82 / 101
第22章 どっちにしても私、大倉さんに会いたかっただけなんだな。【メグと大輔】
勢いで【大輔】
しおりを挟む 朝井さんが俺のパーカーに手を掛けて、チャックを下ろし手を滑り込ませた時だった。
幻聴かもしれないけど、外から足音が近づいてくるのが聞こえた。
でもそれは幻聴ではなく、どんどんと大きくなってくる。
朝井さんもそれに気付いたようで、手の動きを止めた途端、ドアが勢いよく開けられた。
その向こう側には、さっき俺が名を呼んだ、愛しい人。
その後ろにはタケさんがスマホを握りしめ、この状況を見て目を丸くさせていた。
景は室内に入るなり、朝井さんの首根っこを掴んで俺の体から引き離す。
よろけながら立ち上がる朝井さんの胸倉に掴みかかり、右手に力を入れて拳を作ったから俺はぎょっとしたけど、俺よりも早くタケさんが止めに入った。
「わーっ、景ちゃん! さすがに殴るのはまずいよ!」
タケさんが二人を引き離している間に俺は上半身を起き上がらせ、乱れた息を整えた。
た、助かった……
パーカーのチャックを上げると、手首が痛んだ。なんだか捻ってしまったようだった。
景が俺の元に近づいて来て、俺の唇を親指で撫でた。
「大丈夫?」
低くて頼もしい声を聞いて、ようやく安心出来た。
うん、と頷くと景も安堵の表情を浮かべる。
見ると景の額にじんわりと汗が滲んでいて、酷く息切れしていた。
きっと俺の事を懸命に探していてくれたんだ。それが嬉しくて、今度は安堵の涙をほろりと流した。
朝井さんはそんな俺たちに向かって言い放った。
「よく分かったなぁ。ここだって」
景はピクリと方眉を動かすと、朝井さんに視線を移した。
「随分と探しましたよ。桜理は今頃あなたのマンションを訪れているはずです。タケがいなかったらここまでたどり着いてなかったでしょうね。交友関係が広いタケにいろんな方と連絡を取ってもらって、あなたと関係を持った男性達にたどり着きました。決まって出てくる店の名前はここでしたし、ここなら人に会わないですみますからね」
「へぇ」
朝井さんはタケさんの方をちらりと見る。タケさんはその冷たい視線に少したじろいたけれど、タケさんはスマホの画面を朝井さんに見せつけた。
「朝井さん! この事は誰にも言いませんl だから、このまま修介を開放してあげて下さい!」
画面には、俺の上に乗っかる朝井さんの姿があった。
朝井さんはぐっと唇をかんでから、もう一度景に視線を移して言い放った。
「ムカつくんだよな、お前のその目。事務所の力でここまで来れたようなもんだろ? 努力なんかしなくて才能だけで生きてるような奴って、俺本当に嫌いなんだよね」
「違いますっ!」
俺は自然と口から零れていた。そんな俺に景とタケさんは固まっていた。
「景はっ、才能だけでここまで来てるんじゃないんですっ! 言わないだけで、朝井さんが知らないだけで、見えないところで沢山努力してるんですっ! 俺は知ってます、景がいつもどれだけ頑張ってるのか……景の事、悪く言うのはっ、俺がっ許さないですから……っ」
早口になりながら言葉が溢れる俺の肩を、景は優しくポンポンと叩いて、ニコリとした。
そのまま俺を立ち上がらせると、手を引いて何も言わずに部屋を出ようとする景に、朝井さんは自嘲気味に笑った。
「いいよ。一発殴っても。俺お前の一番大事な人に嫌な思いさせちゃったんだぜ? 憎いだろ?」
「殴りませんよ」
景は冷酷に微笑して朝井さんを上から見下ろした。
「殴る価値も無い」
「……言うねえ」
「今度はこんな形じゃなくて、演技で勝負して下さいよ。まあ、僕が負けることは無いですけど」
「楽しみにしてる」
