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第21章 【番外編】テニス部の白い悪魔【メグと大輔】
ため息【聡二】
しおりを挟む俺は桜井千弦さんという素敵な女性と出会うまで、「もし好きな女性ができたら、どうアプローチするか」などと考えたこともなかったので、多分の話にはなるのだが、城でいえば搦め手から入るタイプだったろうと思う。たっぷり情報を収集し、意表を突く感じで背後を取るイメージというか。
その点羽鳥という男は、両手を元気に振り回し、大手門から堂々と入ってくるタイプのようだ。
練習試合から何日か経った平日のある日、突然学校にやってきて、「檜さん、芽久美ちゃんについて教えてください!」と来たもんだ。
「わざわざそのために来たのか?」
「はい。連絡先を知らないので、こうするしかないかと」
終始笑顔で悪びれずに言う羽鳥を、俺は扱いかねた。
「なぜ知りたい?」
「そりゃ、あの子はとてもかわいいし、いい子そうだから、
お付き合いできたらなって思いまして」
「…悪いが、それはできない」
「なぜですか?というか、檜さんは芽久美ちゃんの何なんですか?」
「芽久美ちゃんには既に付き合っている男がいるんだ」
「え…」
「それに彼女は、俺にとっては大事な女性の一人娘だ。こういうことは慎重に扱いたい」
羽鳥は少しだけぐっと目線を下げて、わずかに間を置き、「分かりました、俺帰ります。お邪魔しました」と去っていった。
意外と潔く諦めてくれたようだ。
◇◇◇
そのさらに数日後、玉成の部長・兵部という男が訪ねてきた。
そして部長の高田への挨拶もそこそこに、俺のところに近づいてきて、
「よお、先日はうちの羽鳥が迷惑をかけたそうだな」と言う。
「いや、そうでもないけどな」
「あいつはあの日、部活をサボったんだ」
「だろうな、平日のあの時間では」
「それで月島にこってりしぼられて反省したようだ」
「何よりだ」
「……」
何の用で来たのか知らないが、兵部が高田のところに行くでもなく、帰るでもない。
「兵部、俺にまだ何か用があるのか?」
「いや、羽鳥の件はそれで解決だが、そのとき気になる話を聞いたもんでな」
「気になる?」
「お前、人妻に恋してるのか?」
「は?」
「羽鳥がそんなことを言っていたんだが。それが本当なら、羽鳥に言う前に自分のことで慎重になった方がいいんじゃないかと思ってな」
あ、そういうことか。
「誤解もいいところだ。確かに俺の好きな人には子供がいるがシングルだ。人にとやかく言われるのは心外だな」
「それはまた――いいことを聞いちまった。さすが英明の参謀は選ぶ女も一味違うな」
「放っておいてくれ」
「じゃ、健闘を祈るよ」
それだけ言うと去っていったのだが、後日聞いた話によると「来客用駐車場に高級リムジンが場所ふさぎな感じで停まっていて、玉成高等部の制服を着た男前が乗り込んだ」とのことだった。
まったく。いろいろとTPOをわきまえないやつだ。
兵部はもともとそういうやつだからいいとして、羽鳥のことはプレーヤーとしてしかよく知らなかったが、礼儀正しく愛想もよく、単に感じのいい少年だと思っていた。
あの全く邪気のない笑顔を思い出し、ああいうやつを「白い悪魔」というのだろうとため息をついた。
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