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第5章 星月夜の公園
スケッチ画
しおりを挟む連絡先の交換もできない、名前を聞くことすらためらわれた「給水池公園のスケブ青年」の正体は、意外なところから分かった。
彼の帰ってくるのを待ちきれずに寝てしまった翌朝、リビングの壁にスケッチ画が貼られていたのだ。
「どうして…」
それは、私がたい焼きをおいしそうに食べているところが描かれた例の絵だった。
「おはよう。それ、いい絵だろう?」
「あ…」
振り向くと彼は、これ以上ないほど朗らかに笑っていた。
「君、最近元気がないから心配だったけど、こんな顔ができるんだね」
+++
青年は、彼の大学時代の友達の、イラストサークルの後輩だそうだ。
彼は何らかの方法で、私がスーパーの帰りにあそこで休憩する習慣があることを知っていた。
そこで、あの近くに下宿をしていて、時々はスケッチもしている青年に私の写真を渡し、あくまで「妻の様子が心配だから、見かけることがあったら知らせてほしい」と頼んだ。
彼が私の姿をスケッチしたのも、話しかけたのも想定外だったようだ。
「おかげで僕は、君についてのいいレポートが聞けた上に、
こんな素敵な絵までもらった。
「奥さんが受け取らなかったので、もしよければ」だって。
なかなか気の利く男だね。
どうして君は受け取らなかったのかな?」
「だって…」
「知ってるよ。やましい気持ちがあったんでしょ?
しようがないね。
退屈していると、あんなぱっとしない男にまでときめいちゃうの?」
「ときめくって…」
「しかもたい焼きの買い食い?
「かわいい奥さんでうらやましい」なんてお世辞言われたけれどさ、
きっとああいう男は女房を甘やかして、
豚みたいに太っても許容するんだろうな
意識が低すぎるよね」
「違うよ!」
「何が違うんだ!ふざけるな!」
そう言うと、彼は私を突き飛ばし、背中や腰をたたいたり蹴ったり、髪の毛を引っ張ったりした。
「ちょっと目を離すと、そんなことをするんだね。
信じた僕が馬鹿だったよ――この、クソアマが!」
「痛い、痛いよ!やめて…お願い…っ!」
「君には出産まで、僕の実家に行っていてもらうからね。
君の実家にも、この不品行は伝えておくから、助けてを求めても無駄だよ。
残念でしたー」
彼の表情や態度は――考えすぎかもしれないけれど、妻の不貞に怒っているというよりも、妻の弱みを見つけ、責め立てる喜びの感情が勝っているように見えた。
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