初恋ガチ勢

あおみなみ

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第26章 メグは紛れもなく初恋の相手だ【メグと大輔】

初恋は実らない【大輔】

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お別れしてから、あの煙草屋の角のポストの処まで、無我夢中で私が走つたのを御存じですか。

岡本かの子『或る男の恋文書式』

◇◇◇

 事前に土産を買ったと言ってはあったが、「渡したいから店に行きたい」とメグに連絡したら、「私から行くので場所を指定してください」と返信があった。
 メグに会いたいのは当然としても、本当は紅茶を店長さんに直接渡したかったので、残念ではある。
(檜さんとはかなりスタンスは違うが、俺も割とメグの母親のファンなのだ)

 うちの学校の最寄り駅を指定して、部活の帰りに会うことにした。
 ここは一応快速はとまるが、あまり大きな駅ではない。出口が北と南の2カ所だけだし、乗降客の数もターミナルほどではない。幾らどんくさくても迷子になることはないだろうという判断からだった。
 大通りに出れば、時々部活の連中が行くファミレスがあるようだ。俺はあまり行かないが、そこに行って昼飯でも食わせてやろう。

「昼飯をおごってやるから、何も食わないでこいよ」

 と言ってはみたが、多分おごらせてはくれないだろう。
 実は俺はメグにきちんとおごったことがない。飲み物程度でも、軽くもみ合いになった後にやっと割り勘だったりする。

 この分だと付き合うようになっても割り勘ばかりだろうな(うれしい悩み)。

◇◇◇

 メグは約束の時間の5分前には、約束の場所にもう待っていた。

 赤いチェックのワンピースを着て、腕時計にちらっと目を落す姿を少し遠くから見たら、何だかいつもより大人びている気がした。
 少し小走りで近づいたら、「大輔さん!」と言いながら手を振ってくれた。
 駅に入っていこうとする部活や補習帰りの玉成の連中にじろじろ見られたが、メグのようにかわいい子と一緒にいて注目されるのは悪い気分ではない。

「おっ、待ったか?」
「いえ、来たばかりです」

 こいつの言う「来たばかり」が5分前か10分前かは知らないが、こいつならそう言うと思った。

「待たせておいて何だが、こんなところに長時間いたら日焼けしちまうぞ?構内とかにいればよかったのに」
「大輔さんにすぐわかるようにと思って。日焼け止め塗っているので大丈夫ですよ」

 押しつけがましくない、控えめな態度と笑顔。
 本当にこいつのカレシがうらやましい。
 檜さんの話では、最近うまくいっていないようだが、心の支えだと言いたくなる気持ちは理解できる。
 まだカレシでさえない俺でも、芽久美のことを思うと頑張れる。

 飯を食べた後、「どこか――2人だけでお話しできるところに行きたい」と言われ、心が少しはねたが、単に「大事な話がある」という意味だと解釈した。
 ならばとあずまやのある小さな公園に行ってみたら、幸い無人だった。

◇◇◇

 俺はプレゼントを渡しながら、正式に付き合ってほしいと言ったが、メグは「はい」でも「考えさせてください」でもなく、「……ごめんなさい」と言った。
 考えてみれば檜さんから「うまくいっていない」と聞いただけで、メグの気持ちをちゃんと聞いていたわけではない。

「――つまり、お前はカレシを選ぶんだな?」
「はい……」
「お前とはうまくいくと思ったんだがな……」
「ごめんなさい……」
「謝んなよ。お前がそう決めたなら、もう俺からは連絡しない。店にも行かない」
「……はい」
「だが、土産だけは受け取ってくれるな?」
「…ごめんなさい。それもいただけません」

 あの気を遣うメグがここまで言うのだ。決意は固いのだろう。

 「ありがとうございました。チャットとか――本当に楽しかったです」と言いながら、俺の顔を見もしないで去っていこうとするのを見て、たまらず後ろから抱きしめてしまった。
 小さくて細いから、抱いても俺の腕が回り切ってしまいそうだ。
 小さな頭から、メグらしいって思える感じのシャンプーの香り?が漂っていた。

「大輔――大倉さん?」
「“ダイスケ”って呼んでくれよ。カレシに飽きたら、いつでも俺に……」
「やめてください!そんなことされたら……」

 多分、小さなメグが渾身の力で俺の腕を振りほどき、走り去っていってしまった。
 運動は苦手なんだろう。走るフォームも残念な感じだし、すぐ追いつきそうだ。
 だが俺は、追いかける気にならなかった。

 そんなことされたら、なんだ?
 気が変わって俺を選んでくれるわけじゃないんだろう?
 何だよ…ったく。

◇◇◇

 答えを聞かなかったことにしてメッセージを送ってみたが、やはりブロックされていた。
 直接訪ねていこうかとも思ったが、「さすがにしつこくないか?」と気づき、ぐっとこらえた。

 あの書店で初めて会ったとき、「私をストーキングする物好きなんていませんよ」とメグは笑ったが、今の俺は心理的には十分ストーカーだ。
 それでも「彼女に選ばれなかったとしても、せめて嫌われたくない」という思いが足を止める。

 今までだって、気になる女子が全くいなかったわけではない。
 だが、1人の女の子をこんなに好きになったのは初めてだ。
 「ときめきUFO館」で初めて(無自覚に)出会っていたときから気になっていたのだから、メグは紛れもなく初恋の相手だ。

「ま、初恋は実らないっていうもんな…」

 ひょっとしてメグの初恋も俺だったのかもしれない。

 かわいくて、恥ずかしがりやで、律儀なあいつを気にする男子は今までいっぱいいたろうが、あいつの方から好きになったやつはいたんだろうか。

 やっぱりカレシがねたましいな。

 俺はカノジョが欲しかったんではなく、メグと付き合いたかった。
 メグの笑顔を自分だけのものだと思いたかった。

 が、こんなことで乱れたり崩れたりするなんてみっともないし、俺の柄じゃない。
 このやり切れない気持ちは、しばらくは部活と勉強で昇華しよう。
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