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第25章 それが私の「役割」だと思われてる、きっと。【メグと大輔】
失恋【メグ】
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あゝ恋が形とならない前 その時失恋をしとけばよかつたのです
中原中也『恋の後悔』
◇◇◇
カイが久しぶりに「会いたい」って言ってきてくれた。
2人だけでゆっくり話したいって言われたので、自宅に招いた。
それが夏休みに入ってすぐ、陸上部の集中合宿前のことだった。
いつでも気楽にありふれた雑談できるのが、私たちのいいところだったはずだけど、久々に会うので妙に緊張する。
ママはカフェの営業があってずっと店にいるので、一応「カイが来る」ということだけを伝えておいた。
◇◇◇
「芽久美んちに来るの、久しぶりだな」
「そうだね……付き合ってるのにね」
あ、しまった。イヤミ言ったみたいに聞こえてないかな。
カイは特にそれに反応せず、私の机の上のペン立てを見た。
「あ、あれって」
「そう。去年のクリスマスにもらったマグだよ」
「使ってくれてたんだな…ちょっとうれしいかも……」
語尾はぼそっと、消え入るような声だったけど、顔は確かにうれしそうなテレ顔だった。
それは外国の人気カートゥーンのキャラもので、残念ながらあんまり私の趣味じゃなかった。
でも何らかの形で使いたいなと思ったとき、思いついたのがペン立てだった。
(向きを考えて置いておけば、苦手なキャラを見えないようにしておける)
かなり大振りなので定規でもハサミでも立てられて、なかなか使い勝手がいい。
この使い方でも怒らせなくてよかった。
「今年は――誕生日のことすっかり忘れててすまん」
「いいよ、気にしないで。部活忙しかったんだし」
「いや、これからでも何か買って…」
「いいってば!」
「ほら、やっぱ怒ってんじゃん」
「怒ってなんか…」
今年は大輔さんにポーチをもらったことがうれしくて、正直カイが「おめでとう」とすら言ってくれなかったことも忘れていたくらいだった。
その罪悪感といらだちで、無自覚に声を荒らげていたらしい。
◇◇◇
「あのさ……俺、ちょっとウワサ聞いちまって…」
「ウワサ?」
「お前がテニス部の練習試合で来た玉成の選手にナンパされてたって」
「ナンパとか!そんなんじゃないよ」
「声かけられたことは否定しないのか?」
「うん、それは……」
そうか。今日はそれを聞きたくて来たのだろう。
カイは一拍置いてから聞いてきた。
「お前はそいつと付き合ってんのか?」
「え、付き合ってるわけないじゃん。だって私はカイと……」
「八つ当たりする、誕生日忘れる、テスト勉強も断るようなやつだぞ? お前実はバカだろ」
「いったい何が言いたいの?」
「俺さ、お前のことずっと好きだったし、今も好きだよ」
「私だって!」
「でも陸上も大事なんだ。納得いくタイム出せなきゃ、何のために続けてんのかわかんなくなりそうだなって」
「分かってるよ。だから私も応援して……」
「俺、とことん自分のことしか考えてないんだよな」
確かにその言葉どおり、私の言うことはさっきから無視され続けだ。
また一拍置いて、今度はかなり意を決したようにカイは言った。
「芽久美、俺たち別れよう」
「え……?」
「高等部入ってから、ちょっと考えてたんだ。合宿に入る前にけじめつけたくて今日来た」
「そんな……勝手すぎるよ!」
「すまん……全部俺が悪いんだ」
思えばカイはいつも勝手だった。
私のママを感情任せに侮辱して、ケロッと謝って、告白して。
前にこの部屋で一度だけキスしたときも、ムード作りも予告なしにいきなり来るから、てっきり頭突きでもされるかと思ったよ。
突然で私がびっくりしていたら、やっぱり「ごめん……」って謝った。
だから私は、そのときみたいに今度も「いいよ」って笑って許さなきゃならないんだろう。
それが私の「役割」だと思われてる、きっと。
「うん、わかった。今までありがとう。これからも頑張ってね、部活」
「……んだよ、すがってもくれないのかよ。もういいよ」
え?