二人で意味深に微笑み合ってから、タケさんを先に部屋から出して、景は俺の手を引いてその場を後にした。
幻聴かもしれないけど、外から足音が近づいてくるのが聞こえた。
でもそれは幻聴ではなく、どんどんと大きくなってくる。
朝井さんもそれに気付いたようで、手の動きを止めた途端、ドアが勢いよく開けられた。
その向こう側には、さっき俺が名を呼んだ、愛しい人。
その後ろにはタケさんがスマホを握りしめ、この状況を見て目を丸くさせていた。
景は室内に入るなり、朝井さんの首根っこを掴んで俺の体から引き離す。
よろけながら立ち上がる朝井さんの胸倉に掴みかかり、右手に力を入れて拳を作ったから俺はぎょっとしたけど、俺よりも早くタケさんが止めに入った。
「わーっ、景ちゃん! さすがに殴るのはまずいよ!」
タケさんが二人を引き離している間に俺は上半身を起き上がらせ、乱れた息を整えた。
た、助かった……
パーカーのチャックを上げると、手首が痛んだ。なんだか捻ってしまったようだった。
景が俺の元に近づいて来て、俺の唇を親指で撫でた。
「大丈夫?」
低くて頼もしい声を聞いて、ようやく安心出来た。
うん、と頷くと景も安堵の表情を浮かべる。
見ると景の額にじんわりと汗が滲んでいて、酷く息切れしていた。
きっと俺の事を懸命に探していてくれたんだ。それが嬉しくて、今度は安堵の涙をほろりと流した。
朝井さんはそんな俺たちに向かって言い放った。
「よく分かったなぁ。ここだって」
景はピクリと方眉を動かすと、朝井さんに視線を移した。
「随分と探しましたよ。桜理は今頃あなたのマンションを訪れているはずです。タケがいなかったらここまでたどり着いてなかったでしょうね。交友関係が広いタケにいろんな方と連絡を取ってもらって、あなたと関係を持った男性達にたどり着きました。決まって出てくる店の名前はここでしたし、ここなら人に会わないですみますからね」
「へぇ」
朝井さんはタケさんの方をちらりと見る。タケさんはその冷たい視線に少したじろいたけれど、タケさんはスマホの画面を朝井さんに見せつけた。
「朝井さん! この事は誰にも言いませんl だから、このまま修介を開放してあげて下さい!」
画面には、俺の上に乗っかる朝井さんの姿があった。
朝井さんはぐっと唇をかんでから、もう一度景に視線を移して言い放った。
「ムカつくんだよな、お前のその目。事務所の力でここまで来れたようなもんだろ? 努力なんかしなくて才能だけで生きてるような奴って、俺本当に嫌いなんだよね」
「違いますっ!」
俺は自然と口から零れていた。そんな俺に景とタケさんは固まっていた。
「景はっ、才能だけでここまで来てるんじゃないんですっ! 言わないだけで、朝井さんが知らないだけで、見えないところで沢山努力してるんですっ! 俺は知ってます、景がいつもどれだけ頑張ってるのか……景の事、悪く言うのはっ、俺がっ許さないですから……っ」
早口になりながら言葉が溢れる俺の肩を、景は優しくポンポンと叩いて、ニコリとした。
そのまま俺を立ち上がらせると、手を引いて何も言わずに部屋を出ようとする景に、朝井さんは自嘲気味に笑った。
「いいよ。一発殴っても。俺お前の一番大事な人に嫌な思いさせちゃったんだぜ? 憎いだろ?」
「殴りませんよ」
景は冷酷に微笑して朝井さんを上から見下ろした。
「殴る価値も無い」
「……言うねえ」
「今度はこんな形じゃなくて、演技で勝負して下さいよ。まあ、僕が負けることは無いですけど」
「楽しみにしてる」
二人で意味深に微笑み合ってから、タケさんを先に部屋から出して、景は俺の手を引いてその場を後にした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる