをしないで。

あおみなみ

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第9章 青年の部屋で

闇落ち[性的表現あり]

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 「高村」と書かれたドアプレートの部屋の玄関を開け、中に足を踏み入れると、彼はドアを施錠して、靴を脱ぐ前に私を抱き寄せてキスをした。
「貞淑な人妻が、どうしちゃったんですか?」
 青年はいったん唇を離してから、ちょっと意地悪なことを言った。
「いいのよ、彼だって今頃、よその女を抱いてるんだから」

 この高村という青年が私を部屋に連れ込んだことまでが、実は「彼」の策略かもしれない。
 それならそれで構わない。
 手を回して寝取られプレイでもするつもりなら、彼は役目を果たしているだけ。
 そういった策略が一切なく、こうなってしまったなら、彼が私を欲しているということになる。
 どっちに転んでも、彼に抱かれることこそが「正解」に思えた。

 洗いざらしの清潔感のある香り、彼より少し高い身長としっかりした胸筋。
「あなたは私なんかを――抱いてくれるの?」
「なんかって…それこそ俺なんかが抱いていい人だとは思っていなかった…
 初めて見たときから、あなたに恋していました」
「ありがとう。うそでもうれしいわ」
「うそなんかじゃ…」
 今度は私から首に巻き付いてキスを奪った。

◇◇◇

 高村青年の部屋は、清潔というよりも、あまり物がなかった。
 ベッドと机、それにイーゼル。
 シンプルなシャツや下着などの洗濯物が外の干場で揺れていた。
 今日履いているものもそうだし、ハンガーにかかっているものもだけど、ジーンズよりチノクロスのパンツを好むタイプらしい。
 壁には、お隣の県の県庁所在地で少し前に開催された「グスタフ・クリムト展」のポスターが貼ってある。

(あ、そういえば、下着の上下がちぐはぐだったかも…)

 絶対にこの人と寝てはいけない(別れ話とか)というシチュエーションのときは、見られたら恥ずかしいような古い下着を着けろと言うのを、誰かのエッセーで読んだことがある。
 そのときは「なるほどな」と思ったけれど、抱きたい、抱かれたいと思ったとき、そこまで頭が回るものなのだろうか。

 閑話休題さておき
 私は「彼」しか知らないから、高村青年のじれったいような愛撫を、とても新鮮に感じた。
 よその男性というのは、こんなに優しく女の体を扱うものなのか?
 「彼」も昔はこうだったかもしれないが、忘れてしまった。
 ものすごく「喜ばせたい」って意図が伝わってくる愛撫だ。

 挿入の段になって、青年が少しだけ冷静になった。
「あ…でも俺今ゴムは…」
 私の扱いからして、童貞ではないだろうけれど、「今」って言葉が出てくるということは、日常的なお相手がいたことがあるか、現在進行形でいるかだ。
 今恋人がいるなら、私も寝取ったことになっちゃうんだな。悪いやっちゃ。

「ピルを飲んでるから。でも、一応気をつけて」
「分かりました…」

◇◇◇

「最高…です…」
「私もよ…」

 うそでもベッド上の社交辞令でもない。
 ああ、セックスっていいものだなあと思える交わりだ。

 罪悪感を持つべきだということは分かっている。
 「彼」が私をどんなふうに粗末に扱っていようと、人妻の分際でよその男性に抱かれるのは間違っている。
 でも私は堕ちたかった。青年には悪いけれど、一緒に堕ちてほしかった。

「あなた…名前は何というの?」
「…そんなことも…教えてなかったんですね…俺、高村…宗太です」
「そうた?」
「はい…俺はあなたを何と呼んだらいいですか?」
「じゃ…、まなみって…」
 
 私は無我夢中に名前を連呼する「宗太」と2人、夢見心地だった。
 こんな官能小説みたいなことって、本当にあるんだな。

◇◇◇

 約束の5時に家に帰るまでに、私は合計3度彼に抱かれた。
 彼が意外とたくましい体をしていたのは、高校時代水泳部だったかららしい。

「成績はさっぱりでしたが、設備の整った学校に行ってて。
 室内練習場でばかり泳いでいたから、体はなまっちろいけど」
 と、照れて笑っていた。

 衣類は一切身に着けず、トイレに立ったり飲み物をとりにいったりするときだけ、彼のダンガリーシャツを無造作に羽織った程度だった。
 ベッドに寝そべったり、半身だけ起こしたりして、体のどこかが必ず触れ合った状態で、目が合うとキスをし、会話を楽しむ――というよりも、直接の行為だけがアレではないのだと悟った。
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