初恋ガチ勢

あおみなみ

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第24章 【番外編】あの頃が一番楽しかったかもしれない。【メグと大輔】

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 少し古い話になる。あれは中学2年に上がったタイミングだった。
 芽久美の母ちゃんが、学校から結構近いトコでカフェをやっているって聞いてからは、朝練のたびに意識的にその店の前を通るようになった。
 したら、俺と全く同じようなことをしてる人がいることに気づいた。
 乗ってくる電車が一緒なんだけど、背が高くて脚が長いから、ささっと俺を抜いていっちまうんだ。
 それが高等部の檜聡二って先輩だった。

 俺は小学校から短距離やってた。英明に何とか合格して、陸上部で短距離を当然続けようって思ってたが、その当時、身長155、体重46キロ。2年になって頑張って伸びたけど、それでも161の49キロ。
 身長はまだ伸びる余地はあったと思うんだが、やっぱ小柄なのは短距離には不利だし、実際記録は伸び悩んでた。
 顧問の先生に、「小さくて身軽なのは長距離向きかもしれない」と言われ、思い切って5000に転向して、高等部に入った今もボチボチやってる。

 コンパスが大きい上に速歩きの檜先輩が、大抵の生徒が使う「英明通り」じゃなく、裏道の芽久美の家(てか母ちゃんの店)の前を通っているのを何で知ってるかっていうと、大体芽久美んちの前で追いつくからだ。
 先輩はいつもそこで足を止めて、きれいな女の人と話していた。
 顔を見てすぐ芽久美の母ちゃんだと分かった。
 いや、若くてきれいだとか授業参観でも話題にはなってたと思うんだけど、顔を見るたび「芽久美が大人になったような感じの人」っていつも思うレベルで似てるから。
 もちろん何話してるかは聞こえないんだが、楽しそうだってのは十分分かった。
 どっちかというと無表情な檜先輩も、その美人の母ちゃんも、すごくいい顔して笑ってたから。

 檜先輩は、どっちかというとあっさり目の顔なんだけど、何かこう落ち着いてて頭よくて、テニスも部内で3番目くらいに強いって話で、俺と同じクラスの女子にもファンがそこそこいた。
 芽久美と仲のいい三枝さえぐさって女子も、それでしょっちゅう騒いでたけど、会話に聞き耳立ててたら、芽久美は大畠おおはたミゲルって先輩のファンだと知った。

 芽久美は帰宅部だし、あんまりスポーツにも興味なさそうだったけど、三枝に付き合ってよくテニス部の練習を見てたみたいで、大畠先輩の「優しそうでいじられなところ」がいいって言ってたな。
 でもさ、大畠先輩は母ちゃんがブラジル人とかで、肌がつやつやに黒くてきりっとしてるし、スタイルもよくて、めちゃくちゃかっこいいんだ。
 大畠先輩を好きってやつは、大抵「優しい」「ちょっと間抜けだけどいい人」みたいに言うし、テニスも技の華やかさとかより、ダブルスでパートナーの菱沼ひしぬま先輩をうまくサポートしたり、むちゃくちゃ体力あったりってトコで評価が高いらしい。だからレギュラーの中でも割と地味なんだよね。
 多分だけど、大畠先輩って基本的にイケメンだからこそ注目されて、「地味な割に派手」くらいのポジションなんだと思う。

 つまり、大畠先輩があんなにイケメンじゃなかったら、芽久美だって興味持ったかどうかわからん。
 女ってやっぱりイケメンがいいんだろうなあ。
 芽久美の母ちゃんがあんなに笑顔だったのも、檜先輩がイケメンだからだろうな。

◇◇◇

 なんて思いながら朝練してから教室に行ったら、芽久美がバスケ部のかっこいい男子と笑いながら話してた。
 何か朝見た芽久美の母ちゃんのことを思い出して、ちょっとムカっとして、言わなくていいこと言っちゃってさ。
「おはよう、カイ」って芽久美からあいさつしてくれたのに、俺、それに返事もしないで、
「あーあ、母娘そろってイケメン好きかー」とか言っちゃって。
「…どういう意味よ、それ」
「誰かさんの母ちゃんが、高等部の檜先輩と楽しそうに話してたんだよなあ。ったく、ババアが高校生にデレデレするとか、みっともないと思わんのかね」
「は?」
「そういうのさ、「狂い咲き」っていうんだよね。はっずかし」

 いつものケンカなら、これを2倍3倍にしてガーッと言い返したんだろうけど、その日の芽久美は一味違った。
 猫がちょっかいかけるみたいな手つきになって、俺の顔をバンッてたたいて、「あんたにママの何がわかるのよ!」って涙目になって、そっから口利いてくれなくなったんだ。

◇◇◇

 昼になっても芽久美は俺を無視し続け、芽久美と仲のいい女子どもは俺をにらみ、俺と一緒に飯食ってた村上まで、「お前、桜井にちゃんと謝った方がいいよ」なんて言いやがる。
「やだね、何で俺が。手出したのは向こうだ」
「だってあんな言い方したら怒るだろ、フツー。大体桜井の母ちゃん、全然ババアじゃねえしさ」
「…だから嫌なんだよ」
「あん?」
「何でもねえよ」

◇◇◇

 その日、部活やって家帰って風呂入って飯食ったら、「やっぱり言い過ぎたな」って少し反省する気持ちになって、芽久美にLINEで謝った。

「今日はごめん。お前の母ちゃん、全然ババアだと思ってない。若いしキレイだと思う」

「私こそ叩いてごめんね。でも、私が怒ったのは、そんなことじゃないんだよね」

 そんなことじゃないって…?じゃ、なんで芽久美はあんなに怒ったんだ?
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