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第7章 雨が止んだとしても
雨宿り
しおりを挟む新生児は1日の大半を寝て過ごすという。
ただし、主に寝ているのはなぜか日中で、夜中になると2、3時間おきに泣きながら目を覚ます。
せめて逆だったらなと思うけれど、「気づいた頃には夜通し寝るようになってくれた」とか、育児雑誌の投稿やウェブ記事で見かけた。
赤ちゃんにもよるけれど、大体半年前後でそういう状態になるらしい。
実際5、6か月になると、朝目が覚めて、「あ、ぶっ通しで眠れた」ということに気づき、感激した。
しかし折あしく、ちょうどその頃、彼が奥歯の痛みを訴えた。
多分親知らずなんだろうけど、顔の輪郭が細めなので横倒しに生えてきたらしく、磨きが不十分になったせいで虫歯になったのではないか、とのことだった。
夜中にたたき起こされ、「このあたり」とエラのあたりを指さし、「僕が寝付くまでマッサージしなさい」と言われた。
私も眠くて少し機嫌が悪かったので、「自分でやったら?」と言いながら無視して寝ようとしたら、今度は丸めた新聞紙でパシッと叩かれた。
「った…」
「そこまで頭悪いと思わなかったよ。「僕が寝付くまで」って言ったでしょ?自分でマッサージして、それが確認できると思う?」
よくわからない理屈だけど、「第三者がやらないと意味がない」と思っているのは確かなようだ。
知らず知らずに寝付いていれば、それでいいじゃんと思ったけれど、
「僕の痛みが引くか、寝付くか。どっちかまで、君はずっともんでなきゃだめだよ」
とのことだった。
私がしてきそうな口答えは全部想定してあるのか、
「女性は子供を産むと、「母親の体力」がついて、寝なくても平気になるっていうじゃない?」
などという、聞いたことねーわと言いたくなる理由で、「だから君に頼むんだ。合理的だろ?」とマッサージを強要された。
+++
「明日――時間休が取れるなら、歯医者さんに行った方がいいと思います」
「君なんかに…言われなくても…そう…」
全部言い終わる前にすーっと入眠し、私はそこでやっと解放された。
時計を見たら午前2時。6時には起きてお弁当と朝ごはん作らなきゃ。
(やった。4時間も眠れる!)
頭の悪い私が無い知恵を絞って行きついたコトの1つに、「彼には丁寧語を使う」というのがある。
1歳しか違わないし、高校時代からラフな口調で話してきたけれど、できるだけ丁寧な話し方をした方が、いろいろと立ち止まって考えるくせがつくので、言ったら怒らせそうなこと、喜びそうなことを吟味しやすくなるのだ。
彼は私が敬意を持って接していると判断したようで、ご満悦なご様子で何よりだ。
もしかすると私の結婚生活は、雨が降ったり止んだりではなく、ずっと雨が降った状態なのかもしれない。
例えばたい焼きがおいしかったこと、食べている姿絵を描いてくれた人との出会い、彼がごくたまに優しいことなどは、ちょっとした「雨宿り」に過ぎないのだろう。
雨、降り続いていてもいいから、せめて屋根のあるところに行きたいなあ。
娘ちゃんだけ連れて、しっかり施錠して、「彼」が入ってこられないようにできるなら、なおいい。
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