カイはそれだけ言うと、振り向かずに家を出ていった。
ママが用意してくれたアイスフルーツティーに手もつけてない。
何だったんだ?今のは。
私は「自分がふられた」ということをはっきり自覚するのに、その後10分くらいかかったかも。
中原中也『恋の後悔』
◇◇◇
カイが久しぶりに「会いたい」って言ってきてくれた。
2人だけでゆっくり話したいって言われたので、自宅に招いた。
それが夏休みに入ってすぐ、陸上部の集中合宿前のことだった。
いつでも気楽にありふれた雑談できるのが、私たちのいいところだったはずだけど、久々に会うので妙に緊張する。
ママはカフェの営業があってずっと店にいるので、一応「カイが来る」ということだけを伝えておいた。
◇◇◇
「芽久美んちに来るの、久しぶりだな」
「そうだね……付き合ってるのにね」
あ、しまった。イヤミ言ったみたいに聞こえてないかな。
カイは特にそれに反応せず、私の机の上のペン立てを見た。
「あ、あれって」
「そう。去年のクリスマスにもらったマグだよ」
「使ってくれてたんだな…ちょっとうれしいかも……」
語尾はぼそっと、消え入るような声だったけど、顔は確かにうれしそうなテレ顔だった。
それは外国の人気カートゥーンのキャラもので、残念ながらあんまり私の趣味じゃなかった。
でも何らかの形で使いたいなと思ったとき、思いついたのがペン立てだった。
(向きを考えて置いておけば、苦手なキャラを見えないようにしておける)
かなり大振りなので定規でもハサミでも立てられて、なかなか使い勝手がいい。
この使い方でも怒らせなくてよかった。
「今年は――誕生日のことすっかり忘れててすまん」
「いいよ、気にしないで。部活忙しかったんだし」
「いや、これからでも何か買って…」
「いいってば!」
「ほら、やっぱ怒ってんじゃん」
「怒ってなんか…」
今年は大輔さんにポーチをもらったことがうれしくて、正直カイが「おめでとう」とすら言ってくれなかったことも忘れていたくらいだった。
その罪悪感といらだちで、無自覚に声を荒らげていたらしい。
◇◇◇
「あのさ……俺、ちょっとウワサ聞いちまって…」
「ウワサ?」
「お前がテニス部の練習試合で来た玉成の選手にナンパされてたって」
「ナンパとか!そんなんじゃないよ」
「声かけられたことは否定しないのか?」
「うん、それは……」
そうか。今日はそれを聞きたくて来たのだろう。
カイは一拍置いてから聞いてきた。
「お前はそいつと付き合ってんのか?」
「え、付き合ってるわけないじゃん。だって私はカイと……」
「八つ当たりする、誕生日忘れる、テスト勉強も断るようなやつだぞ? お前実はバカだろ」
「いったい何が言いたいの?」
「俺さ、お前のことずっと好きだったし、今も好きだよ」
「私だって!」
「でも陸上も大事なんだ。納得いくタイム出せなきゃ、何のために続けてんのかわかんなくなりそうだなって」
「分かってるよ。だから私も応援して……」
「俺、とことん自分のことしか考えてないんだよな」
確かにその言葉どおり、私の言うことはさっきから無視され続けだ。
また一拍置いて、今度はかなり意を決したようにカイは言った。
「芽久美、俺たち別れよう」
「え……?」
「高等部入ってから、ちょっと考えてたんだ。合宿に入る前にけじめつけたくて今日来た」
「そんな……勝手すぎるよ!」
「すまん……全部俺が悪いんだ」
思えばカイはいつも勝手だった。
私のママを感情任せに侮辱して、ケロッと謝って、告白して。
前にこの部屋で一度だけキスしたときも、ムード作りも予告なしにいきなり来るから、てっきり頭突きでもされるかと思ったよ。
突然で私がびっくりしていたら、やっぱり「ごめん……」って謝った。
だから私は、そのときみたいに今度も「いいよ」って笑って許さなきゃならないんだろう。
それが私の「役割」だと思われてる、きっと。
「うん、わかった。今までありがとう。これからも頑張ってね、部活」
「……んだよ、すがってもくれないのかよ。もういいよ」
え?
カイはそれだけ言うと、振り向かずに家を出ていった。
ママが用意してくれたアイスフルーツティーに手もつけてない。
何だったんだ?今のは。
私は「自分がふられた」ということをはっきり自覚するのに、その後10分くらいかかったかも。
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